26 / 54
どうやら宇宙人に遭遇してしまったようです。
しおりを挟む
「まさかそんな…。…奥様は何て仰っているんですか?」
「こんな事、今の紗凪に訊ける訳ないだろ?昨日、真尋も紗凪の様子を見ただろう?今の紗凪は感情的すぎて、とてもじゃないが真面に話ができる状態じゃない」
絢斗は自嘲的に笑って、ホットコーヒーを一口飲んだ。
「だからって、話し合いもせず、このまま逃げ続けるんですか?」
「…いや、別に逃げているわけじゃない。いつかはちゃんと話し合わなきゃとは思ってる。でも、どう話し合えっていうんだ?今の紗凪は感情的になり過ぎていて、こちらの言い分を聞いてくれる状態じゃないし。それに、もし肯定されてしまったら、俺はどうなる?まあ否定されたところで、もう紗凪の事を信用する気には…」
被害者面している絢斗に苛立ち、私は被せるように語気を強めて言った。
「それじゃあ、奥さんだって会社に乗り込んで来ますよ。昨日あんな目に遭いましたし、奥さんの肩を持つ気など毛頭ありません。けれど、主任の対応は間違っていると思います。
お腹の子が誰の子か分からないにしろ。奥さんは今妊娠中なんです。不安で一杯なんですよ?それなのに、頼りになる筈の旦那さんは、理由も言わずに帰っても来ない。そんな状態で冷静でいられる訳がないでしょう?それでなくても、妊婦は精神的に不安定になりやすいんだから!
さっきから聞いていれば、貴方はただ自分が傷つきたくないだけじゃないですか!都合の悪い現実から目を背けているだけでしょう?」
私の反応が予想外だったのだろう。絢斗は目を瞠って私を見ていた。それが更に私を苛立たせた。
「貴方方だけの問題じゃないんです。もうすぐ子供が生まれてくるんですよ?分かってますか?
貴方はその子の命を、人生を、父親として背負っていかなければならないんです!仮にその子の遺伝子上の実父が貴方ではなかったとしても、奥さんと婚姻関係にある以上、法律的にその子は貴方の子になるんです。
奥様がどうであれ、生まれてくる子に罪はありますか?その子が何か悪い事をしましたか?子供は生まれてくる境遇は選べないんです!親なんて選べないんですよ!
貴方は子供の人生を背負う覚悟もないのに、子供を作ったんですか?」
子供は生まれてくる境遇を選ぶことが出来ない。
これは紛れもない事実だ。
選べるならば、誰だって経済的に余裕があって、自分を大切に愛してくれる仲の良い両親の元に生まれたいだろう。
でも実際は選べない。だからこそ、虐待や貧困など社会問題になっているのだ。
私には父親がいない。
母が女手一つで私をここまで育ててくれた。
あまり記憶にないが、私の父はとんでもないクズだったらしく、私が幼稚園の頃、他に女を作って、その人と駆け落ちしたらしい。
父が姿を消すまで専業主婦だった母は、離婚成立後、手に職をつける為に看護学校に入った。准看護師を経て正看護師となり、今は地元の総合病院で働いている。
母は身を粉にして働きながらも「1度きりの人生なんだから、後悔のないように好きなことをしなさい」と言って、どんな時で優しく見守ってくれた。
母には本当に感謝をしている。
愛情深く優しい母に、これから沢山恩返しをしていきたいと思っている。
最近ようやく母にも良い人が出来たようだから、今まで私の為に犠牲にしてきた母自身の人生を、その分、その人と、これから幸せに過ごしていって欲しいと心から願っている。
「真尋は優しいな。何で俺、お前を手放しちゃったんだろ?」
そんな勝手な台詞とともに、手の甲に不穏な体温を感じて、私の意識は急速に目の前の男に戻った。
(はあ?あんた何言ってんの?頭大丈夫?私を手放したといか綺麗な言い方してるけど、実際はゴミみたいに捨てただけたよね?
てか、自分が捨てた女によくこんな話が出来んな?一体どんな神経してるんだよ!)
