※R18 私との恋は本気ではなかったということでしょうか?

キリン

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おめでたい日なので、ご遠慮いただけますか?

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――もう朝なのだろうか?

瞼の裏に明るさを感じて、意識が浮上する。
私は身体を包み込む温かいに擦り寄りながら、徐に目を開けた。すると、目に飛び込んできたのは、一定のリズムで上下する男性の胸板。

「へっ?」

私は一瞬パニックに陥り、飛び上がりそうになった。だが、その拍子に剥き出しになった私の肩を、高遠が優しく抱き寄せてくれた事で昨夜の出来事を思い出し、ほっと安堵した。

「……真尋?もう起きたのか?」

高遠は少し眠そうな、けれど蕩けるような笑みを浮かべて私を見ていた。私がこくりと頷くと、高遠は節くれだった大きな手で優しく私の頭を撫でながら「おはよ、真尋」と柔らかく笑った。

その甘さに驚いた。
昨晩の事を鑑みれば、今現在私達は、身も心も結ばれた恋人同士。だから、この甘やかな空気もおかしな事ではない。けれど、私は友人関係だった頃には感じた事のない、蜜を絡めたような甘さに驚き、何とも言い難いこそばゆさを感じていた。

急に照れ臭くなった私は、赤くなった顔を隠すように上掛けを目の下まで引っ張り上げた。

「…おはよ、高遠。あの…私…寝起きだし。昨日メイクも落とさないまま寝ちゃったから。多分すごく酷い顔をしていると思うの。だから…そんな風にジッと見ないで?」

少ない女子力を総動員して、私は出来るだけ可愛く見えるように上目遣いでそう言った。それなのに高遠はあからさまに不満げな顔をする。

(…何故!?喧嘩を売っているなら買いますけど!私の女子力の低さに何か文句でもあるってか!?)

思わず腹を立ててしまったけれど、高遠が不満だったのは、どうやら呼び方だったらしい。その証拠に、高遠は私が名前で呼ぶまでゴネ続け、何度もやり直しを求めてきた。

そうは言われても…。自発的に名前呼びする分には恥ずかしくない。けれど、改めて本人から乞われると、変に意識してしまって逆に呼び辛い。妙に恥ずかしくて私は暫く躊躇した。けれど、高遠があまりにも執拗にせがんでくるものだから、結局私が根負けして名前で呼ぶ羽目になった。

恥ずかしさに耐えかねた私は、名前を呼んですぐに俯いた。しかし、高遠からは何の反応も返ってこない。訝しんで顔を上げると、高遠は口元を片手で押さえたまま固まっていた。

「やべぇ…。顔を赤らめて上目遣いとか…計算か?計算でやってるのか?マジで可愛過ぎだろ。…もう俺には、お前が歩く凶器にしか見えねーわ。俺、いつか絶対お前に悶え死にさせられる気がする…。きっと長生きできねーわ。頑張れ、俺」

復活したかと思ったら、高遠はそんな失礼極まりない台詞をボソリと呟いた。
呼べと言われたから呼んだのに、何で理不尽な言い掛かりをつけられなければならないのか。カチンときた私は、高遠に背を向けまま、ベッドから下りようと立ち上がった。

その時、初めて私は自分が裸のままだった事に気付いた。慌てて背中を丸め、両手で胸を隠す。
そんな私の様子を後ろから眺めていたのだろう。高遠は「エロッ」と呟くと、私の腰から首の後ろにかけてのラインを、下から上へと指で撫ぜあげた。

「やっ…」

触れられた部分から生まれた甘い痺れに身体を震わせ、思わず腰を反らす。すると高遠は徐に起き上がって、私の背中にキスの雨を降らせ始めた。

「…なあ、昨夜も思ったんだけどさ。お前ってこんなに華奢だったんだな?服の上からでも細せぇなぁとは思ってたけど、こんなに細いとは思わなかったわ。昨夜はちょっと力を入れたら折れちまうんじゃないかって、マジで心配になった。…お前ちゃんと食べてんのか?」

「んっ…。ちょっ…こら!もう、朝から盛んないの!ちゃんと食べてるわよ…。お昼だっていつもちゃんと食べてるでしょ?」

私は背中に張り付いている高遠を肘で攻撃しながら反論した。

「確かに。俺の前ではいつもちゃんと食べてるよな?うんうん。それに、栄養失調だったら、ここはこんなに育ってないし?こっちは想像以上に大きくて、柔らかくて、嬉し過ぎる誤算だった!」

そんなバカな事を言いながら、高遠は背後から私の胸を揉みしだき始めた。
……結局、その後、私達は朝からもう一戦交えることとなった。



***



「あっ!そう言えば、今日佑のお誕生日だね!お誕生日おめでとう!27歳の世界へようこそ!
そうそう、プレゼントなんだけどね?私なりに選んだのが一応用意してあるの。でも、家に置いてあるから、明後日、出社した時に渡すのでもいい?」

「おっ!何買ってくれたの?ってか、俺的にはずっと欲しかったもんがこうして手に入ったわけだし、それだけで十分なんだけどな」

「いやいや、そういう訳にもいかないでしょ?本当はケーキも用意したかったんだけど…あっ!そうだ!アップルパイを焼こう!」

「は?いや、当分お前を帰す気ねーよ?」

「うん。私の事が心配なんでしょ?明日の夜には一旦帰らなきゃだけど。それまでは一緒にいるつもりだよ?」

「……じゃあ、この部屋にあるもんでどうやって焼くんだよ?自慢じゃねーけど、俺料理しねぇから、調理器具なんて何も持ってねーぞ?」

高遠は訝し気に首を捻る。それを見て私はニヤリと笑い、得意げに胸を張った。

「大丈夫なのだよ、佑君!このうちにはトースターがあるではないか!これと包丁と小鍋があれば、問題ないのだよ。よし!それじゃあ、早速着替えて材料を買い物に行こう!」

それから私達は身支度を整え、近くにある複合商業施設ショッピングモールへと買い出しに行った。食材とともに、私の着替えや生活用品も買ったから、案外大荷物になってしまった。けれど、高遠が男をみせて一人で全部運んでくれたので、私は楽チンだった。


高遠の家に戻ってすぐ、私は買ってきたばかりの部屋着に着替えた。

そして、早速アップルパイ作りに取りかかる。
林檎を小さく切ってバターと一緒に小鍋に入れ、そこに砂糖とシナモンとレモン汁を足して軽く煮詰める。その間に冷凍のパイ生地を伸ばして6等分に切っておく。そのうち半分に煮詰めた林檎を乗せ、残りの半分には包丁で切れ目を入れ、生地の周りをフォークの先の背で潰すように接着し、卵黄を塗って、ワット数を下げたトースターで焼く。

アップルパイの焼ける匂いが漂い始めると、高遠は子供のようにはしゃぎ始めた。どうやら私の目を盗んでつまみ食いをしようとしたらしく、指先に火傷を負って痛がっていた。
……いろいろ大丈夫なのだろうか?うちの佑君。


アップルパイが綺麗なキツネ色に焼きあがり、粗熱をとる為にお皿の上に並べていた時、玄関のチャイムが鳴った。

玄関横のキッチンで調理をしていた私は、ここが高遠の家である事を忘れて、反射的に「は~い」と返事をしながら玄関を開けた。そして、すぐに、相手を確認せずに勝手に開けてしまった事を後悔した。

「やっぱりここだったか…。会いたかったんだ。真尋」

そう。ドアの先には、一気に年を取ったような窶れた絢斗が立っていたのだ…。
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