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第82話:後悔(Side:シルヴィー➆)②

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「お、お義父様とお母様!?」

 縄で縛られ衛兵の後に続いて歩くのは……お義父様とお母様だった。
 二人とも暗い顔で俯く。

「シルヴィー、貴様の両親もポーラ嬢へのいじめに加担していたな。虐待とも言える長年の所業は、とうてい許されることではない」

 さらに告げられるのは、お義父様とお母様への糾弾。
 どんどん状況が悪くなる。
 さすがのあたくしも焦りを感じるけど大丈夫。
 こちらにはまだ逆転の手段が残されている。
 傍らで俯くルシアン様に小声で話しかけた。

「ルシアン様……しっかりしてください。今こそ、ダングレーム家の力を見せつけるときですわ」
「……ダングレーム家の?」

 あたくしの言葉を聞くと、ルシアン様の表情に生気が戻る。
 この男を操って、裁判その物を壊してやるわ。
 
「そうですわ。メーンレント王国が誇る有力な伯爵家の力を、あの愚かな大臣たちに誇示するのです。ルシアン様はあんな愚か者たちに裁かれる人間ではありません」

 徐々にその顔に自信が現れる。
 ルシアン様は今や、獅子のような顔つきとなった。

「おい、俺はダングレーム伯爵家の跡取りだぞ! こんな裁判は無効だ! 伯爵家の顔に泥を塗ったな! むしろ、お前たちが裁かれる立場だろうが!」

 力強い叫び声が"裁きの間”に響く。
 最後にして、何よりも強力な頼みの綱――ダングレーム伯爵家。
 国内有数の名家ということは、大臣たちも知っているはずでしょうに。
 喧嘩を売ってしまったわね。
 愚か極まりない。
 そもそも、こんな裁判を開くこと自体間違っていたのだ。
 大臣たちは何も言わない。
 いや、言えない。
 あたくしは勝ち誇った気分だったけど、大臣が告げたのは衝撃的なセリフの数々だった。

「ルシアンよ、貴様はダングレーム家から正式に追放された。爵位も剥奪だ。もう伯爵家でもなんでもない」
「…………え?」

 ルシアン様の間抜けな声が、"裁きの間”に溶けるように消える。
 あたくしもまた、理解が追いつかなかった。
 正式に追放、爵位も剥奪ですって?
 呆然とするあたくしたちの前で、衛兵が一枚の紙を広げた。
 ルシアン様はダングレーム家から勘当された、という内容が書かれている。
 大臣の話したことは真実だったのだ。

「……クソッ……クソが! クソがあああ!」

 暴れるルシアン様を、衛兵が乱暴に取り押さえる。
 あたくしはというと、もう会話する気力さえなかった。
  

「貴様ら四人には……終身刑の判決を下す!」

 勢いよく裁判用の槌が振り下ろされる。
 カンッ! という音が響いた瞬間、衛兵があたくしたちの周りに集まった。
 有無を言わさぬ勢いで立たされる。 

「ちょ、ちょっと、離しなさい! 痛いでしょっ!」
「やめろ! 引っ張るな! 血が出てるんだぞ!」

 あたくしたちの訴えなど聞こえないかのように、衛兵は縄をさらに縛り上げる。
 無理やり方向転換させられると、地下へ続く階段の入り口が目に入った。
 不気味な黒い影が差し、ぽっかりと空いた口は恐ろしい怪物のようだ。
 自分たちがこれからどんな運命をたどるのか、嫌でも実感する。
 恐怖がわき上がり、背筋が凍った。
 お、お願い……やめて!
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