58 / 67
番外編 逃がさないけどね ~一ノ瀬君side~ その15
しおりを挟む
その後、午後八時から始まった切替工事は、予想外のトラブルに見舞われ、全行程終了したのは翌日の昼過ぎだった。
ここまでトラブる事など滅多にないのに何故今回に限って…。神様、やっぱりちょっと酷くないですか?俺何かしましたっけ?
どうにか無事工事を終えた俺達は、宿泊先のホテルへと戻った。原口さんやベンダーさん達は、皆これから睡眠タイム。
だが俺には、少しでも早く…できれば今夜中に、例の作戦を実行するという使命がある。
俺はホテルに戻るとすぐさま荷物を持ってチェックアウトをし、空港へと急いだ。オフシーズンだからか空席は簡単に見つかり、次の便で羽田へと発つ。
そうして、羽田に着いたのが午後五時半過ぎ。注文してあった作戦遂行の必需品を銀座で受け取ったのが午後七時頃。そして、彼女のマンションについたのが午後七時半過ぎ。
彼女が今日定時で上がったのは既に調査済みだ。きっと彼女は部屋にいる。
俺は逸る気持ちを抑えつつ、彼女の部屋のインターフォンを押した。……が、応答がない。何度押しても応答なし。
――え?またいないの?
出鼻を挫かれ、心が折れかけた。だが、ここで諦めるわけにはいかない。今日こそ、彼女に会うんだ。彼女が帰って来るまで何時間でも待ってやる!そう覚悟を決めて、俺はマンションのエントランスで彼女を待つ事にした。
それから一時間もしないうちに、彼女は帰ってきた。
俺を見て大きく目を瞠ると「い…ちのせくん?」と俺の名を呼び、嬉しそうに破顔した。しかし、次の瞬間。
「……ううん。ここに一ノ瀬君がいる筈ないわ…。だって、まだ沖縄にいる筈だもの…」
そう訝しげに呟いた。そして、顎に手を当てながら首を傾け、うんうんと唸り始める。やがて、思いついたように顔を上げると、そっくりさんか!と納得したように頷いた。
……え?…いや、本物ですけど?真緒さんに会う為に帰ってきたんですよ?
あまりに斜め上の発想過ぎて、俺は唖然として固まった。
一応、彼女の名誉の為にフォローをすると、仕事の時の彼女はいたって常識的だ。理路整然としていて、こんなふうに頓珍漢な事なんて一切言わない。ただ…プライベートの時の彼女がポンコ…想像力豊かなだけで…。
その間も、彼女はまじまじと俺を見ながら、何やらブツブツと呟いていた。
「…でも…一ノ瀬君は一人っ子だって言ってから双子じゃないし…それに、さすがに私も好きな人を見間違えたりはしないと思うのよね……」
『好きな人』。その台詞に疲れも眠気もぶっ飛んだ。
彼女の言葉に甚く感動していると、それを彼女自身がぶち壊しにした。「まさか!生霊!?」と素っ頓狂な声を上げたのだ。しかもその上、恐る恐る俺の足元を見下ろして「足がある!」と驚いた。
……は?生霊って、何?…てか、足は普通にあるけど。……え?俺は嫉妬深過ぎて生霊になっちゃった、源氏物語に出てくる六条の御息所みたいだと思われてるの?…まあ、確かに嫉妬深いけど。それは否めないけど。でもその場合、普通なら嫉妬対象者の前に現れるんじゃないの?少なくとも彼女の前じゃないよね?
全く意味が分からなかったが。彼女の気持ちを知る事ができて心に余裕の生まれた俺は、彼女が本物の俺だと気付くまで放置す…温かく見守る事にした。
「う~ん。足があるし、生霊じゃないみたいね……え?じゃあ幻?…私大丈夫かしら?一ノ瀬君に会いた過ぎて幻をみるとか、既に末期症状じゃない」
そう口の中で呟きながら、彼女はゆっくりと俺の方に歩み寄ってきた。俺の頬に触れ、感触を確かめるようにムニムニと手を動かして首を捻る。その後、暫く黙り込んだかと思うと、突然我に返ったように声を上げた。
「えっ!本物の一ノ瀬君?…どうして、ここに?」
ここまでトラブる事など滅多にないのに何故今回に限って…。神様、やっぱりちょっと酷くないですか?俺何かしましたっけ?
どうにか無事工事を終えた俺達は、宿泊先のホテルへと戻った。原口さんやベンダーさん達は、皆これから睡眠タイム。
だが俺には、少しでも早く…できれば今夜中に、例の作戦を実行するという使命がある。
俺はホテルに戻るとすぐさま荷物を持ってチェックアウトをし、空港へと急いだ。オフシーズンだからか空席は簡単に見つかり、次の便で羽田へと発つ。
そうして、羽田に着いたのが午後五時半過ぎ。注文してあった作戦遂行の必需品を銀座で受け取ったのが午後七時頃。そして、彼女のマンションについたのが午後七時半過ぎ。
彼女が今日定時で上がったのは既に調査済みだ。きっと彼女は部屋にいる。
俺は逸る気持ちを抑えつつ、彼女の部屋のインターフォンを押した。……が、応答がない。何度押しても応答なし。
――え?またいないの?
