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番外編 冷たい視線 その12
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「あ~あ。こんなにぐちゃぐちゃになるまで泣いちゃって。本当可愛いですね、真緒さんは。
真緒さんがあり得ないくらい自己評価が低くて、吃驚するくらい臆病で、甘えたで、泣き虫で、我儘で、悲観的で、ものすっごく面倒臭くて、全然年上らしくない事なんかとっくに知ってますよ。そんなの今更です。そんな所をひっくるめて、俺は真緒さんが好きなんですよ。分かります?」
一ノ瀬君はとても優しい手つきで私の頭を撫でながらそう言った。その手の温もりを再び感じられた事が嬉しくて、私は甘えるようにその手に擦り寄った。
一ノ瀬君は嬉しそうに破顔すると、両手で私の頬を包み込み、私の顔中にキスの雨を降らせた。
「…怒ってないの?」
「何で怒るんです?確かにちょっと虚しくなったんで拗ねちゃいましたけど。元々怒ってはいませんよ」
「えっ?でも…怒ってたから、別れ話を受け入れたんじゃ…」
「はあ!?俺、別れ話を受け入れた記憶なんかありませんけど!真緒さんは、俺と別れたつもりでいたんですか?」
責められるように問い詰められ、私は軽いパニック状態に陥った。
「えっ?だってあの時、私が別れ話を持ち掛けたら『分かりました』って言ってたし。しかもその後、一人で部屋を出てっちゃったし。次の日の夜になっても帰って来なかったし。だから…」
どうやら私は盛大な勘違いをしていたようで、結局一ノ瀬君を怒らせてしまった。
「あれはそういう意味での『分かりました』じゃありません!勝手に勘違いしないで下さい!しかも俺、『距離をあけましょう』としか言ってませんよ!
大体、貴女がいつまでも意地張ってるからいけないんですよ!どう考えたって俺の事が好きなくせに、認めようともしないし。今回の事だって、真緒さんがとても辛そうだったから、見るに見かねて距離をあける提案をしたんですよ!まったく。俺から離れられるわけがないのに無理しちゃって。どうせ、また一人でろくでもないない事考えてたんでしょ?」
「ろくでもないって…。ねえ、前から思ってたけど、一ノ瀬君てすっごい自信家だよね?」
「そうでもなけりゃ、真緒さんと一緒にはいられませんよ」
ぐうの音も出なかった。
確かに私は悲観的だ。自分に自信がないから、すぐに落ち込むし、後ろ向きになる。そんな私には、楽天的で自信家な一ノ瀬君が合っているのかも知れない。
……でも、何もそこまではっきり言わなくてもいい気がする。
俯きながら不貞腐れている私の頭上で、一ノ瀬君が小さく吹き出した。ムッとして顔をあげると、今度は爆笑し始めた。
こうして私をイジっている時の一ノ瀬君は、本当に楽しそうだ。いつも楽しくて堪らないっていう顔をして揶揄ってくる。
「ねえ一ノ瀬君。一つ聞いてもいい?」
「何です?」
「一ノ瀬君にとっての『幸せ』って何?実は紗耶香にすごく怒られちゃって…。私、一ノ瀬君の『幸せ』を勝手に決めつけちゃっていたから。だから本人に直接確かめようと思ったの。ねえ、一ノ瀬君はどんな時に『幸せ』を感じるの?」
「俺にとっての『幸せ』ですか?」
一ノ瀬君は一瞬逡巡した後、悪そうな笑みを浮かべて私の顔を覗きこんだ。
「それって正直に答えたら、なんか特典でも付いてくるんですか?」
「特典?特典かどうかは分からないけれど。私ができる事なら何でもするよ。一ノ瀬君の『幸せ』がきっと私の『幸せ』だから」
「じゃあ、何の問題もないですね」
問題がないとは?どういう意味か。
首を傾げた私の腕を引いて、一ノ瀬君は私をベッドの上に座らせた。そして私の前で跪くと、ポケットの中から黒いビロード地で作られた小さな箱を取り出し、私の前へと差し出した。
