悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは

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「今朝は公爵閣下はご一緒ではないの?」

「ああ、父は昨夜は王宮泊まりでね。せっかく慌てて来たのに、残念だったな」

「…何だかあまり心がこもって無さそうだけど?閣下には改めてご挨拶に伺うよ」

お兄様とオリバー様の会話を、淑女の微笑みで聞くとはなしに聞く。

(お父様にご用だったのかしら。それにしても、婚約者探しについては、お父様に直接お話ししたほうが良さそうね…)

「それはそうと、今朝のエリザベス嬢はまるで月の女神の化身のようだね。淡くて触れたら消えてしまいそうだ」

「ふふふ、お口がお上手ですのね」

(分かるわ!全身黄色で薄ぼんやりしているものね)

「宵闇の君」がその美しい紺碧の瞳を艶めかせながら語る社交辞令を、適当に流しながら、ミモザソースのかかった前菜を一口食べた。 

(「お母様のお告げ」の副作用で食卓まで公爵家カラーだわ…)

「社交辞令じゃないんだけどな。ねぇ、さっきは二人で何の話をしていたの?」

「あら、何だったかしら?」

「嫁ぐのどうのと言っていたようだけど」

「…そうだったかしら」

お兄様の顔色を窺うが、黙々と食事を進めていて、助け船は出して下さらないようだ。

「王太子殿下との婚約が取り止めになったとの噂を聞いたよ、まさかもう他の誰かと、なんてことは無いよね?」

「どうなのかしら。…そういったことはお父様とお兄様にお任せしていますわ」

(いずれ王太子妃になる者として、籠の中の鳥だったわたくしに、どんな出会いがあるというのかしら…。だからこそ急いで次を探さなきゃいけないのに!)

前世の記憶を思い出して、ここが「うる薔薇」の世界だと知った時に、決めたことは2つ。

王太子殿下との婚約を阻止すること。

新しい婚約者を探すこと。

単純だけれど、別の誰かと婚姻してしまえば、物語は大きく改変されることになる。

(お兄様のお陰であっさり婚約破棄はできたものの、毒殺なんて未来はこれでもかと踏み潰して、早く安心したいわ…)

心の中でそっと作者様に手を合わせる。

(ごめんなさい、勝手に変えて…。でもそもそも第1幕ってエリザベスにひどい結末すぎるわよ!)

「色んな噂が飛び交ってるけど、理由はなに?」

「王家に関わる事ですので…」

「殿下のことが嫌いになったの?」

「まさかそんな…。殿下は素晴らしい方ですわ。(ハニトラに引っかかるけど)」

「想い人が出来ちゃった?」

「………」

高位貴族とは思えない率直な質問の嵐に絶句する。

(えーと、アプロウズ家のオリバー様ってこんな方だったかしら!?以前はお兄様のご友人として、もっと節度のある態度だったような)

「ふーん、どうやら相手はいなそうだね、もしそうならジョージも呑気に朝食の席にいないだろうし…」

オリバー様がチラッとお兄様を伺い、何やらブツブツ呟いているが、よく聞こえない。

「じゃあ、僕もエリーと呼んでいいよね?」

「は?」

「僕のことはオーリと」

「…はい?」

「じゃあ決まりね」

にっこりと蠱惑的な微笑みをするオリバー様を見て、公爵令嬢として不用意に返してしまったことに気付く。

「いいえ、あの、今のは返答ではなく…!」

「オリバー!さすがに距離をつめ過ぎだ!馴れ馴れしすぎるぞ」

(なんの冗談?…殿下との婚約がなくなったから、気軽な態度ってことかしら?早く解放されて図書室で貴族名鑑を再チェックしたいのに…) 

ようやくお兄様がオリバー様を止めてくれたのでホッとしていると、爆弾は落とされたのだった。

「だってエリーは「王家の鳥籠」から外へ出るんだろう?
なら僕のところへおいで」
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