「俺さ。昨日、一週間の自宅待機を言い渡されたんだ。でも、紗凪が勝手に起こしたことなのに、俺が処分されるのはおかしいと思わないか?なあ真尋。できたら、被害者であるお前から口添えしてもらえないか?俺も被害者みたいなものだって」
私は開いた口が塞がらなかった。
絢斗が同じ人間だとは思えなかったのだ。まるで未知の生命体…宇宙人にでも遭遇した気持ちになった。
因みに『自宅待機』とは、正式な処分が決まるまでの間、出社停止になることをいう。処分とは、勿論『懲戒処分』だ。
『懲戒処分』が下されるのは、通常、会社に何らかの不利益を生じさせた場合。
絢斗の奥さんは、今回就業時間中に、取引先なども多く出入りする社屋のロビーで事を起こした。
だから、この絢斗の奥さんが起こした行為は、会社からしてみたら、取引先からの信用を失墜させる行為をしたわけで、企業内の秩序を乱したことになる。
絢斗の配偶者が、絢斗の私生活が原因で起こした事だから、例え私が告訴をしなくても、絢斗になんらかの処分が下されることは免れない。
(そんな事は社会人として常識なのに、コイツは一体何を言い出しているんだ?)
絢斗の神経の図太さに呆気に取られ、動けずにいた。
それを都合よく解釈した宇宙人が、私の手を更に強く握りこむ。
もう不快でしかなかった。
重ねられた手の体温も、私を利用しようとする身勝手な男の存在も。
私がブチ切れて、勢いよく立ち上がろうとした時、
「人のものに、馴々しく触らないで下さい。
ていうか、あんたの今の状況って自業自得だろ?よくこいつの前で、そんなクソみたいな話できんな。頭わいてるんすか?
こいつが情に厚いのを知ってて利用しようとするとか、あんた最低だな。今、人目がなかったら、俺、確実にあんたのこと殴ってますから!」
そう怒りを露わに言い捨てながら、私の手を握り締めていた宇宙人の腕を、高遠が掴んでいた。
「じゃあ、俺らは帰るんで!今後一切、こいつに近づかないで下さい。もし近付いたら、今度は人目なんか気にせず、ボコりますから」
高遠の剣幕に驚いている宇宙人をその場に残し、高遠は私をその場から連れ出してくれた。
「こんな事、今の紗凪に訊ける訳ないだろ?昨日、真尋も紗凪の様子を見ただろう?今の紗凪は感情的すぎて、とてもじゃないが真面に話ができる状態じゃない」
絢斗は自嘲的に笑って、ホットコーヒーを一口飲んだ。
「だからって、話し合いもせず、このまま逃げ続けるんですか?」
「…いや、別に逃げているわけじゃない。いつかはちゃんと話し合わなきゃとは思ってる。でも、どう話し合えっていうんだ?今の紗凪は感情的になり過ぎていて、こちらの言い分を聞いてくれる状態じゃないし。それに、もし肯定されてしまったら、俺はどうなる?まあ否定されたところで、もう紗凪の事を信用する気には…」
被害者面している絢斗に苛立ち、私は被せるように語気を強めて言った。
「それじゃあ、奥さんだって会社に乗り込んで来ますよ。昨日あんな目に遭いましたし、奥さんの肩を持つ気など毛頭ありません。けれど、主任の対応は間違っていると思います。
お腹の子が誰の子か分からないにしろ。奥さんは今妊娠中なんです。不安で一杯なんですよ?それなのに、頼りになる筈の旦那さんは、理由も言わずに帰っても来ない。そんな状態で冷静でいられる訳がないでしょう?それでなくても、妊婦は精神的に不安定になりやすいんだから!
さっきから聞いていれば、貴方はただ自分が傷つきたくないだけじゃないですか!都合の悪い現実から目を背けているだけでしょう?」
私の反応が予想外だったのだろう。絢斗は目を瞠って私を見ていた。それが更に私を苛立たせた。
「貴方方だけの問題じゃないんです。もうすぐ子供が生まれてくるんですよ?分かってますか?
貴方はその子の命を、人生を、父親として背負っていかなければならないんです!仮にその子の遺伝子上の実父が貴方ではなかったとしても、奥さんと婚姻関係にある以上、法律的にその子は貴方の子になるんです。
奥様がどうであれ、生まれてくる子に罪はありますか?その子が何か悪い事をしましたか?子供は生まれてくる境遇は選べないんです!親なんて選べないんですよ!
