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番外編 逃がさないけどね ~一ノ瀬君side~ その11

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「え?コイツそんな事したの?」
「そうなのよ!しかも私、その場に置き去りにされたんだよ!酷い話でしょ?」
「そりゃ、ひでぇー。っていうか、その勘違いされた相手の男もポカーンだよな?」
「すごい可哀想だったわよ。周りからは『え?修羅場?』って感じの目でジロジロ見られてたし」
「うっわ、悲惨。一ノ瀬って意外と嫉妬深いんだな?」
「本当に。…正直ドン引きよ」

SNS映えしそうな創作料理の数々を前にして、現在俺の悪口大会が開催されている。
主催者、原口さん。参加者、中村と俺。

事情を知らない中村の為に、原口さんがわざわざ声色まで変えて、先日の出来事を再現してみせたのだ。案の定、中村は腹を抱えて笑っている。…マジで勘弁して欲しい。

今日は俺の奢りだからと、原口さんはこの店で一番高い大吟醸酒をバカすか飲むし、料理も食べたい物を片っ端から注文している。全く容赦がない。

……まあ俺が悪いんだけど。完全に俺が悪いんだけど。…でもさ、少しくらい遠慮してくれてもいいんじゃないだろうか?
その隣で気遣うように俺を見てくる中村が天使に見える。


中村と俺は、部署こそ違えど、同期の中では一番仲がいい。
原口さんに誰か誘えと言われた時、真っ先に思い付いたのがコイツだ。元高校球児だからか、中村はチャラい見た目に反して、根はすごく真面目。仕事も真面目にこなすし、人の信頼を裏切るような真似は絶対にしない。
だからもし、彼女との仲がバレても、コイツなら大丈夫だろうと踏んで声を掛けたのだ。

因みに中村は入社当時から原口さん狙いだから、原口さんが来ると言えば、絶対に断らないだろうと思ったのも、今回コイツを選んだ理由の一つ。


「ねえ、一ノ瀬君。結局あの後どうなったの?やっぱ揉めた?……案外別れ話に発展してたりして?」

原口さんの鋭い指摘に心臓が止まるかと思った。不自然に動きを止め、顔を強張らせた俺を見て、二人は当時に声を上げた。

「「え?マジで!?」」

何でハモるかな…?人の心の傷を抉りやがって!

「あ、でも別れてはないから。ちょっと距離をあけようかってなっただけで…」

「え?…それって完全にフェードアウトされる流れだよね?」

「いや違うし。第一、距離を開けようって言ったの俺だから。別のあっちが言ってきたわけじゃないし」

「ん?一ノ瀬君は別れたくはないんだよね?あんなみっともなく嫉妬する程、彼女さんの事が大好きなんだし。なのに何でそんな事言ったの?そもそもあっちは何て言ってたの?」

何て言ってたって…。そりゃ、別れ話をされたけど。でもあれは彼女の本心ではない筈で…。

「まあまあ、原口さん。きっと一ノ瀬なりにいろいろ考えたんだよ。それでお互い一度距離を置いて冷静になった方がいいと思ったんじゃないの?」

中村の言葉に俺が大きく頷くと、原口さんは納得がいかない顔をした。

「そうなのかも知れないけど…。でも、きっとソレ、いい結果には繋がらないと思うよ?彼女さんってすごく誠実そうな人だけど、女だからね?女って、彼氏と上手くいってない時とか、弱っている時に優しい声かけられると弱いから。案外簡単によろめいちゃったりするかもよ?」

「よろめくって…。彼女はそんな女じゃないよ。昔いろいろあって、ずっと恋愛から遠ざかっていたくらいだし。そもそも俺と付き合ってくれたのだって…」

「ちょっと待て!何だ?その『付き合ってのだって』って。お前何言ってんの?一ノ瀬らしくもない。マジで何よ?その付き合ってもらってる感。そんな関係上手くいきっこないだろ」

さっきまで俺の肩を持っていてくれた筈の中村が突然いきり立った。

「……いや、実際対等じゃないし。付き合い始めた切っ掛けだって、俺が強引に迫ったからで…」

「強引に迫ったって…。一ノ瀬君、一体何したの?」

「要するに、強引にヤったって事だろ?まさか、力づくで無理矢理ヤッたわけじゃないよな?だったら、友達の縁切るぞ?」

責めるような二人の視線に耐え切れず、俺は彼女と付き合い始める少し前から現在に至るまでの経緯を、洗いざらい全て吐いたのだった。
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