※R18 私との恋は本気ではなかったということでしょうか?

キリン

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貴重品の管理はしっかりとしましょう。

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「ぶはっ!マジそれな!俺もリアルで使ってんの、初めて聞いたわ!ってか、あれって猫に失礼じゃね?そもそも何で猫なんだよ」

「さあ?…お魚咥えて逃げて、裸足の専業主婦に追っかけられちゃうからじゃない?」

「何だ、その国民的アニメのテーマソングみたいな理由は!そんなん別に猫じゃなくたって盗ってくだろ?俺の実家じゃ、勝手口に置いてあったサンダルを狸に持っていかれたぜ」

「狸!?高遠の実家って山奥にあるの?」

サンダルを持っていかれたという狸との距離感に、私はとても驚いた。

「いや確かに田舎だけど。山奥じゃねぇよ。どっちかって言うと里?みたいな?」

「タケノコの?」

「そりゃ筍も採れるけどよ…。今度連れてってやるよ。車なら、高速で1時間半くらいだし」

「高速使って1時間半?…それってかなり田舎なんじゃ…」

「うっせー。田舎だからこそ、楽しめる事もあんだよ!今は葡萄だの栗だのの季節だけどな。もうそろそろ林檎狩りも始まるし。林檎農園の林檎って、芯の周りにたっぷり蜜が入ってて旨いんだぞ?
俺、甘いの苦手なんだけどさ。昔から何故かアップルパイだけは好きなんだよ。近所の林檎農園でも売っててさ。帰省する度につい買っちゃうんだよな…」

地元について語る姿が何とも微笑ましい。しかも、いい情報を得た。てっきり甘い物全般ダメだと思っていたけど、アップルパイならいけるのか。

「じゃあ明日は誕生日ケーキならぬ、誕生日アップルパイでも焼こうか?」

「え?出来んの?」

「ん?だって明日って土曜じゃない。休みだし、全然問題ないよ?」

「ヤバイ!山瀬の背中に羽根が見える!」

「まあね~!私、天使だから。今頃気付いちゃった?」

「いいや。お前の背中に生えてるのは、黒くて蝙蝠みたいな形の羽根だけどな。しかも、ケツからは矢印みたいな先端のついた尻尾が生えてるぞ?」

「ちょっと!それって悪魔じゃないの!それに、こんなに可愛くて美しいレディーの美尻を『ケツ』呼ばわりすんな!」

「はいはい。確かにこんな可愛くて美しいイイ女なんか、なかなかいないよな」

ついさっきまでいつもみたいに馬鹿なやり取りをしていたのに。高遠が突然優しい手つきで頭を撫でてくるもんだから、涙腺が緩んで、再び涙が溢れて出してしまう。

ベッドに座る私の前に丸椅子を置いて介抱してくれていた高遠が、徐に私の左右に手をついて、顔を近づけてきた。そして、優しく啄むように、唇で涙を吸い取っていく。そんな甘い仕草が嬉しくて切なくて、更に涙が溢れ出す。高遠は「キリがねーなぁ」と苦笑しながら私の隣に座り直し、その広い胸の中に閉じ込めるように私を抱き締めてくれた。


――私はそのまま声をあげて泣いた。

幼子のように泣きじゃくる私を宥めるように、高遠は節くれだった大きな手で、何度も優しく私の頭を撫でた。
その繊細な手つきは、の出来事を彷彿とさせ、顔に熱が集まってくる。私は羞恥に染まる顔を隠すように、高遠の胸にグリグリと自分の顔を押し付けた。
そんな私の行動を変な方向に勘違いした高遠は、少し焦ったような声を上げた。

「おいっ!鼻水を俺のYシャツで拭くなよ?ティッシュを使え!ティッシュを!」

そう言うと片腕で私を抱きしめたまま、もう片方の手を伸ばしてボックスティッシュを取り、私のすぐ横に置いて「ほら、これで鼻をかめ」と勧めてくれた。

……全くもって、ムードもへったくれもない男である。


勿論、私はそんな物不要だと頭を振りながらしがみつき、高遠の胸元から離れなかった。
高遠はそんな私を無理に引き離そうとはせず、更に深く、包みこむように私を抱き締めてくれた。

