※R18 私との恋は本気ではなかったということでしょうか?

キリン

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食欲が減退するもんじゃを作りだしてみました。

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「ねえ、ちょっと聞いてんの?どうして私じゃダメだったかって訊いてんだけど!何が足りなかったの?私の何がいけなかったってのよぉ……」

「おい!寝んなよ!目を開けろ!だから、吉澤さんの件については、別にお前どうこうの話じゃねーって言ってんだろう?」

目を閉じるなと言われても、上瞼と下瞼が愛を囁き合い、くっつきたがっているのだから仕方ない。無理やり仲を引き裂くなんて可哀想じゃないか。

「もう何度も言ってっけどな!その件についてお前は何も悪かねえ。けどな、俺が今敢えてお前の悪いとこをあげるならな!いい年して自分の限界も弁わきまえず、前後不覚になるまで呑むとこだ!分かったか?ほら、立てよ!」

「うぅぅ。だって、私じゃダメだったから、私は選ばれなかったんでしょ?ねえ、私はどうしたら良かったの?どうするのが正解だったの?教えてよぉぉ…」

「……お前、人の話を全然聞いてねーな?ああ面倒臭ぇ…。さあ、何でだろうな?どーしてだろうな?不思議だな?分かった。分かったから、ほら立て!帰んぞ?」

高遠は呆れ果てたように溜息を吐き、棒読みで共感の言葉を並べた。

「ちょっとあんた今、面倒臭ぇって言った?しかも何が分かったって言うのよ?酷い!酷すぎる!どうせあんたは、私をタチの悪い酔っ払いだとしか思ってないんでしょ?」

「…今のお前が酔っ払いじゃなかったら、地球上の人間は皆、素面って事になるだろうがよ!ほら立て!」

高遠が私を立ち上がらせようと左手を引っ張り上げた。それに合わせて私も立ち上がろうとした…のだけれど、うまく足に力が入らず、再びペタリと座り込んでしまう。



「絢斗の何処が好きだったか」という質問は、的確に私の傷を抉った。胸がじくじくと痛み、遣る瀬無さで泣きたくなった。そんな気持ちを誤魔化す為に、私は美優先輩に勧められるがまま、ビールと冷酒をちゃんぽんして飲んだ。

この蒸し暑い時期、キンキンに冷えたビールは最高だ!冷酒もまた口当たりが良く、美味しくて最高なので、ついつい呑み過ぎてしまった。

午後九時をまわると、美優先輩はシンデレラタイムに眠る重要性を語るだけ語って、さっさと帰ってしまった。こんな気持ちを抱えたまま独りになりたくなかった私は、それに合わせてお開きにしようとした高遠の腕をガシッと掴み、強引に隣に座らせて、今まで飲み続けていたのだ。


会計を済ませた高遠がどうにか私を歩かせようと苦心していると、大将が心配そうな顔をしてカウンター越しに声を掛けてきた。

「真尋ちゃん。そんな状態じゃ電車も乗れないだろ?タクシーだって、乗車拒否されるかも知れないし。悪い事は言わないから、今日はこの近辺で泊まれる所を探した方がいいよ。じゃあ気をつけてな。毎度あり」

大将からの忠告に、高遠は「マジかよ…」と絶望するように天を仰いだ。

「…仕方ねえ。汚ねーけど、うちでいいか?俺んちならここから歩いて帰れるし。今からホテル探すったって、こんな時間じゃ見つかるかどうかも分かんねーし。女のお前じゃ、カプセルホテルや漫喫ってわけにもいかねーしな。つーか、お前ちゃんと歩けよ!」

ちゃんと歩けと言われても、歩けないのだから仕方ない。上手く力が入らず、今の私の体は軟体動物のようにぐにゃんぐにゃんなのだ。

「ええー。私、高遠にお持ち帰りされちゃうの~?高遠ったら、や~らしい」

「…好きで持ち帰るわけじゃねーよ!てか、そもそも俺は泥酔してる女に手を出す程困ってねーし。外道でもねえ」

「まあ、なんて破廉恥な!いつも素面の子をお持ち帰りしてるって事?いやん、このスケベ!」

「お前…マジで放置して帰るぞ?心配すんな。明日出社する時に骨は拾ってやる」

高遠は冷たい目で私を見下ろしながら、私を支える腕から力を抜いた。支えを失いバランスを崩した私は、慌てて高遠にしがみつく。

「ちょっと!何すんのよ!危ないでしょうが!」

「知らねーし。人聞きの悪い事いう奴は放置する事にしたわ。じゃあな」

そう言って、高遠は再び私を突き放そうとする。

「ごめんて!冗談よ、冗談!てか、放置って酷くない?ネグレクトって立派な虐待だよ?虐待はんたーい!」

「虐待ってお前…。俺を何だと思ってんだよ」

「へっ?ママじゃないの?だって高遠おかん気質じゃん。ママー抱っこぉ~!」

「…ママ?せめてそこはパパにしとけよ!性別まで変わってんじゃねーか!てか、そもそも俺はお前の親にはなりえねーから!俺の方がお前よりも誕生日遅いから!俺の方が若者なの!」

