※R18 私との恋は本気ではなかったということでしょうか?

キリン

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戸惑えば戸惑うほど それは…?

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その後、小一時間程、私は美優先輩からコンコンと説教をされた。

暫くして高遠が現れると、美優先輩は「後は2人でよく話し合いなさい。いい?2人とも素直になって、ちゃんと向き合うのよ?そしたら、そんな難しい話じゃない筈よ」と言い残し、さっさと帰ってしまった。

「…素直ってどういう事だよ?」

高遠は訳が分からないといった顔で、帰って行く美優先輩を見ていた。

(どうしよう?素直に今の気持ちを伝えて、高遠に呆れられてしまったら…)

そんな不安にかられた私は自嘲的に笑みをこぼした。
そういう思考に陥っている事自体、高遠に惹かれている証拠なのだと認める他なかったからだ。

確かに私は高遠に惹かれているのだと思う。正直に言えば、異性として好意すら抱いている。けれど問題は、この気持ちが本物なのかどうかだ。
高遠への気持ちが、寂しさや人恋しさが生み出した幻想なのか。それとも本物なのか。今の私には判断する術がなかった。

目の前に置かれたジョッキを見つめていた私がふと高遠の方を見やると、高遠はとても真剣な眼差しで私を見ていた。けれど、それは本当に一瞬の事で、高遠が私の視線に気付くや否や、いつもの飄々とした笑顔に戻っていた。

それから私達は、いつもの通り、馬鹿なやり取りをしながら楽しい時間を過ごした。


10時を過ぎたのでお開きにする事となった。会計を済ませて外に出ると、後から出て来た高遠に手首を取られた。そして、そのまま店のすぐ横にある路地裏に連れ込まれ、強く抱き締められる。

「なあ山瀬。俺はお前が俺の事を意識してくれるだけで十分嬉しいんだ。もしお前が、あの人を忘れる為に俺を利用しているのかも知れないと罪悪感を抱いてるなら、俺はそれでも構わない。俺がそう思っている事だけは覚えておいてくれ。寧ろ、俺で役に立つなら、利用でも何でもしてくれて構わない。都合の良い男にだって、何だってなってやる!
俺はその間、お前を本気で口説きにかかるから。だから、このまま俺をお前の近くにいさせてくれ!」

絞り出されるような声で紡がれる懇願の言葉を、私は高遠の体温に包まれながら聞いていた。高遠は少しだけ身を離すと、真剣な眼差しで私の瞳を覗きこみながら続けた。

「それと…この間の晩は本当にすまなかった。今後は、お前がいいと言うまで、一切ああいったことはしないから。あんな事した後で、信用ならないかも知れないけど。けど誓うから!だから頼む!俺から逃げないでくれ!俺に機会チャンスをくれ!」

高遠のその真剣さを感じさせる言葉と、その裏に垣間見られた熱い思いに歓喜が湧き上がる。それと同時に良心の呵責で胸の痛んだ。その両方を感じながらも、私は頷く以外考えられなかった。
だから私は、両手で高遠の頰を包み込み、少し背伸びをして「うん。逃げないよ。だから傍にいて?」と高遠の少しかさついた唇に触れるだけのキスをした。



***



それからの日々、私達はまるで恋人同士のような時間を重ねていった。

普通の恋人と違うのは、私達の間に肉体関係がない事だけ。それはまるで中学生の頃の『ままごと』のような恋愛だった。けれど、それでも十分楽しかった。

たまに人肌が恋しく感じる時もあるけれど、高遠と過ごす時間はいつもとても楽しくて、肩肘はらず、ありのままの自分でいれた。高遠相手に今更格好つける必要もない。いつもお互い馬鹿ばっかりして、笑いっぱなしだった。


私の誕生日。絢斗が毎年ちょっとお高いレストランに連れて行ってくれていた事を知っている高遠は「大事なのは金より気持ちだ!」と言い張り、人生初のハンバーグ作りに挑戦した。

高遠のぎこちない包丁捌きが危なっかしくて見ていられなくなり、結局手伝ってしまったけれど。私が食べたのは、私が手伝った方ではなく、高遠がボヤを起こしかけた原因の方だった。

明らかに炭化した物体なのに、高遠が子供のように「どう?美味しい?」と期待を込めた目で訊いてくるものだから、私は苦笑しながら頷いてやった。
その後、一口だけ、高遠が炭化したそれを食べた時の顔が可笑しすぎて、私はお腹を抱えて爆笑した。


暑いのと人混みが苦手だった絢斗とは対象的に祭り好きな高遠は、あちこちで開催される花火大会やお祭りに全て行きたがった。
互いに都合のつく日は一緒に浴衣を着て出かけ、縁日の射的や金魚すくいで大人気なく本気で競い合い、沢山笑いあった。


その他にも、一緒に映画を観に行ったり、レンタカーを借りて日帰りで遠出をしたり、私の家でビールを飲みながら借りてきたDVDを観たり、高遠が持ち込んだゲームで勝負をしたりした。


ある日の帰り道、私の家まで後50メートル程で着くという地点で、10メートルくらい先を歩いていた私が走り出しながら「負けた方がアイス奢りだからね!」と勝負し掛けた。
足には自信があったのに。あっという間に追いつかれ、結局私が負けてしまった。私が地団駄を踏んで悔しがると、高遠渋々私の好物のしろくまアイスを買ってくれた。

負けた私が奢る筈なのに、それを甘受するのは居た堪れなくて。私は甘いものが苦手な高遠に無理やり食べさせ、2人で半分こずつ食べた。
高遠が食べるのを嫌がるもんだから、高遠の顔中がアイスでベタベタになってしまった。すると今度は、そのベタベタを擦りつけ合いっこするという新たな争いが始まった。


そんな風に、私達が一緒に過ごす時間は常に笑いが絶えなかった。
お互いに負けず嫌いな私達は、些細な事でも子供のようにムキになって競い合ったし、くだらない言葉遊びで揶揄いあった。

そんな時間が居心地が良くて、最初は2、3週間に1度くらいの頻度だったのに、3カ月経つ頃には殆ど毎週一緒に過ごすようになった。


そんな中でも、高遠は最初に交わした約束をキチンと守ってくれた。
私の部屋に来た時でさえ、帰り際に触れるだけのキスしかしてこなかった。時折、切なそうなで見てくる事もあったけれど、私は敢えてそれに気付かない振りをした。


何も、高遠と肌を重ねるのが嫌だったわけではない。
ただ高遠との時間を重ねれば重ねるだけ、戸惑いを覚えたのだ。

絢斗との恋愛では、大人な絢斗に釣り合いが取れるよう嫌われないようにと、背伸びばかり、我慢ばかりしていた。けれど、高遠と過ごす時間は、背伸びすることも、我慢することもない。
高遠には泥酔して、食欲を減退させるもんじゃを作り出すところまで見られているのだ。今更気取ったところで指をさされて笑われるだけだ。

高遠は本当にこんな私で良いと思っているのだろうか?幻滅していないだろうか?
そう、戸惑えば戸惑う程、どうして良いか分からなくてなってしまうのだ。


高遠の誕生日を翌週に控えた日の終業後、誕生日プレゼントに何が欲しいかと訊ねた私のもとに届いた高遠からのメッセージ。それを見て、私は固まってしまった。

だって、そこには「お前が欲しい」とだけ書いてあったのだから。
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