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「赤毛の看板娘…ああ!エマって娘のいるパン屋かい!?」
「そうです、そこですわ!エマです!!」
エマの名前が出た途端叫んでいた。
(いるんだ!やっぱりエマはこの世界にいるんだわ…!!間違いなく本当に「うる薔薇」の物語の通りってことよね!?)
隣のオリバー様が訝しげに見てくるが、気が付かない振りをした。
オリバー様は色々と聞きたいことがあるだろうに、何も言わずに付き添ってくれている。
(ごめんなさい…!でもいま問い詰められても、理由なんて話せないもの。とにかくエマを見つけないと…)
「あの、そのお店はどちらにありますの!…いえ、ええと、…どこですか!」
「お、おう。そこの角を左に曲がって2つ目の十字路を…」
花屋の店主はわたくしの勢いに気圧されながらも、親切に教えてくれた。
「ありがとうございます!」
「エリー、見つかって良かったね」
「ええ!」
(エマがいたら…。やっぱり婚約破棄は間違って無かったって思えるわ!
自分の命のために仕方なかったんだって…。
そうしたら、そうしたらわたくし、これ以上公爵家に迷惑を掛けないような、そんな新しい婚約者を探して、そして…)
そう考えて、あれほど意気込んでいた婚約者探しに、なぜだか少し胸が痛んだ。
(これが最後かもしれないわね。新しい婚約者が決まれば、オリバー様とこうして手を繋ぐことも…)
ずっと繋がれたままの左手に目をやると、心に風が吹き込んでくるような気持ちがしたけれど、それを振り払うように、首を横にふった。
「いまから行ってみますね。わたくしご店主のご親切はきっと忘れませんわ。」
「うーん、だがよ。あんまり貴族のお嬢ちゃんにオススメ出来ねぇって言うか…
何で探してるか知らねぇが、近づかねぇほうがいいと思うぜ」
そう言って、気まずそうに顎ひげをポリポリと掻いて、人の良さそうな顔を歪めた。
「……?この辺りで評判のパン屋、ですわよね?」
「とんでもねぇ、あそこは赤毛の娘に乗っ取られちまって。気のいい女店主がうまいパンを焼いてくれてたんだがなぁ…」
「えっ、なんて?」
(乗っ取り?誰が…)
「ずいぶん不穏だね」
「そ、そんなわけは…。あの、気立ての良い綺麗な娘さんがいて、繁盛してるのでは…?」
「とんでもねぇ!パンはすっかり不味くなっちまうし、目付きの悪い奴らが出入りするようになってな」
「…そうなんですのね」
「悪いことは言わねぇ、俺が最高の花束作っとくから、行くならさっさと用事済ませてくるんだぜ」
花屋の店主が店内に戻っていくのを見送ると、隣のオリバー様を窺った。
「あの、これからパン屋に…」
「エリーにどんな用があるのかは知らないけど…。今日はやめておこうか?後で手の者に調べさせてからの方が良さそうだよ」
「わたくし、どうしても行きたいんです!せめて様子を見るだけでも…お願いします」
「さすがに不安要素のある場所には連れて行ってあげられないよ」
「そんな、せっかくここまできたのに…」
「うーん、エリーがプロポーズを受けてくれるならお願いを聞いてあげても…」
オリバー様はその漆黒の闇色の髪をかきあげながら、おどけたように瞳を艶めかせた。
「結婚はできませんわ」
「はっきり言うなぁ。諦める気は無いけど、やっぱり傷付くよね」
「…………だって本当に無理だもの」
「どうして無理だと思うの?まあ、そうやってエリーの素が見られるのは嬉しいけどね。」
(わたくしの素?…確かに王太子殿下とは、こんな風にやり取りをした事なんて無かったわ……)
何て返していいのか分からず俯いていると、オリバー様が手を強く握り直した。
「そんな顔されると弱いな…。本当に様子を見るだけだよ?」
「……!ありがとうございます!!」
「そうです、そこですわ!エマです!!」
エマの名前が出た途端叫んでいた。
(いるんだ!やっぱりエマはこの世界にいるんだわ…!!間違いなく本当に「うる薔薇」の物語の通りってことよね!?)