「よし!そこの若造!いざ行くぞ!」

戦に向かう武将が如く私が拳を天高く掲げると、高遠は疲れ切った声で「いざ行くぞって…何処行く気だよ」と呆れながら呟いた。

「そんなん決まってるじゃん!高遠邸でしょ?妾は楽しみじゃ。苦しゅうないぞ、爺や…あ、小僧か?」

「誰が小僧だ!誰がっ!お前いい加減しないとマジで埋めんぞ!」

高遠はどうにか私を歩かせようとしたけれど、それでも上手く歩けないもんだから、「いつか殺す」と物騒な言葉を吐き捨てて、私をおぶって歩き始めた。
泥酔していた私は、子供の頃ぶりのおんぶが思いの外嬉しかったらしい。その証拠に『はじめてのお使い』のテーマソングを、高遠の背中で大熱唱していた…そうだ。



私の住むマンションは、会社の最寄り駅から八駅離れた所にある。八駅といっても、二十分ちょっとで着くから、通勤も然程苦ではない。

私がその街を選んだ理由は、家賃相場がこの近辺よりも安いから。この近辺の相場と同じくらい払えば、もっといい条件の部屋に住むことができる。大学時代に空き巣に入られた事のある私にとって、セキュリティーの充実度は最重要条件だった。後はキッチンの広さ。一口コンロでは料理が作り辛いから、最低二口は欲しかったのだ。
だから、多少通勤に時間が掛かろうと、それらの条件を全てクリアしている今の部屋に、私は大変満足している。

一方、高遠の部屋は、築年数こそ古いらしいが、生意気な事に、会社からも最寄り駅からも近く、余裕で歩ける距離にあるらしい。住居のセキュリティーや広さよりも通勤の楽さを選ぶとは実に高遠らしい。


暫く歩くと、高遠は十階建てのマンションの前で足を止めた。「ここだ」と顎をしゃくって示したマンションは、リノベーションされているのか、聞いていた程築年数がいっているようには見えなかった。

「いいか?中に入ったら静かにしろよ。近所迷惑になるからな」

まるで幼児を諭すように私に言い聞かせると、高遠は私を負ぶったままエントランスに入った。
マンション内も外観同様綺麗にリノベーションされていた。だが、勿論オートロックではなく、造りもどことなく年季を感じさせるものだった。

高遠はエレベーターの前で私を背中からおろすと、私を支えながらエレベーターに乗りこみ、九階のボタンを押した。

(へぇ~。高遠んちって九階なんだ。見晴らし良いのかなぁ?)

そんな事をぼんやり考えながら、私は見知らぬ空間に高遠と二人でいるという、非日常的な光景を夢心地で眺めていた。

エレベーターがぐんぐん上昇する。九階で止まる直前に、いつも感じる内臓が浮くようなふわっとした感覚がした。今の私の状況で内臓が浮くような感じがするという事は、すなわち胃の内容物までふわっと出て来そうになるという事で…。

「……高遠。ごめん。気持ち悪い…吐きそう」

私が右手を口に押し当ててどうにか堪えている間に、高遠は私をエレベーターから自分の部屋まで引きずって行き、玄関横のトイレへと連れていってくれた。

「はぁぁ…間に合って良かったわ…。エレベーターの中でそんな酸っぱい臭いもんじゃを作り出されたら、最悪、俺引っ越さなきゃならなくなるとこだった…」

便器の中に顔を突っ込み、涙も鼻水も垂らしながら嘔吐している私を呆れ顔で見ながら、高遠がボソッと呟いた。

「……あんた、もんじゃ好きじゃん」

「いや確かに、明太モチチーズは神だけどな?つーか、今は食べ物の話はやめよう。もらいゲロしそうだ…」

高遠は徐に立ち上がると、部屋に充満する臭いをどうにかするべく、換気扇を回し、窓を開けに行った。

……初訪問にもかかわらず、初っ端から便器とお友達って…。いくら高遠相手でも、さすがに私、とんでもなく失礼なヤツだわ。
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