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きっと同じような痛みを感じていたのですね?
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「…佑っ!?」
「高遠!ちょっと、あんた!随分遅かったじゃないのよ!
まったく!あんたの大事なまひちゃんの事なんだから、空を飛んで駆けつけるくらいの根性を見せなさいよ!」
「すみません。…てか、これでも大急ぎで帰ってきたんですって!あんま無茶言わないで下さいよ。一応俺も人間の端くれなんで、空なんて飛べませんから…。
そんな事より、連絡ありがとうございました。助かりました。先輩が連絡くれなかったら、このアホがまた変な方向に暴走するとこでした。…今度奢らせて下さい。
そういう事で、こいつを回収していっていいですかね?」
高遠は財布から五千円札を一枚取り出すと、それを美優先輩の前に置いた。美優先輩は小さく頷き、あとは二人でよく話し合うようにと溜息を吐いた。
「何で佑がこんなとこにいるの?今日遅くなるって言ってたよね?」
私は予想外の高遠の登場に驚き、それを知っていたかのように振る舞う美優先輩に周章狼狽した。
「やっだぁ~!今『佑』って言った?もう名前で呼び合ってんのね。ラブラブじゃない!…高遠、この貸しは高くつくわよ?」
「……程々でお願いします。ほら行くぞ!」
高遠は顔を引き攣らせながらそう答えると、私の腕を掴んで立ち上がらせた。
「じゃあ気をつけてね~!高遠、お仕置きするにしてもヤリ過ぎちゃダメよ?まだ月曜なんだからね」
「…余計なお世話ですよ!そのくらいの良識はあるんで!じゃあ、本当に有難うございました。お先に失礼します」
そう言うと、高遠は片手で私と自分の荷物を持ち、もう片方の手で私の腕を掴んで歩き始める。私は狼狽えながら、美優先輩に「お先に失礼します」と頭を下げ、引き摺られるようにして店外に出た。
『三瓶』を出た後も、高遠は私の腕を離さなかった。掴んだまま、無言でズンズンと先を歩いていく。前にもこんな事があったなと思いながら、私は高遠に話し掛けた。
「ねえ佑。今日遅くなるって言ってたよね?仕事はどうしたの?」
「うるせぇな。終わらせてきたに決まってるだろ?…それよりお前、異動ってどういう事だよ。俺、初耳なんだけど?さっきも言ったけど、俺、お前と遠恋する気なんかねーからな。勝手に決めんじゃねーよ」
「だって…。もう、あの人達に関わりあいたくないんだもの…。それに遠恋っていっても、近場を希望するつもりだから週末は一緒にすごせるよ?」
毎週末、私が会いに来るから何も変わらないよ。そう言うと、高遠は呆れたように溜息を吐いた。
「だから、俺は遠恋する気はねえって言ってんの!そんなん出来る気もしねーわ」
「遠恋っていっても、たかだか電車で1、2時間の距離だよ?今みたいに週末は一緒にいられるし。何も変わらないよ?私の気持ちも変わらないし。……もしかして、佑の気持ちが変わっちゃうかも知れないって事?……もしそうなら…佑は、私と別れたい?」
自分で口にして、ひどく動揺した。胸が張裂けそうに痛んだ。目頭が熱くなり、自然と視線が足元に落ちる。俯いたまま歩いていたから、ぶつかるまで高遠が立ち止まったことに気付かなかった。
「…お前、何言ってんの?自分が何言ってんのか分かってんの?」
高遠は低くそう呟くと、振り返りざまに私を抱き寄せ、強引に口付けた。そして、無言で身を翻し、更に歩調を速めて歩き出した。
高遠は部屋に入るや否や、私を玄関横の壁に押し付けた。
「別れたい?じゃあお前は、俺が別れたいって言ったら、はいそうですかって簡単に別れられんのかよ?
ああ、確かにお前はそうかも知れねーな?そうできるんだろうな?なんせ、俺との関係より、バカ夫婦との関係を優先するくらいだもんな?
