※R18 私との恋は本気ではなかったということでしょうか?

キリン

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武士は食わねど??

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「…ふ……んっ。た…かとぉ…」

繰り返される口付けに翻弄されながら、私は自分に覆い被さっている男の顔を見上げた。男は火傷しそうな程の熱を孕んだ瞳で、私を見下ろしていた。私はその熱に浮かされるように男の頬へと両手を伸ばし、「もっと」と甘い口付けを強請った。

高遠は深い口付けを交わしながら、私の頭など余裕で覆えてしまえる程の大きな手で、私を甘やかすように、生え際から髪先まで何度も優しく撫でた。まるで繊細な硝子細工を扱うかのような手つきが心地良い。私は飼い主に甘える猫のように、その大きな手に擦り寄った。

やがてその手は、首筋を辿り、Tシャツの上から私の胸を柔く揉みしだき始めた。高遠の手の動きに合わせてブラジャーの少し硬めの生地が胸の先端を擦り、少しの痛みと大きな快感を生み出していく。その刺激に私は甘い吐息を漏らした。

Tシャツの裾から、少し冷たい高遠の手が入りこんできた。高遠は片手で器用にブラジャーのホックを外すと、直接私の胸を弄び始める。

「んんっ…。ふっ。あ…ん…やぁ…」

直接胸の先端を弄られると、私の口からは甘い吐息だけでなく、声までも漏れ出てしまう。

「…お前、思ってたより胸あんのな?おい。お前どんな顔してんだよ。そんな溶けた顔して……案外、お前可愛いのな」

揶揄いの言葉に羞恥を覚えて身を捩れば、いつの間にか高遠の膝が私の脚の間に入り込んでいる事に気付いた。

高遠は私の頰に手を添わせ、顔や耳や首筋にいくつも口付けを落とす。それと同時に、もう一方の手で私の胸を弄び、膝で私の下腹部を刺激して、更なる疼きと快感を与え続けた。

私は甘い吐息を漏らさずにいることも、甘い声を我慢することもできず。ただ陶然と、高遠の愛撫に酔いしれていた。


高遠の手がハーフパンツの中へと入りこもうとした瞬間、私の脳裏に絢斗の顔が過ぎった。今となっては感じる必要のない罪悪感が湧き上がり、心を占める。まるで冷水を浴びせられたかのように、私は急速に現実へと引き戻された。

「…たかとぉ…。ごめん。本当にごめん」

どうしてなのだろうか?気付くと私は高遠の胸元を握り締めながら泣いていた。

「…高遠。ごめんね。ごめんね。私…」

突然泣き出した私に驚いた高遠は、私に覆い被さったまま、暫くの間固まっていた。しかし次の瞬間、私の上から飛び退くと、青い顔をして両手で頭を掻き毟り始めた。

「うあぁぁぁぁぁ!悪りぃ!何やってんだよ、俺!泣かせちまってるし…。本当ごめんな?怖かったよな?」

高遠は混乱しながらも平伏叩頭し、必死に謝罪の言葉を重ね始めた。
私は違うのだと、高遠は悪くないのだと、かぶりを振って必死に言葉を紡ぐ。けれど、私が否定すればする程、高遠は自己嫌悪に陥っていくように見えた。

「本当にすまん!いや、謝って済む事じゃねーけど。マジでごめん。…今更信じてもらえないかも知れないけど。本当にこんな事をするつもりで家に連れて来たわけじゃないから!
ただ、お前の湯上がり姿を見て、ちょっとムラッと…。いや、そんなんは完全に言い訳だ。ないわ…。マジであり得ねぇ。無理矢理迫って怖がらせて泣かすとか、どこの鬼畜だよ…」

「…ちがっ。高遠は悪くないの。別に、高遠が怖くて泣いてるんじゃない。私…泣くつもりなんかなくて…そう決めてて。私が…まだ絢斗を忘れられてなくて…。私…こんなんで高遠に悪くて…」

溢れ出る涙はとどまる事を知らない。胸が裂かれるように痛み、喉が引き攣るように苦しい。それなのに、何故自分が泣いているのか、自分でもよく分からなかった。

どのくらい泣いていただろう?涙が止まった頃には、既に気持ちも落ち着いていた。突然泣き出した事を謝ろうと顔を上げると、高遠は未だに私の前で正座をしたまま俯いていた。