出鼻を挫かれ、心が折れかけた。だが、ここで諦めるわけにはいかない。今日こそ、彼女に会うんだ。彼女が帰って来るまで何時間でも待ってやる!そう覚悟を決めて、俺はマンションのエントランスで彼女を待つ事にした。
それから一時間もしないうちに、彼女は帰ってきた。
俺を見て大きく目を瞠ると「い…ちのせくん?」と俺の名を呼び、嬉しそうに破顔した。しかし、次の瞬間。
「……ううん。ここに一ノ瀬君がいる筈ないわ…。だって、まだ沖縄にいる筈だもの…」
そう訝しげに呟いた。そして、顎に手を当てながら首を傾け、うんうんと唸り始める。やがて、思いついたように顔を上げると、そっくりさんか!と納得したように頷いた。
……え?…いや、本物ですけど?真緒さんに会う為に帰ってきたんですよ?
あまりに斜め上の発想過ぎて、俺は唖然として固まった。
一応、彼女の名誉の為にフォローをすると、仕事の時の彼女はいたって常識的だ。理路整然としていて、こんなふうに頓珍漢な事なんて一切言わない。ただ…プライベートの時の彼女がポンコ…想像力豊かなだけで…。
その間も、彼女はまじまじと俺を見ながら、何やらブツブツと呟いていた。
「…でも…一ノ瀬君は一人っ子だって言ってから双子じゃないし…それに、さすがに私も好きな人を見間違えたりはしないと思うのよね……」
『好きな人』。その台詞に疲れも眠気もぶっ飛んだ。
彼女の言葉に甚く感動していると、それを彼女自身がぶち壊しにした。「まさか!生霊!?」と素っ頓狂な声を上げたのだ。しかもその上、恐る恐る俺の足元を見下ろして「足がある!」と驚いた。
……は?生霊って、何?…てか、足は普通にあるけど。……え?俺は嫉妬深過ぎて生霊になっちゃった、源氏物語に出てくる六条の御息所みたいだと思われてるの?…まあ、確かに嫉妬深いけど。それは否めないけど。でもその場合、普通なら嫉妬対象者の前に現れるんじゃないの?少なくとも彼女の前じゃないよね?
全く意味が分からなかったが。彼女の気持ちを知る事ができて心に余裕の生まれた俺は、彼女が本物の俺だと気付くまで放置す…温かく見守る事にした。
「う~ん。足があるし、生霊じゃないみたいね……え?じゃあ幻?…私大丈夫かしら?一ノ瀬君に会いた過ぎて幻をみるとか、既に末期症状じゃない」
そう口の中で呟きながら、彼女はゆっくりと俺の方に歩み寄ってきた。俺の頬に触れ、感触を確かめるようにムニムニと手を動かして首を捻る。その後、暫く黙り込んだかと思うと、突然我に返ったように声を上げた。
「えっ!本物の一ノ瀬君?…どうして、ここに?」
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。
どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。
婚約破棄ならぬ許嫁解消。
外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。
※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。
R18はマーク付きのみ。
腹黒御曹司との交際前交渉からはじまるエトセトラ
真波トウカ
恋愛
デパートで働く27歳の麻由は、美人で仕事もできる「同期の星」。けれど本当は恋愛経験もなく、自信を持っていた企画書はボツになったりと、うまくいかない事ばかり。
ある日素敵な相手を探そうと婚活パーティーに参加し、悪酔いしてお持ち帰りされそうになってしまう。それを助けてくれたのは、31歳の美貌の男・隼人だった。
紳士な隼人にコンプレックスが爆発し、麻由は「抱いてください」と迫ってしまう。二人は甘い一夜を過ごすが、実は隼人は麻由の天敵である空閑(くが)と同一人物で――?
こじらせアラサー女子が恋も仕事も手に入れるお話です。
※表紙画像は湯弐(pixiv ID:3989101)様の作品をお借りしています。
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
桜井 響華
恋愛
リゾートホテルから高級ホテルに栄転になった恵梨奈は毎日の様に失敗の連続だった。
職場の同僚からも呆れられ、その上、栄転との妬みもあり、些細な意地悪が続くようになって来たある日、支配人室に呼び出される。
呼び出された事がきっかけで、毎日の生活が変化して行くが───!?
仕事上では怒られてもプライベートは溺愛?
振りまかれた甘い毒牙からは逃げられない……。
【R18描写がある章は*印がついています】
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる