32 / 34
番外編・公爵閣下の夢のお告げ5
しおりを挟むもちろん、わたくしは突撃した事を物凄く後悔した。
時間をどうか巻き戻して下さい!と亡きお母様に祈るくらいには……。
今は海より深く後悔しながら、生温くなった紅茶で喉を潤している。
壁際で存在を消している侍女達に目を向けるが、誰も視線を合わせてくれない。
「きちんと聞いているの、エリー」
「……ごめんなさい」
まだ怒りの冷めやらないオリバー様は、お説教中に意識を遠くに飛ばしていたわたくしに気付き、その美しい紺碧の瞳で鋭く見据えてくる。
「君に気持ちを打ち明けてからは、あれだけ想いを伝えてきたのに。まさか、疑われるとは思いもしなかったよ」
「……ごめんなさい。疑ったりして……コホン。いえ、その、わたくしあくまで事実確認で…決して疑っていた訳では……」
正直に言葉にした瞬間、オリバーさまの瞳が昏く沈むのを感じ慌てて訂正する。
(だめだめそんな昏い瞳だめぇぇ。
……どうしていつもこうなってしまうの?
あの流れからすると、わたくしが降り掛かる様々な問題を解決したり、ピンクブロンドの方とドンパチする感じだったわよね?
そして最後には、オリバー様と幸せに結ばれる。
そんな悪役令嬢大活躍の物語が、始まりそうだったわよね!? そうよね?)
オリバー様は、他にお付き合いのある女性がいたのではと疑われた事が余程心外らしく、黃薔薇に彩られたアプロウズ家の応接室はブリザードが吹き荒れていた。
(豪奢な花瓶に活けられている薔薇が凍えてしまいそう……ささ寒っ……)
「……それで、今日のお茶会の主催はレモネル侯爵家なんだよね。学院の噂だと最初に君の耳に入れたのもイザベラ嬢だと」
「ええ、あの、学院では……」
「そんなふざけた噂立つわけがないよね。そんな脇の甘い男に見えるの? 僕が?
君に一途だった僕が?」
お聞きする前に答えられてしまい二の句が継げない……。
「……申し訳ありません(火に油を注いでしまったわ……)」
どうやら例の女性との関係だけでなく、噂すら真実では無かったみたいだ。
「……つまり、浅はかにもわたくし踊らされてしまったんですのね」
「まぁ、僕達の関係に一石を投じて、時間稼ぎをしたい者達がいるんだろうね」
グリサリオとアプロウズの婚姻は、勢力図のバランスが崩れると眉を顰める者は多いだろう。
五つの公爵家が王家を支える五柱として強固な結束を誇るのは、決して均衡を崩してはならぬとの不文律があるからだ。
それを破っての強引な婚姻なので覚悟はしていたけれど、まだ公になる前だからと油断していた。
「わたくし、こんな分かりやすい動きなのに……。王太子妃教育まで受けていてこの程度の対処すら出来ないなんて、本当に申し訳ありません」
「エリー! 今は王太子妃教育の話などしていない!」
オリバー様は呆れてしまったのか、謝れば謝るほど不機嫌になっている。
心做しか壁際に控えている侍女達の顔色が先程より悪い……。
(どうしたら許して頂けるのかしら、だってもう謝るくらいしか……。ううん、ここはしっかりとした対応策を提示して……え?)
ふと、オリバー様の後ろに控える彼の従者が、何か合図を送ってきているのに気付く。
(えっ? 何かしら、上目遣いでお祈りポーズ? 後はもう神に祈るしかないって事?)
もはや打つ手はないのかと青褪めていると、脳裏に以前革命組織に拐われた時オリバー様に言われた台詞が浮かぶ……。
『普通に考えて、オーリごめんなさい怖かった!と僕に抱きついて慰められるところだろう!』
『そんな上目遣いをして…』
(もしかして、上目遣いで甘えて下さいの合図なの?
でも、あの言葉もあの場の冗談だったのよね……。きっと余計怒られるからやりたくないわ、やりたくないけど……)
必死にジェスチャーで訴えてくる従者の姿が、先程必死に止めてきたラリサに被り、アドバイスに従った方が良いのかと心が揺れる。
それに、心のどこかでオリバー様はわたくしが甘えたり頼ったりしても、弱い所も全部受け入れて下さる方だと感じてもいた。
わたくしは決心すると、ソファの隣に座るオリバー様にしっかりと向き直った。
「あ、あのオーリ!」
「……えっ?」
深い紺碧の瞳を見開くオリバー様を、両手を胸の前で握り締めながら上目遣いで見つめる。
「オーリごめんなさい。あなたに他の女性がいらしたのかと思って悲しかったの!! 」
そして、思い切ってオリバー様の胸に飛び込んだ。
「…………!」
頬にオリバー様の温もりを感じながら、機嫌を直して慰めてくれるだろうか、それともやはり怒られるのかとドキドキしながら静かに待つ。
(……許して貰えたらずっとこうしていたい。
馬鹿みたいに慌てないでオリバー様をちゃんと信じていれば良かったんだわ……)
でも、いくら待っても何も反応が無い事に耐えられなくなり、そっと離れようとした瞬間、オリバー様の腕に強く抱きしめられた。
「………………こんなの可愛すぎて怒り続けるの無理だろう。もう、グリサリオにも帰したくない」
(本当に効いた……!?)
17
お気に入りに追加
1,040
あなたにおすすめの小説

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

彼の秘密はどうでもいい
真朱
恋愛
アンジェは、グレンフォードの過去を知っている。アンジェにとっては取るに足らないどうでもいいようなことなのだが、今や学園トップクラスのモテ男へと成長したグレンフォードにとっては、何としても隠し通したい黒歴史らしい。黒歴史もろともアンジェを始末したいほどに。…よろしい。受けてたちましょう。
◆なんちゃって異世界です。史実には一切基づいておりませんので、ご理解のほどお願いいたします。
◆あらすじはこんなカンジですが、お気楽コメディです。
◆ざまあのお話ではありません。ご理解の上での閲覧をお願いします。スカッとしなくてもクレームはご容赦ください。

悪役令嬢を追い込んだ王太子殿下こそが黒幕だったと知った私は、ざまぁすることにいたしました!
奏音 美都
恋愛
私、フローラは、王太子殿下からご婚約のお申し込みをいただきました。憧れていた王太子殿下からの求愛はとても嬉しかったのですが、気がかりは婚約者であるダリア様のことでした。そこで私は、ダリア様と婚約破棄してからでしたら、ご婚約をお受けいたしますと王太子殿下にお答えしたのでした。
その1ヶ月後、ダリア様とお父上のクノーリ宰相殿が法廷で糾弾され、断罪されることなど知らずに……

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる