上 下
61 / 67

番外編 逃がさないけどね ~一ノ瀬君side~ その18

しおりを挟む
「一ノ瀬君ごめんね?本当にごめんなさい。……本当の私は臆病でヘタレで…。一ノ瀬君よりも四つも年上なのに、全然年上らしくなくて。仕事ならちゃんと出来るのに。普段は本当ダメダメで。若くもないし、綺麗でもないし、可愛げもないし、何の取り柄もなくて…。
私が第三者だったら、一ノ瀬君と私じゃ不釣り合いだって思うから。だから身を引くべきなんじゃないかって思って…」

過呼吸気味になりながらも必死に言葉を紡ぐ彼女が愛しい。
恥も外聞もかなぐり捨てて、泣きながら縋りつく姿が意地らしい。

「それに怖かったの…。こんなダメダメな私を知られちゃったら、一ノ瀬君が私と付き合った事を後悔するんじゃないかって…とても怖かった。これ以上、好きになってから突き放されたら私…。自分がどうなっちゃうのか分からなくて。だから逃げ出したくなっちゃったの…」

臆病な彼女が不安にならないよう、今まで俺は最大限気持ちを伝えてきたつもりだったのだが。十分ではなかったのだろうか?そう問うと、彼女は痛みを堪えるように顔を歪ませた。

「それは…伝わってた。一ノ瀬君に愛されてるって。大事にされてるって。すごく伝わってきた。けど、そしたら今度は、その想い自体が本物じゃないんじゃないかって。別の感情を混じってるんじゃないかって不安になって…」

本当バカだな。彼女はどれだけ無自覚なんだろう?
若くない?……年齢差なんて実質たった三つだ。後十年もしたら、きっと気にもならなくなるというのに。
綺麗でもない?……俺から見たら誰よりも綺麗だ。たまに他の男も彼女に見惚れている時があるのに気付いてないのか?
可愛げもない?……こんな斜め上の面白い発想する可愛い人なんて今まで見た事がないぞ?
取柄がない?…あれだけ仕事ができるのに何をいってるんだ?細やかな気配りができて、謙虚で、真摯で。本当に取柄がなかったら、あんなにも多くの人に慕われる訳がないだろう?

ダメダメなのがバレたら俺が後悔する?突き放す?……そんな事あるわけないのに。きっと俺の気持ちの百分の一も伝わっていないんだろうな。

「本当馬鹿だなぁ、真緒さんは。不要な心配ばかりして。あの時も言いましたけど、どんな感情が混ざってようと、俺が真緒さんを愛しているという事実は変わりませんよ。他の感情はトッピングみたいなもんです。寧ろトッピングがあった方がお得な気がしません?量が増える訳ですし。……ほら、あまり擦ると腫れちゃいますよ?」

そう言って、俺は彼女の赤く腫れあがっている瞼に優しく口付けた。


「あ~あ。こんなにぐちゃぐちゃになるまで泣いちゃって。本当可愛いですね、真緒さんは。
真緒さんがあり得ないくらい自己評価が低くて、吃驚びっくりするくらい臆病で、甘えたで、泣き虫で、我儘で、悲観的で、ものすっごく面倒臭くて、全然年上らしくない事なんかとっくに知ってますよ。そんなの今更です。そんな所をひっくるめて、俺は真緒さんが好きなんですよ。分かります?」

そう。そんな事は百も承知なんだ。そんなところも好きなんだ。だから、俺が彼女に幻滅する事なんてあり得ないんだ。

泣きじゃくる彼女を宥めるようにそっと頭を撫でる。すると彼女はいつものように俺の手に擦り寄ってきた。今までと変わらないやり取りに愛しさが込み上げ、俺は彼女の顔中にキスの雨を降らせたのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

新米社長の蕩けるような愛~もう貴方しか見えない~

一ノ瀬 彩音
恋愛
地方都市にある小さな印刷会社。 そこで働く入社三年目の谷垣咲良はある日、社長に呼び出される。 そこには、まだ二十代前半の若々しい社長の姿があって……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

エリート課長の脳内は想像の斜め上でした!? ~一夜の過ちにはしてもらえなかった話~

えっちゃん
恋愛
飲み会に参加した夜、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。 普段は冷静沈着な課長の性癖をくすぐり、執着されたらしい私には彼の思考は斜め上過ぎて理解不能です。 性描写がある話には*がついています。 シリアスにみせかけた変態課長との純愛?話。 前半はヒロイン視点、後半は課長視点。 課長は特殊な変態です。 課長視点は下品で変態描写が多いため、苦手な方はごめんなさい。 他サイトにも投稿しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

お前を必ず落として見せる~俺様御曹司の執着愛

ラヴ KAZU
恋愛
まどかは同棲中の彼の浮気現場を目撃し、雨の中社長である龍斗にマンションへ誘われる。女の魅力を「試してみるか」そう言われて一夜を共にする。龍斗に頼らない妊娠したまどかに対して、契約結婚を申し出る。ある日龍斗に思いを寄せる義妹真凜は、まどかの存在を疎ましく思い、階段から突き落とす。流産と怪我で入院を余儀なくされたまどかは龍斗の側にはいられないと姿を消す。そこへ元彼の新が見違えた姿で現れる。果たして……

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

処理中です...