…チクショウ!俺ばっかじゃねーか!俺ばっかが、俺ばっかが、こんなに好きなんじゃねーかっ!」
奥歯を噛み締めながら、高遠は何度も壁を殴った。
高遠の額は私の肩に押し付けられているから、どんな表情をしているのかわからない。けれど、その呟きは、胸を締め付けられるような切なさと憤りを含んでいた。
「……佑?」
高遠の名を呼ぶ私の声は、心情を映し出しているかように後悔に揺れていた。
そう。この時、ようやく私は、自分が高遠の気持ちの上に胡坐をかいていた事に気付いたのだ。高遠ならば、私の考えを受け入れてくれる。優先してくれる。当然のようにそう思っていた自分に驚いた。
きちんと謝まらなければ。キチンと目を見て謝ろう。そう思って、高遠の顔を包み込むように手を伸ばしかけたその時。私の両手は高遠の大きな手に捕らえられた。頭上で一纏めにされ、片手で押さえこまれる。
「…なあ。今更俺がお前を手放すとでも思ってんの?」
そう言いながら顔を上げた高遠の双眸には、悲しみと憤り。そして強い欲を孕んでおり、まるで鈍く光る刃物のような鋭さを宿していた。
「今朝の件については美優先輩から大体聞いた。お前がヤツ等と関わりたくないのもよく分かる。けどさ、だからって何でお前が異動しなきゃなんねーの?関わりたくないなら、会社に訴えてあっちを異動させりゃいいだろ?何でお前が…。そんなんだから、アイツにも付け込まれるんだよ!てか、お前、今更俺から離れられんの?」
高遠はそう忌々し気に吐き捨ると、貪るように私に口付けた。
最初から深いその口付けは、とても荒々しいものだった。まるで呼吸まで喰らい尽くすような激しい口付け。
呼吸すらままならない。息苦しさに涙が溢れだす。嚥下できなかった唾液が、口の端から幾つもの筋となって流れ出る。高遠は唾液の小道を辿るように舌を這わせ、首元へと下りていく。
ニットの上から私の胸を揉みしだいていた大きな右手が、ニットの裾から内側へと入りこんだ。それにあわせて骨ばった大きな膝が私の足の間に割り込み、押し上げるようにして下腹部を刺激する。
「やっ!痛っ!」
突然、高遠が私の首元に強く噛み付いた。それと同時にブラジャーが力づくで上にズラされる。
私の不要に育った胸が、アンダーバストの窮屈過ぎる輪を強引に潜る。既に硬く立ち上がった胸の頂は生地にひっかかり、たわわな膨らみは押し潰され、千切り取られるような痛みと息が詰まるような圧迫感を覚えた。
ジンジンとひりつく痛みを感じながら思った。きっとこの痛みの何倍も、高遠を傷付けていたのかもしれないと。
けれど、高遠は痛みを与えたままにはしなかった。
噛みついた首元も、擦れて敏感さが増した胸の頂きも、癒すように、労わるように、舌で丁寧になぞっていく。
痛みによって敏感になっている箇所を優しく愛撫されると、背筋が震える程の強い快感が走り、肌が粟立つ。
私は高遠の愛撫に狂わされていった。
「高遠!ちょっと、あんた!随分遅かったじゃないのよ!
まったく!あんたの大事なまひちゃんの事なんだから、空を飛んで駆けつけるくらいの根性を見せなさいよ!」
「すみません。…てか、これでも大急ぎで帰ってきたんですって!あんま無茶言わないで下さいよ。一応俺も人間の端くれなんで、空なんて飛べませんから…。
そんな事より、連絡ありがとうございました。助かりました。先輩が連絡くれなかったら、このアホがまた変な方向に暴走するとこでした。…今度奢らせて下さい。
そういう事で、こいつを回収していっていいですかね?」
高遠は財布から五千円札を一枚取り出すと、それを美優先輩の前に置いた。美優先輩は小さく頷き、あとは二人でよく話し合うようにと溜息を吐いた。
「何で佑がこんなとこにいるの?今日遅くなるって言ってたよね?」
私は予想外の高遠の登場に驚き、それを知っていたかのように振る舞う美優先輩に周章狼狽した。
「やっだぁ~!今『佑』って言った?もう名前で呼び合ってんのね。ラブラブじゃない!…高遠、この貸しは高くつくわよ?」
「……程々でお願いします。ほら行くぞ!」
高遠は顔を引き攣らせながらそう答えると、私の腕を掴んで立ち上がらせた。
「じゃあ気をつけてね~!高遠、お仕置きするにしてもヤリ過ぎちゃダメよ?まだ月曜なんだからね」
「…余計なお世話ですよ!そのくらいの良識はあるんで!じゃあ、本当に有難うございました。お先に失礼します」
そう言うと、高遠は片手で私と自分の荷物を持ち、もう片方の手で私の腕を掴んで歩き始める。私は狼狽えながら、美優先輩に「お先に失礼します」と頭を下げ、引き摺られるようにして店外に出た。
『三瓶』を出た後も、高遠は私の腕を離さなかった。掴んだまま、無言でズンズンと先を歩いていく。前にもこんな事があったなと思いながら、私は高遠に話し掛けた。
「ねえ佑。今日遅くなるって言ってたよね?仕事はどうしたの?」
「うるせぇな。終わらせてきたに決まってるだろ?…それよりお前、異動ってどういう事だよ。俺、初耳なんだけど?さっきも言ったけど、俺、お前と遠恋する気なんかねーからな。勝手に決めんじゃねーよ」
「だって…。もう、あの人達に関わりあいたくないんだもの…。それに遠恋っていっても、近場を希望するつもりだから週末は一緒にすごせるよ?」
毎週末、私が会いに来るから何も変わらないよ。そう言うと、高遠は呆れたように溜息を吐いた。
「だから、俺は遠恋する気はねえって言ってんの!そんなん出来る気もしねーわ」
「遠恋っていっても、たかだか電車で1、2時間の距離だよ?今みたいに週末は一緒にいられるし。何も変わらないよ?私の気持ちも変わらないし。……もしかして、佑の気持ちが変わっちゃうかも知れないって事?……もしそうなら…佑は、私と別れたい?」
自分で口にして、ひどく動揺した。胸が張裂けそうに痛んだ。目頭が熱くなり、自然と視線が足元に落ちる。俯いたまま歩いていたから、ぶつかるまで高遠が立ち止まったことに気付かなかった。
「…お前、何言ってんの?自分が何言ってんのか分かってんの?」
高遠は低くそう呟くと、振り返りざまに私を抱き寄せ、強引に口付けた。そして、無言で身を翻し、更に歩調を速めて歩き出した。
高遠は部屋に入るや否や、私を玄関横の壁に押し付けた。
「別れたい?じゃあお前は、俺が別れたいって言ったら、はいそうですかって簡単に別れられんのかよ?
