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第70話:王様の使者②

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 王様が危篤……。
 まさしく、青天の霹靂というくらいの衝撃だ。
 エヴァちゃんたちも呆然とするばかりで、お庭は不気味な静けさに包まれる。
 ルイ様だけはいつもと変わらぬ冷静な表情で、サラサラと魔法文字を書かれた。

〔詳しく話してくれ〕
「はっ! ポーラ嬢の義妹たるシルヴィー・オリオールが詩を詠んだ結果、王様の体調が著しく悪化してしまったのです。あらゆる秘薬や回復魔法も効果がまるでなく……このままではいつお亡くなりになるかわからないほど、危険な状態です」

 使者は暗い顔で俯きながら話す。
 その沈んだ表情から、王様の辛くて厳しい状態が目に浮かぶ。
 そして、何より……。

「シ、シルヴィーが詩を詠んだら悪化したとは、どういうことでしょうか……」

 実家にいるはずの義妹の名前が出てきたのだ。
 私を家から追い出し、無事ルシアン様と結ばれたはずのシルヴィーがなぜ……。
 何があったのかと緊張で喉が渇くのを感じながら尋ねると、使者は厳しい顔のまま説明を続けた。

「シルヴィーが持つスキル【忌み詞】は、詩を詠むことで他人を不幸にする力があるようなのです。その力に当てられ、王様は持病が悪化したと確認されました。今は医務室で絶対安静となっております」
「そ、そうだったのですか……」

 彼女のスキルにはそんな危険な力があったのか……。
 シルヴィーのことだから、スキルの研究や分析などしなかったのだろう。
 使者は姿勢を正すと、一段と真面目な顔で告げた。

「もうポーラ嬢のお力に頼る他ありません。どうか……王宮に来て、王様を救っていただけませんか?」

 考えなくても、答えはたった一つしかない。
 深呼吸すると、一息に言った。

「はい、もちろんです。全身全霊で詩を詠い、王様の病気を治します」
「ありがとうございます! ポーラ嬢が来て下されば王様も救われるはずです! では、すぐ早馬の手配をいたします。ロコルルに来るまでに、全ての魔力と転送札を使ってしまいましたので……」
〔問題ない。私が転送魔法でポーラを王宮に届ける〕
「ありがとうございます、ルイ様」

 ルイ様は国内きっての無詠唱魔法の使い手だ。
 転送なんて難しい魔法も使えてしまうのだろう。
 これ以上ないほど強い味方だった。
 辞書や羽ペンなどはいつも持ち歩いているので、私の準備も万端だ。

〔ポーラ、私の隣に来なさい。動かないように。だが、心配はいらない。すぐ終わる。少し眩しいだけだ。医務室へ直接行く〕
「わかりましたっ」

 ルイ様の隣に立つ。
 これから私は、王様の病気を治すという大役をこなさなければならない。
 緊張しないと言ったら嘘になる。
 でも、隣で魔力を練る人を見たら、すぐに緊張も不安も消え去った。
 柔らかな風に暗雲が流されていくように。

 ――ルイ様がいれば……何があっても大丈夫。

 そう強く思ったとき、私とルイ様は眩い白い光に包まれた。
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