※R18 私との恋は本気ではなかったということでしょうか?

キリン

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そんな風に言ってくれるのは 貴方だけですよ?

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高遠母に圧倒され、私は彼女が去った後も、暫くの間、呆然と玄関のドアを見つめていた。
高遠の深い溜息で我に返ると、今度は笑いがこみ上げてきた。

「…フフッ…とても素敵なお母様だったわね?佑がそういう性格に育った理由が、何となく分かった気がするわ。
それにしても佑って、すごくご家族に愛されてるのね?だって、佑にがいたとしても、受け入れようとしていた訳でしょ?しかも、佑の幸せの為に、を自分達の養子に迎えることまで考えていただなんて、なかなかできることじゃないわよ?…フフフッ。理解力があり過ぎるというか何というか…フフッ。
ごめん!もう無理!笑いが止まんない!アハハハ!さっきだって、お母さん的には私に聞こえないように内緒話をしてたつもりだったんだろうけど、普通に全部聞こえてたし!面白すぎ!
私、佑のお母さん好きだわぁ!すっかりファンになっちゃった!」

「だから、嫌だったんだよ…。お前に会わせるの。
うちの家族マジで変なんだって!言っとくけど、母ちゃんなんて全然マシだからな?父ちゃんや姉ちゃん達なんて、もっとやべーから。
まあ、家族に大事にされてるっていうか、可愛がられてるとは思うけど…。でも、理解があるってのとはちょっと違うんだよ。子供扱いされてるつーか…」

「末っ子だからじゃない?」

「いや、限度があるだろ。俺、27もうだぜ?それなのによ、父ちゃんなんて、未だに『知らない人にはついていくな』とか『道路渡る前はちゃんと左右を確認しろ』とか言うんだぜ?俺は幼稚園児かっての!
お盆に帰省した時なんか、朝四時に叩き起こされて、無理矢理近所の川まで釣りに連れていかれたし。あの時はマジで埋めてやろうかと思ったわ。
姉ちゃん達も姉ちゃん達でえげつねーし。つーか、そもそも母ちゃんが今日ここにいたこと自体、おかしいわ!チクショウ!あいつら絶対ぇ許さねー!」

どうやら高遠は、私と母親が鉢合わせするのを防ぐべく、お姉さん達を買収していたらしい。母親の動向を探り、情報を横流してもらう約束で貢ぎ物を贈ったのだという。限定商品を強請られ、時間とお金を使ってどうにか手にいれたというのに約束が違うと、高遠は腹を立てていた。
家族絡みだからか、子供のように拗ねた顔で不満を漏らす高遠の姿が、可愛くて可笑しくて、私はまた少し笑ってしまった。


それから私達は一緒に夕食を食べ、ベッドの前に座って、まったりと寛くつろいでいた。
ふと視界にキャリーケースが入り、高遠が今日出張から戻って来た事を思い出した。

「…そういえば、どんなトラブルがあったの?トラブルがあったから直帰しないで会社に寄ったって聞いたけど」

そう問うと、高遠は視線を逸らして「別に大したことじゃねーよ」とぶっきら棒に答えた。

(最近、分かってきたけど。佑って何か誤魔化そうとする時、必ず視線を逆方向に逸らすのよね。きっとこういう分かり易い癖が、ご家族に子供扱いされる原因なんじゃないかしら?)

その後、何度か繰り返し尋ねてみたが、高遠が口を割ることはなかった。訊き出すのを諦めた私は、高遠の背後に回り、大きな身体をムギュッと抱きしめた。

「……えっ?何これ、どういう意図?お前一体何してんの?」

「えっ?私が落ち込んでいると、佑がよくこうしてくれるでしょ?こうされると、私はいつも安心して幸せな気分になるし、とても癒されるから。だから、佑にも同じことしているんだけど。ねえ、どう?安心しない?」

「…いや、胸が当たって、ある意味幸せな気分になるけど……でも俺はこっちのがいいわ」

そう言いながら高遠は私の手首を引っ張り、自分と私の位置を入れ替えた。そして今度は、高遠が背後から私を包みこむように抱き締める。

「もしもし佑君?これじゃあ、私が癒されちゃうんですけど?」

高遠は振り返ろうとする私の頭の天辺に顎を乗せて動きを阻み、「俺はこっちのが癒される」と呟いた。

「え?癒し効果が薄い?じゃあ、マッサージは?これでもなかなかの腕前なんだから!」

背後から抱き締める回復術の癒し効果が薄いとなれば、残る手は実家の母が大絶賛したマッサージ回復術だろう。特別に腕前を披露してあげようじゃないかと笑っていうと、高遠は私のうなじに触れるだけのキスをした。

「もしもし佑君?そういうのは、もう少し遅い時間の方がよろしいのではないかと……あ!じゃあ、お風呂沸かそう!」

立ち上がろうとする私の動きを阻むように、抱き締める腕の力が強くなる。

「……何もしねーから、もうちょっとだけこうさせて?お前の小さくて華奢な身体を抱き締めんの、好きなんだよ、俺」

ボソッと小さく呟き、高遠は私の髪に顔を埋めた。

「あのだね?佑君。私は日本人女性の平均身長より10センチ以上背が高いのだよ。まあ、華奢ではあるかも知れないけれど、決して小さくはないのだよ?」

「……いや、俺からしたら十分小さいから。こうやって抱き締めたら、お前なんてすっぽり隠れちゃうじゃん。こんな小さくて華奢で頼りなさげな背中、俺は他に知らねーぞ?
それにさ、こうやって抱き締めてると、本当にお前を手に入れることができたんだって…夢じゃないんだって、安心するし、すっげー幸せを感じるんだよ」

「…佑の価値観ってちょっとズレてない?私は『小さい』とも言われたことがなければ、『頼りなさげ』だなんて言われたこともないよ?『デカイ』とか『頼り甲斐がある』とかは散々言われたことあるけど。
……私のことをそんな風に言うのは…そんなことを言ってくれんのは…あんたぐらいよ、佑」

高遠の言葉に胸が締め付けられ、目頭が熱くなる。

甘い言葉を沢山囁いてくれた絢斗でさえ、そんな事は言ってくれなかった。
絢斗とは4センチしか身長差がなかったから『小さい』だなんて言われる訳がないし、性格だって『真尋はしっかり者だから頼りになるね』とは言われても、『頼りなさ気』だなんて言われたことがなかった。

「…そいつら全員、目が節穴だな。確かにお前はしっかりしてるし、感情を殺すのも上手い。仕事も隙なくこなしているけど、でも本当は喜怒哀楽が激しくて泣き虫な、ただの可愛い女なのにな?」

「な!…失礼な!泣き虫なんかじゃないわよ!」

そう荒げた自分の声は、少し震えて潤みを帯びていた。
甘やかな声で囁かれた高遠の言葉に、ずっとコンプレックスだった身長も、ずっとずっと張り続けてきた虚勢も、ずっとずっとずっと押し殺してきた感情も、全てが浄化されたような解放感を覚えていた。

「…ねえ佑。これからもずっと、一生こうして私を抱き締めていてくれる?」

意図して発したわけではなく、内側から溢れ出たその言葉に、自分が一番驚いていた。
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