やがて私が落ち着きを取り戻すと、高遠は私の頭頂部に顎を乗せたまま溜息を吐いた。

「しっかし、災難だったよなぁ…。どっちが泥棒猫だってんだよな。人の彼氏を寝取っておいてよ。しかも、こっちの言い分も聞かずにいきなり殴りかかるし。そんなん猿でもしねぇだろ。あ、そういやあの女、お前に謝りもしないで帰っていきやがった…。マジあり得ねぇ。
……あれ?もしかしてこれって、訴えたら勝てるんじゃね?暴行罪とか侮辱罪とか、よく分かんねーけど。けど、そのレベルだろ?」

高遠の言う通りだ。本人が知っていたかどうかは分からないけれど。私から見たら『泥棒猫』なのはあっちだ。
けれど…彼女は絢斗が家に帰って来ないと言っていた。きっと初めての妊娠で心細いだろうし、そんな時に旦那さんが帰って来なかったら精神的に不安定になるのも仕方ないのかもしれない。
……どうして絢斗は、家に帰らないんだろう?

「まあ妊婦さんだから、仕方ないんじゃない?妊娠中ってホルモンバランスが崩れて、不安定になり易いって言うし」

「はあ?あんなん妊婦だからで済まされるレベルじゃねーだろ?」

「…まあ、そうだけど」

(絢斗の奥さん。小さくて華奢で可愛いらしい人だったな…。パステルカラーっぽい雰囲気で、私とは正反対だ…)

そんな事をぼんやり考えていたら、頭上から「安心しろ!俺は断然お前派だ!」と力強い言葉が降ってきた。……どうやら声に出ていたらしい。



――コン。コン。

医務室のドアが叩かれた。

「入るわよ~!濃厚なラブシーンの途中だったら、5秒以内に一回中断して頂戴」

見当違いの台詞を口にした後、美優先輩はきっちり5秒カウントしてから入ってきた。

「まひちゃん、大丈夫?腫れは大分引いたわね。課長が、今日はもう帰っていいって。だから帰っちゃいなさい」

「え?でも仕事が…」

「そんなん週明けでいいって。部長もそう言ってたし、何の問題ないわよ。もし必要があれば、週明けにでも事情を聴かせてもらうかも知れないとは言ってたわ。
高遠。あんた駅までまひちゃんを送ってやんなさい。本当は自宅までと言ってあげたいとこだけど。あんた、これから顧客クライアントとの大事な会議が入ってるでしょ?だから駅までね。
はい。これ、まひちゃんの荷物ね。ほら、さっさと行きなさい」

「あの…でも私、吉澤主任と話したいことが…」

「本来なら今すぐ土下座させたいとこだけど。今日は顔を合わせない方がいいだろ。あっちがどう出るか分からないし」

「……でも」

「もういいから。ほら、行くぞ!」

高遠は私の手を掴んで歩き始めた。美優先輩はニヤニヤしながら私達の後をついて来る。私達が会社のエントランスから出ようとした時、美優先輩が高遠に「あと30分で会議が始まるんだから、それに間に合うようにちゃんと帰って来なさいよ」と釘を刺していた。

外に出ると、高遠は駅には向かわず、駅とは反対方向…高遠の家がある方向に向かって歩き始めた。

「…高遠?今日は帰りたいんだけど…」

「ダメだ!今日はうちに泊まれ!当たり前だけど、あの人お前の家知ってるだろ?」

「…そりゃまあ」

「だからだよ!謝りたいとか口実つけて、家まで来られたらどうすんだよ?」


そう言うと、高遠は黙り込んだまま歩き続けた。そして家に着くや否や、強く抱き締められ、貪られるような口付けをされた。
けれど、それはあまり長い物ではなかった。口惜しそうに身体を離した高遠は、時計で時間を確認すると苛立ったように舌打ちする。

「チッ!時間が足りねぇ。あー取り敢えず、俺、今から社に戻るわ。しっかり戸締りして、俺が戻るまで部屋から出るなよ?会議が終わり次第、速攻帰ってくるから!テレビ…は好きじゃねぇか。…じゃあ、そこのPC立ち上げて適当に電子書籍でも買って読んでろ!ほらこれ!これで登録しとけ!」

高遠は財布からクレジットカードを一枚取り出すと、それを私に放って寄越した。

(…いやいや、こんな簡単に他人にクレジットカードを渡したらダメでしょ?)

こんなに脇が甘いと簡単に詐欺に引っかかりそうだ。私は高遠の未来が少し心配になった。
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