ああ、確かにお前はそうかも知れねーな?そうできるんだろうな?なんせ、俺との関係より、バカ夫婦との関係を優先するくらいだもんな?
…チクショウ!俺ばっかじゃねーか!俺ばっかが、俺ばっかが、こんなに好きなんじゃねーかっ!」
奥歯を噛み締めながら、高遠は何度も壁を殴った。
高遠の額は私の肩に押し付けられているから、どんな表情をしているのかわからない。けれど、その呟きは、胸を締め付けられるような切なさと憤りを含んでいた。
「……佑?」
高遠の名を呼ぶ私の声は、心情を映し出しているかように後悔に揺れていた。
そう。この時、ようやく私は、自分が高遠の気持ちの上に胡坐をかいていた事に気付いたのだ。高遠ならば、私の考えを受け入れてくれる。優先してくれる。当然のようにそう思っていた自分に驚いた。
きちんと謝まらなければ。キチンと目を見て謝ろう。そう思って、高遠の顔を包み込むように手を伸ばしかけたその時。私の両手は高遠の大きな手に捕らえられた。頭上で一纏めにされ、片手で押さえこまれる。
「…なあ。今更俺がお前を手放すとでも思ってんの?」
そう言いながら顔を上げた高遠の双眸には、悲しみと憤り。そして強い欲を孕んでおり、まるで鈍く光る刃物のような鋭さを宿していた。
「今朝の件については美優先輩から大体聞いた。お前がヤツ等と関わりたくないのもよく分かる。けどさ、だからって何でお前が異動しなきゃなんねーの?関わりたくないなら、会社に訴えてあっちを異動させりゃいいだろ?何でお前が…。そんなんだから、アイツにも付け込まれるんだよ!てか、お前、今更俺から離れられんの?」
高遠はそう忌々し気に吐き捨ると、貪るように私に口付けた。
最初から深いその口付けは、とても荒々しいものだった。まるで呼吸まで喰らい尽くすような激しい口付け。
呼吸すらままならない。息苦しさに涙が溢れだす。嚥下できなかった唾液が、口の端から幾つもの筋となって流れ出る。高遠は唾液の小道を辿るように舌を這わせ、首元へと下りていく。
ニットの上から私の胸を揉みしだいていた大きな右手が、ニットの裾から内側へと入りこんだ。それにあわせて骨ばった大きな膝が私の足の間に割り込み、押し上げるようにして下腹部を刺激する。
「やっ!痛っ!」
突然、高遠が私の首元に強く噛み付いた。それと同時にブラジャーが力づくで上にズラされる。
私の不要に育った胸が、アンダーバストの窮屈過ぎる輪を強引に潜る。既に硬く立ち上がった胸の頂は生地にひっかかり、たわわな膨らみは押し潰され、千切り取られるような痛みと息が詰まるような圧迫感を覚えた。
ジンジンとひりつく痛みを感じながら思った。きっとこの痛みの何倍も、高遠を傷付けていたのかもしれないと。
けれど、高遠は痛みを与えたままにはしなかった。
噛みついた首元も、擦れて敏感さが増した胸の頂きも、癒すように、労わるように、舌で丁寧になぞっていく。
痛みによって敏感になっている箇所を優しく愛撫されると、背筋が震える程の強い快感が走り、肌が粟立つ。
私は高遠の愛撫に狂わされていった。
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