※R18 私との恋は本気ではなかったということでしょうか?

キリン

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どうやら宇宙人に遭遇してしまったようです。

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「まさかそんな…。…奥様は何て仰っているんですか?」

「こんな事、今の紗凪に訊ける訳ないだろ?昨日、真尋も紗凪の様子を見ただろう?今の紗凪は感情的すぎて、とてもじゃないが真面に話ができる状態じゃない」

絢斗は自嘲的に笑って、ホットコーヒーを一口飲んだ。

「だからって、話し合いもせず、このまま逃げ続けるんですか?」

「…いや、別に逃げているわけじゃない。いつかはちゃんと話し合わなきゃとは思ってる。でも、どう話し合えっていうんだ?今の紗凪は感情的になり過ぎていて、こちらの言い分を聞いてくれる状態じゃないし。それに、もし肯定されてしまったら、俺はどうなる?まあ否定されたところで、もう紗凪の事を信用する気には…」

被害者面している絢斗に苛立ち、私は被せるように語気を強めて言った。

「それじゃあ、奥さんだって会社に乗り込んで来ますよ。昨日あんな目に遭いましたし、奥さんの肩を持つ気など毛頭ありません。けれど、主任の対応は間違っていると思います。
お腹の子が誰の子か分からないにしろ。奥さんは今妊娠中なんです。不安で一杯なんですよ?それなのに、頼りになる筈の旦那さんは、理由も言わずに帰っても来ない。そんな状態で冷静でいられる訳がないでしょう?それでなくても、妊婦は精神的に不安定になりやすいんだから!
さっきから聞いていれば、貴方はただ自分が傷つきたくないだけじゃないですか!都合の悪い現実から目を背けているだけでしょう?」

私の反応が予想外だったのだろう。絢斗は目を瞠って私を見ていた。それが更に私を苛立たせた。

「貴方方だけの問題じゃないんです。もうすぐ子供が生まれてくるんですよ?分かってますか?
貴方はその子の命を、人生を、父親として背負っていかなければならないんです!仮にその子の遺伝子上の実父が貴方ではなかったとしても、奥さんと婚姻関係にある以上、法律的にその子は貴方の子になるんです。
奥様がどうであれ、生まれてくる子に罪はありますか?その子が何か悪い事をしましたか?子供は生まれてくる境遇は選べないんです!親なんて選べないんですよ!
貴方は子供の人生を背負う覚悟もないのに、子供を作ったんですか?」


子供は生まれてくる境遇を選ぶことが出来ない。

これは紛れもない事実だ。
選べるならば、誰だって経済的に余裕があって、自分を大切に愛してくれる仲の良い両親の元に生まれたいだろう。
でも実際は選べない。だからこそ、虐待や貧困など社会問題になっているのだ。


私には父親がいない。
母が女手一つで私をここまで育ててくれた。
あまり記憶にないが、私の父はとんでもないクズだったらしく、私が幼稚園の頃、他に女を作って、その人と駆け落ちしたらしい。

父が姿を消すまで専業主婦だった母は、離婚成立後、手に職をつける為に看護学校に入った。准看護師を経て正看護師となり、今は地元の総合病院で働いている。

母は身を粉にして働きながらも「1度きりの人生なんだから、後悔のないように好きなことをしなさい」と言って、どんな時で優しく見守ってくれた。

母には本当に感謝をしている。
愛情深く優しい母に、これから沢山恩返しをしていきたいと思っている。

最近ようやく母にも良い人が出来たようだから、今まで私の為に犠牲にしてきた母自身の人生を、その分、その人と、これから幸せに過ごしていって欲しいと心から願っている。



「真尋は優しいな。何で俺、お前を手放しちゃったんだろ?」

そんな勝手な台詞とともに、手の甲に不穏な体温を感じて、私の意識は急速に目の前の男に戻った。

(はあ?あんた何言ってんの?頭大丈夫?私を手放したといか綺麗な言い方してるけど、実際はゴミみたいに捨てただけたよね?
てか、自分が捨てた女によくこんな話が出来んな?一体どんな神経してるんだよ!)

「俺さ。昨日、一週間の自宅待機を言い渡されたんだ。でも、紗凪が勝手に起こしたことなのに、俺が処分されるのはおかしいと思わないか?なあ真尋。できたら、被害者であるお前から口添えしてもらえないか?俺も被害者みたいなものだって」

私は開いた口が塞がらなかった。
絢斗が同じ人間だとは思えなかったのだ。まるで未知の生命体…宇宙人にでも遭遇した気持ちになった。


因みに『自宅待機』とは、正式な処分が決まるまでの間、出社停止になることをいう。処分とは、勿論『懲戒処分』だ。
『懲戒処分』が下されるのは、通常、会社に何らかの不利益を生じさせた場合。
絢斗の奥さんは、今回に、なども多く出入りする社屋のロビーで事を起こした。
だから、この絢斗の奥さんが起こした行為は、会社からしてみたら、からのさせる行為をしたわけで、を乱したことになる。

絢斗の配偶者が、絢斗の私生活が原因で起こした事だから、例え私が告訴をしなくても、絢斗になんらかの処分が下されることは免れない。

(そんな事は社会人として常識なのに、コイツは一体何を言い出しているんだ?)

絢斗の神経の図太さに呆気に取られ、動けずにいた。
それを都合よく解釈した宇宙人が、私の手を更に強く握りこむ。

もう不快でしかなかった。
重ねられた手の体温も、私を利用しようとする身勝手な男の存在も。

私がブチ切れて、勢いよく立ち上がろうとした時、 

「人のものに、馴々しく触らないで下さい。
ていうか、あんたの今の状況って自業自得だろ?よくこいつの前で、そんなクソみたいな話できんな。頭わいてるんすか?
こいつが情に厚いのを知ってて利用しようとするとか、あんた最低だな。今、人目がなかったら、俺、確実にあんたのこと殴ってますから!」

そう怒りを露わに言い捨てながら、私の手を握り締めていた宇宙人の腕を、高遠が掴んでいた。

「じゃあ、俺らは帰るんで!今後一切、こいつに近づかないで下さい。もし近付いたら、今度は人目なんか気にせず、ボコりますから」

高遠の剣幕に驚いている宇宙人をその場に残し、高遠は私をその場から連れ出してくれた。
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