貴方は子供の人生を背負う覚悟もないのに、子供を作ったんですか?」
子供は生まれてくる境遇を選ぶことが出来ない。
これは紛れもない事実だ。
選べるならば、誰だって経済的に余裕があって、自分を大切に愛してくれる仲の良い両親の元に生まれたいだろう。
でも実際は選べない。だからこそ、虐待や貧困など社会問題になっているのだ。
私には父親がいない。
母が女手一つで私をここまで育ててくれた。
あまり記憶にないが、私の父はとんでもないクズだったらしく、私が幼稚園の頃、他に女を作って、その人と駆け落ちしたらしい。
父が姿を消すまで専業主婦だった母は、離婚成立後、手に職をつける為に看護学校に入った。准看護師を経て正看護師となり、今は地元の総合病院で働いている。
母は身を粉にして働きながらも「1度きりの人生なんだから、後悔のないように好きなことをしなさい」と言って、どんな時で優しく見守ってくれた。
母には本当に感謝をしている。
愛情深く優しい母に、これから沢山恩返しをしていきたいと思っている。
最近ようやく母にも良い人が出来たようだから、今まで私の為に犠牲にしてきた母自身の人生を、その分、その人と、これから幸せに過ごしていって欲しいと心から願っている。
「真尋は優しいな。何で俺、お前を手放しちゃったんだろ?」
そんな勝手な台詞とともに、手の甲に不穏な体温を感じて、私の意識は急速に目の前の男に戻った。
(はあ?あんた何言ってんの?頭大丈夫?私を手放したといか綺麗な言い方してるけど、実際はゴミみたいに捨てただけたよね?
てか、自分が捨てた女によくこんな話が出来んな?一体どんな神経してるんだよ!)
「俺さ。昨日、一週間の自宅待機を言い渡されたんだ。でも、紗凪が勝手に起こしたことなのに、俺が処分されるのはおかしいと思わないか?なあ真尋。できたら、被害者であるお前から口添えしてもらえないか?俺も被害者みたいなものだって」
私は開いた口が塞がらなかった。
絢斗が同じ人間だとは思えなかったのだ。まるで未知の生命体…宇宙人にでも遭遇した気持ちになった。
因みに『自宅待機』とは、正式な処分が決まるまでの間、出社停止になることをいう。処分とは、勿論『懲戒処分』だ。
『懲戒処分』が下されるのは、通常、会社に何らかの不利益を生じさせた場合。
絢斗の奥さんは、今回就業時間中に、取引先なども多く出入りする社屋のロビーで事を起こした。
だから、この絢斗の奥さんが起こした行為は、会社からしてみたら、取引先からの信用を失墜させる行為をしたわけで、企業内の秩序を乱したことになる。
絢斗の配偶者が、絢斗の私生活が原因で起こした事だから、例え私が告訴をしなくても、絢斗になんらかの処分が下されることは免れない。
(そんな事は社会人として常識なのに、コイツは一体何を言い出しているんだ?)
絢斗の神経の図太さに呆気に取られ、動けずにいた。
それを都合よく解釈した宇宙人が、私の手を更に強く握りこむ。
もう不快でしかなかった。
重ねられた手の体温も、私を利用しようとする身勝手な男の存在も。
私がブチ切れて、勢いよく立ち上がろうとした時、
「人のものに、馴々しく触らないで下さい。
ていうか、あんたの今の状況って自業自得だろ?よくこいつの前で、そんなクソみたいな話できんな。頭わいてるんすか?
こいつが情に厚いのを知ってて利用しようとするとか、あんた最低だな。今、人目がなかったら、俺、確実にあんたのこと殴ってますから!」
そう怒りを露わに言い捨てながら、私の手を握り締めていた宇宙人の腕を、高遠が掴んでいた。
「じゃあ、俺らは帰るんで!今後一切、こいつに近づかないで下さい。もし近付いたら、今度は人目なんか気にせず、ボコりますから」
高遠の剣幕に驚いている宇宙人をその場に残し、高遠は私をその場から連れ出してくれた。
0
お気に入りに追加
910
あなたにおすすめの小説



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる