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第85話:話②
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〔言葉は人を傷つけるだけじゃない。人を幸せにする力があるんだ。両親からもそう教わったはずなのに、ずっと忘れていた。……ポーラ、君のおかげで私は人として大事な心を取り戻せたんだ。感謝してもしきれない〕
「こんなに大事なお話を渡しにしてくださって……ありがとうございます。感動で胸がいっぱいになります」
ルイ様は……私の日々の頑張りを見ていてくださったんだ。
どれだけ尊いことなのか、私にはよくわかる。
お屋敷に来て、一番幸せな瞬間だった。
ルイ様に信頼していただける……それだけで十分過ぎる幸せだ。
お話はこれで終わりかと思っていたけど、まだ……大事な続きがあった。
〔ここからは……自分の言葉で直接伝えたいと思う〕
な、なんだろう。
ドキドキとしながら続きを待つも、ルイ様は何も書かない。
空中に浮かぶ魔法文字が端から少しずつ薄くなって完全に消えたとき、ルイ様が口を開いた。
「私は………………君が好きだ」
初めて、ルイ様の声を聞いた。
低くて優しくて、それでいて力強いけど落ち着く声音……。
精霊に守られているような安心感に身体が包まれる。
ルイ様のお声が聞けて嬉しい。
お屋敷で過ごすうち、ルイ様は私の心の大部分を占めるようになった。
他の人たちとはまた違う意味の大切さ。
改めて自分の心と向き合う必要もなく、それがどういう意味なのか、今の私にはとてもよくわかる。
「私も…………ルイ様が好きです」
気がついたら、そう伝えていた。
私の心で一番強い気持ちを。
不思議と気恥ずかしさや不安は少しもない。
好きな人に自分の思いを伝えることがこんなに幸せだと、初めて知った。
ルイ様はポカンとしたかと思うと、見たことないくらいおずおずと慎重に私に言う。
「ほ、本当か……ポーラ」
「ええ、本当です。優しくて頼りになって、いつも私を大事にしてくださるルイ様が大好きです」
「わ、私が優しい……? 誰とも話そうとしないこの私が……?」
お伝えしても、ルイ様はポカンとしたままだった。
ルイ様は本人が思っている以上にとても優しいだ。
だって……。
「相手が見やすいように鏡文字で書いて、その人の目線に合わせてくれるではありませんか」
そうお伝えすると、ルイ様はハッとされた。
鏡文字なんて難しい書き方は、習得するのが本当に難しかっただろう。
私も昔書いてみようと挑戦したことがあるけど、あまりにも大変で途中で諦めてしまった。
日常会話に支障をきたさないスピードでサラサラと書けるようになるには、どれくらいの猛練習が必要だったのか想像に難くない。
ルイ様はいつも、話す相手によって魔法文字を書く場所を変えていた。
相手の背の高さに合わせて、高くしたり低くしたり……。
それも全て、相手が読みやすいようにという気遣いによるものなのだ。
私たちは、どちらともなく椅子から立ち上がった。
「……ポーラッ!」
「ルイ様っ!」
勢いよく抱き合う。
私の心は胸は、人生で一番の幸福感でいっぱいになった。
これ以上の幸せを、私は知らない。
腕の隙間から満天の星が見える。
全てを包み込むような藍色の夜空に、流星群が新たに二つ輝いた。
「こんなに大事なお話を渡しにしてくださって……ありがとうございます。感動で胸がいっぱいになります」
ルイ様は……私の日々の頑張りを見ていてくださったんだ。
どれだけ尊いことなのか、私にはよくわかる。
お屋敷に来て、一番幸せな瞬間だった。
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お話はこれで終わりかと思っていたけど、まだ……大事な続きがあった。
〔ここからは……自分の言葉で直接伝えたいと思う〕
な、なんだろう。
ドキドキとしながら続きを待つも、ルイ様は何も書かない。
空中に浮かぶ魔法文字が端から少しずつ薄くなって完全に消えたとき、ルイ様が口を開いた。
「私は………………君が好きだ」
初めて、ルイ様の声を聞いた。
低くて優しくて、それでいて力強いけど落ち着く声音……。
精霊に守られているような安心感に身体が包まれる。
ルイ様のお声が聞けて嬉しい。
お屋敷で過ごすうち、ルイ様は私の心の大部分を占めるようになった。
他の人たちとはまた違う意味の大切さ。
改めて自分の心と向き合う必要もなく、それがどういう意味なのか、今の私にはとてもよくわかる。
「私も…………ルイ様が好きです」
気がついたら、そう伝えていた。
私の心で一番強い気持ちを。
不思議と気恥ずかしさや不安は少しもない。
好きな人に自分の思いを伝えることがこんなに幸せだと、初めて知った。
ルイ様はポカンとしたかと思うと、見たことないくらいおずおずと慎重に私に言う。
「ほ、本当か……ポーラ」
「ええ、本当です。優しくて頼りになって、いつも私を大事にしてくださるルイ様が大好きです」
「わ、私が優しい……? 誰とも話そうとしないこの私が……?」
お伝えしても、ルイ様はポカンとしたままだった。
ルイ様は本人が思っている以上にとても優しいだ。
だって……。
「相手が見やすいように鏡文字で書いて、その人の目線に合わせてくれるではありませんか」
そうお伝えすると、ルイ様はハッとされた。
鏡文字なんて難しい書き方は、習得するのが本当に難しかっただろう。
私も昔書いてみようと挑戦したことがあるけど、あまりにも大変で途中で諦めてしまった。
日常会話に支障をきたさないスピードでサラサラと書けるようになるには、どれくらいの猛練習が必要だったのか想像に難くない。
ルイ様はいつも、話す相手によって魔法文字を書く場所を変えていた。
相手の背の高さに合わせて、高くしたり低くしたり……。
それも全て、相手が読みやすいようにという気遣いによるものなのだ。
私たちは、どちらともなく椅子から立ち上がった。
「……ポーラッ!」
「ルイ様っ!」
勢いよく抱き合う。
私の心は胸は、人生で一番の幸福感でいっぱいになった。
これ以上の幸せを、私は知らない。
腕の隙間から満天の星が見える。
全てを包み込むような藍色の夜空に、流星群が新たに二つ輝いた。
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