隣のオリバー様が訝しげに見てくるが、気が付かない振りをした。
オリバー様は色々と聞きたいことがあるだろうに、何も言わずに付き添ってくれている。
(ごめんなさい…!でもいま問い詰められても、理由なんて話せないもの。とにかくエマを見つけないと…)
「あの、そのお店はどちらにありますの!…いえ、ええと、…どこですか!」
「お、おう。そこの角を左に曲がって2つ目の十字路を…」
花屋の店主はわたくしの勢いに気圧されながらも、親切に教えてくれた。
「ありがとうございます!」
「エリー、見つかって良かったね」
「ええ!」
(エマがいたら…。やっぱり婚約破棄は間違って無かったって思えるわ!
自分の命のために仕方なかったんだって…。
そうしたら、そうしたらわたくし、これ以上公爵家に迷惑を掛けないような、そんな新しい婚約者を探して、そして…)
そう考えて、あれほど意気込んでいた婚約者探しに、なぜだか少し胸が痛んだ。
(これが最後かもしれないわね。新しい婚約者が決まれば、オリバー様とこうして手を繋ぐことも…)
ずっと繋がれたままの左手に目をやると、心に風が吹き込んでくるような気持ちがしたけれど、それを振り払うように、首を横にふった。
「いまから行ってみますね。わたくしご店主のご親切はきっと忘れませんわ。」
「うーん、だがよ。あんまり貴族のお嬢ちゃんにオススメ出来ねぇって言うか…
何で探してるか知らねぇが、近づかねぇほうがいいと思うぜ」
そう言って、気まずそうに顎ひげをポリポリと掻いて、人の良さそうな顔を歪めた。
「……?この辺りで評判のパン屋、ですわよね?」
「とんでもねぇ、あそこは赤毛の娘に乗っ取られちまって。気のいい女店主がうまいパンを焼いてくれてたんだがなぁ…」
「えっ、なんて?」
(乗っ取り?誰が…)
「ずいぶん不穏だね」
「そ、そんなわけは…。あの、気立ての良い綺麗な娘さんがいて、繁盛してるのでは…?」
「とんでもねぇ!パンはすっかり不味くなっちまうし、目付きの悪い奴らが出入りするようになってな」
「…そうなんですのね」
「悪いことは言わねぇ、俺が最高の花束作っとくから、行くならさっさと用事済ませてくるんだぜ」
花屋の店主が店内に戻っていくのを見送ると、隣のオリバー様を窺った。
「あの、これからパン屋に…」
「エリーにどんな用があるのかは知らないけど…。今日はやめておこうか?後で手の者に調べさせてからの方が良さそうだよ」
「わたくし、どうしても行きたいんです!せめて様子を見るだけでも…お願いします」
「さすがに不安要素のある場所には連れて行ってあげられないよ」
「そんな、せっかくここまできたのに…」
「うーん、エリーがプロポーズを受けてくれるならお願いを聞いてあげても…」
オリバー様はその漆黒の闇色の髪をかきあげながら、おどけたように瞳を艶めかせた。
「結婚はできませんわ」
「はっきり言うなぁ。諦める気は無いけど、やっぱり傷付くよね」
「…………だって本当に無理だもの」
「どうして無理だと思うの?まあ、そうやってエリーの素が見られるのは嬉しいけどね。」
(わたくしの素?…確かに王太子殿下とは、こんな風にやり取りをした事なんて無かったわ……)
何て返していいのか分からず俯いていると、オリバー様が手を強く握り直した。
「そんな顔されると弱いな…。本当に様子を見るだけだよ?」
「……!ありがとうございます!!」
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