悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは

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番外編・公爵閣下の夢のお告げ6

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正直半信半疑だったが、オリバー様にはしっかり効果があったようだった。

「もう悲しまなくて大丈夫だよ、僕にはずっと君だけだ。……怒ったりしてごめんね、怖がらせてしまった?」

「いいえ……(すごく怖かったです!!)」

「でも、エリーからこんな言葉を聞けただけで、今回の首謀者を許せそうだ。……必ず報復するし、後悔させてやるけど」

よく聞き取れないけれど、オリバー様が何だか不穏な事を呟いている。

けれど、一日ぶりにオリバー様の腕の中で彼の香りに包まれていると、ようやく心の底からホッとできた。

(良かった……。他の女性なんていなくて、本当に良かったわ……)

「わたくしも、ずっと一緒にいたいです……」

そう言って、そっと両手をオリバー様の背中に回したら、後ろから彼の従者の叫び声が聞こえた。

「お二人とも何言ってるんですか! 
仲直りしたのなら、早くあちらにお返ししないと!
グリサリオ家からの問い合わせが、矢の催促なんですよー!」

「うるさい、邪魔をするな」

「オリバー様念願の婚約が消滅する前に、馬車の用意させますからね!
僕の昨日からの寝ずの苦労を、水の泡にしないで下さいよ、もー!」

せっかくいい雰囲気だったのに、と絞り出すように零すと、オリバー様は艷やかな漆黒の髪をかき上げながら残念そうに眉を下げ、

「今回の件はこちらで対処しておくから心配しなくていい。ジョージが怒鳴り込んで来る前に送っていくよ、着替えてくるから少し待っていて」

そう言ってわたくしの銀髪をするりと撫でながら一房指に絡めると、唇を落として名残惜しそうに離し立ち上がった。

「はい、有難うございます」

応接室から出ていくオリバー様の背中を見送ると、早速侍女が新しい紅茶の用意をしてくれる。
二度と温い紅茶を飲まずに済みますようにと祈っていると、彼の従者が共に出て行かず部屋に残っているのが目の端に写った。

「あの、先程は助けてくれてありがとう」

「とんでもないです、こちらこそオリバー様のブリザード止めて頂いて有難かったです」

「見掛けた事は無かったと思うけれど、オリバー様に仕えて長いのかしら?ええと……」

「あ、 申し訳ありませんが、主が嫉妬深くて名乗れないので婚姻成立まではご容赦を!
でも女神のご尊顔を拝せて光栄です!」

「……女神?」

「エリザベス様はアプロウズにとって救いの女神様ですから!
いやー、打倒王家とか掲げて暗躍せずに済んで御の字です。
何せ旦那様は穏健派ですし、この婚約に涙を流して喜んでらっしゃいました」

わはは、と訳の分からない事を捲し立てながらニコニコしている。

(だ、打倒王家……? アプロウズ家では一般的な軽口なのかしら。何の暗喩なのか良く分からないけれど、歓迎はされているみたい?)

その後すぐ応接室に戻られたオリバー様にエスコートされ、玄関ホールへと向かう。

突然訪ねて来た時には余裕が無くて気付かなかったけれど、青薔薇をモチーフにした重厚なアプロウズ邸の至る所に黄薔薇が飾られていた。

(グリサリオが青薔薇で彩られているように、アプロウズもこの婚約を喜んでくれているのね……嬉しい……)

「ところでエリー、明日の朝は公爵閣下にどんな夢のお告げがあったか聞いておいてね」

「えっ? 夢のお告げ?」

「これは、もしかしたら公爵閣下が夢のお告げを見れるかもしれない特別な手紙なんだ」

オリバー様は、右手に持っていたミッドナイトブルーの地に、金の箔押し加工が施されている美しい封筒を差し出した。
封蝋にアプロウズの紋章が押されている。

「そ、それはどういう……。そんな魔法があるのですか!?」

「まさか! いくら僕でも夢を操ったりは出来ないよ。でも、亡き公爵夫人の手紙を読ませて貰った限りでは、意気投合出来る部分が多かったから想像がつくだけ」

「…………………オリバー様とお母様が?」

ここは素直に喜ぶべきなのか、でもなぜだか喜べないような複雑な気持ちが胸中に渦巻く。

「うちの父からの手紙なんだけど……。
そうだな、エリーから『嫁ぐ私を安心させると思って真剣にご検討下さい』って閣下に渡して貰えるかな?」

そう言うと、オリバー様はその紺碧の瞳を鮮やかに煌めかせ、不敵に笑った。


_____________



その晩、グリサリオ公爵家の当主が休む主寝室の扉の前には、お兄様とわたくし、それから家令のエリックが集まっていた。

「ど、どうなさいますか、やはり旦那様を起こして差し上げた方が……?」

オロオロする家令のエリックに、お兄様も迷っていらっしゃるようだった。

「そうだな、さすがにこれは…………いや待て、夫婦の逢瀬を邪魔しては(母上に)叱られてしまうだろう」

「………………そ、そうですわね」

お父様の響き渡る寝言に後ろ髪を引かれながらも、三人とも目を合わせて頷くと自室へ戻ることにする。


『ち、違うんだ、シャーロット!!
 お願いだから信じてくれえぇぇぇ』

『誤解だ、再婚なぞする訳が無いだろう』

『愛してるのはシャーロットだけだ!』

『いやいやいや迷ってないぞ、少しも迷ってない ! 本当だ、許してくれぇぇぇ』


聞こえてくる寝言から、どんな内容の手紙だったか察してしまった……。
オリバー様が意気投合すると言うお母様が、どんな風にお父様を問い詰めているのか想像すると、知らず腕を擦ってしまう。

(お父様……、助けに入れずごめんなさい。
明日の朝はわたくしが熱い紅茶をお淹れしますね……)



    
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