「じゃあ真緒さん。俺の『幸せ』の為にも、貴女の『幸せ』の為にも、俺と結婚してください」
一ノ瀬君は蕩けるような笑みを浮かべながらそう言った。
真緒さんがあり得ないくらい自己評価が低くて、吃驚するくらい臆病で、甘えたで、泣き虫で、我儘で、悲観的で、ものすっごく面倒臭くて、全然年上らしくない事なんかとっくに知ってますよ。そんなの今更です。そんな所をひっくるめて、俺は真緒さんが好きなんですよ。分かります?」
一ノ瀬君はとても優しい手つきで私の頭を撫でながらそう言った。その手の温もりを再び感じられた事が嬉しくて、私は甘えるようにその手に擦り寄った。
一ノ瀬君は嬉しそうに破顔すると、両手で私の頬を包み込み、私の顔中にキスの雨を降らせた。
「…怒ってないの?」
「何で怒るんです?確かにちょっと虚しくなったんで拗ねちゃいましたけど。元々怒ってはいませんよ」
「えっ?でも…怒ってたから、別れ話を受け入れたんじゃ…」
「はあ!?俺、別れ話を受け入れた記憶なんかありませんけど!真緒さんは、俺と別れたつもりでいたんですか?」
責められるように問い詰められ、私は軽いパニック状態に陥った。
「えっ?だってあの時、私が別れ話を持ち掛けたら『分かりました』って言ってたし。しかもその後、一人で部屋を出てっちゃったし。次の日の夜になっても帰って来なかったし。だから…」
どうやら私は盛大な勘違いをしていたようで、結局一ノ瀬君を怒らせてしまった。
「あれはそういう意味での『分かりました』じゃありません!勝手に勘違いしないで下さい!しかも俺、『距離をあけましょう』としか言ってませんよ!
大体、貴女がいつまでも意地張ってるからいけないんですよ!どう考えたって俺の事が好きなくせに、認めようともしないし。今回の事だって、真緒さんがとても辛そうだったから、見るに見かねて距離をあける提案をしたんですよ!まったく。俺から離れられるわけがないのに無理しちゃって。どうせ、また一人でろくでもないない事考えてたんでしょ?」
「ろくでもないって…。ねえ、前から思ってたけど、一ノ瀬君てすっごい自信家だよね?」
「そうでもなけりゃ、真緒さんと一緒にはいられませんよ」
ぐうの音も出なかった。
確かに私は悲観的だ。自分に自信がないから、すぐに落ち込むし、後ろ向きになる。そんな私には、楽天的で自信家な一ノ瀬君が合っているのかも知れない。
……でも、何もそこまではっきり言わなくてもいい気がする。
俯きながら不貞腐れている私の頭上で、一ノ瀬君が小さく吹き出した。ムッとして顔をあげると、今度は爆笑し始めた。
こうして私をイジっている時の一ノ瀬君は、本当に楽しそうだ。いつも楽しくて堪らないっていう顔をして揶揄ってくる。
「ねえ一ノ瀬君。一つ聞いてもいい?」
「何です?」
「一ノ瀬君にとっての『幸せ』って何?実は紗耶香にすごく怒られちゃって…。私、一ノ瀬君の『幸せ』を勝手に決めつけちゃっていたから。だから本人に直接確かめようと思ったの。ねえ、一ノ瀬君はどんな時に『幸せ』を感じるの?」
「俺にとっての『幸せ』ですか?」
一ノ瀬君は一瞬逡巡した後、悪そうな笑みを浮かべて私の顔を覗きこんだ。
「それって正直に答えたら、なんか特典でも付いてくるんですか?」
「特典?特典かどうかは分からないけれど。私ができる事なら何でもするよ。一ノ瀬君の『幸せ』がきっと私の『幸せ』だから」
「じゃあ、何の問題もないですね」
問題がないとは?どういう意味か。
首を傾げた私の腕を引いて、一ノ瀬君は私をベッドの上に座らせた。そして私の前で跪くと、ポケットの中から黒いビロード地で作られた小さな箱を取り出し、私の前へと差し出した。
「じゃあ真緒さん。俺の『幸せ』の為にも、貴女の『幸せ』の為にも、俺と結婚してください」
一ノ瀬君は蕩けるような笑みを浮かべながらそう言った。
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