「ごめんね。急に泣き出したりして」

「いや、謝んなきゃいけねぇのは俺の方だし。…本当ごめん」

「…ううん。私嫌じゃなかった。嫌じゃなかったから、高遠を利用しようとしたの。狡くてごめんね」

「……」

「ね?私の方が悪いでしょ?」

高遠が自己嫌悪に陥る必要などないのだと。狡猾にも、私が高遠の優しさを利用しようとしたのだと言い続けると、高遠は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「そんなことねぇし。どう考えても暴走した俺が悪い。でもまぁ……あーもー!こんな時間だし、いい加減寝るぞ」

「ねえ。高遠も一緒にベッドここで寝て?」

「おまっ!何言ってんだよ!嫌じゃねーのかよ!俺が言うのもなんだけど、お前さっき俺に襲われかけたんだぞ?」

「…嫌じゃない。高遠が床で寝る方がもっと嫌だ」

暫くの間、無言で睨み合った。先に折れたのは高遠の方だった。高遠は豪快に頭を掻き毟りながら唸り声をあげた。

「…分かったよ!はいはい、分かりました!じゃあ、こっからこっちが俺の陣地で、こっからそっちがお前の陣地な。絶対はみ出んなよ!
じゃあ、もう寝ろ!今すぐ寝ろ!さっさと寝ないと一時まわるぞ?俺は明日朝一から得意先クライアントとの会議ミーティングが入ってんだよ!だから俺はもう寝る!」

捲し立てるようにそう言って部屋の電気を消し、高遠は私に背を向けてベッドの端に横になった。


眠ってしまったのだろうか?
目の前の大きな背中は動く気配がない。静まりかえった室内には、壁かけ時計の針の音だけが響いていた。

「本当にごめんね?高遠。……私、思ってたより絢斗の事が好きだったみたい」

そう小さく呟けば、止まった筈の涙が再び溢れ出す。

「あんなに手酷く裏切られて捨てられたのに。さっき途中で絢斗の顔が浮かんだの…。罪悪感なんて感じる必要なんかないのにね。…バカみたい」

聞き取れるか取れないかくらいの小さな声で呟きながら、声を漏らさぬよう嗚咽する。

「……そんだけ好きだったって事だろ?普通好きな奴がいたら、他の奴となんかできねぇよ。お前はなんらおかしくないわ。それ、当たり前だからな」

背中越しに高遠がボソッと呟いた。『好きな人がいたら、他の人とはできないのが当たり前』その言葉に、自嘲的な笑みがこぼれる。

「ふふふ。何だ。じゃあ絢斗は、そんなに私の事好きじゃなかったのか。だって、私がいたのに奥さんと寝れたんだもんね?あーあ、本当馬鹿みたい。あんな薄情な奴の事なんか、さっさと吹っ切らなきゃ」

「……吉澤さん、それなりにお前のこと好きだったと思うぞ?俺だいぶ牽制されてたし」

「牽制?あっ!そう言えば高遠の好きな人って、私だったの?前に『今までの人生の中で一番心を持ってかれてる』って言ってたよね?こんな私のどこがいいの?ていうか、いつから好きでいてくれたの?」

「はあ?お前…本当余計なことばっかり覚えてやがんな。ああそーだよ。ずっと前からお前の事が好きでした!悪りぃか?おかしいか?
お前の良い所?まず、頭良いのに馬鹿で抜けてるとこだろ。あと口が悪くて、酒癖悪くて、人んちでゲロして、ゲロ臭を充満させるとことかだよ!」

「ちょっと!それって完全にディスってるじゃん!ていうか、高遠の前で吐いたの。今回が初めてだし」

「うっせぇな。いいからさっさと寝ろよ。明日も仕事だぞ。……黙んないなら本当に犯すぞ!このバカ!」

高遠は不貞腐れたようにそう言うと、背中から話しかけるなオーラを発し始めた。
私は高遠が着ているシャツの背中を小さく掴んで「ありがと。高遠」と小さく小さく呟き、眠りに落ちた。


「…吉澤さん。本当何やってんだよ。こいつにこんなに思われてんのに、泣かすなよ。俺だったら、こんな風に泣かさねぇのにな…。ったく、人の気も知らねーで。いい気なもんだ」

夢の中で、誰かがそう言いながら、優しく頭を撫でてくれたような気がした。
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