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第59話:古代樹と詩②
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〔“久遠の樹”の葉は、本来なら美しい翠色なんだ。青みがかった緑色は、風に揺れるたび何物にも代えがたい輝きを放つ。君にも見せたい〕
「そうなんですねっ。もっと“久遠の樹”について聞かせてください、ルイ様!」
〔もちろんだ。一度、落ち葉を茶にできないかと思い煎じたことがあるんだが、これがまたうまい茶になったんだ。草原を吹き抜ける爽やかな風のようで……〕
本で読んだ普遍的な内容と、ルイ様からお聞きした“久遠の樹”特有のエピソードを合わせてノートにまとめる。
楽しい思い出がたくさんあるようで、“久遠の樹”について話すルイ様の表情は明るかった。
お話を聞きながら、私は思う。
――お屋敷で一緒に過ごすうち、ルイ様の顔に少しずつ感情が見えるようになってきた。
訪れたばかりの頃は無表情が張り付いたようなお顔だったけど、今はもう違う。
ふと、向かいの窓の外を見ると、窓枠に隠れるようにしてみんなが図書室を覗き込んでいた。
エヴァちゃん、アレン君、ガルシオさんにマルグリットさん。
なぜか、みんなワクワクしているような気がするけど……どうしたんだろう。
一瞬そんなことを思ったけど、すぐに頭を振って打ち消した。
いや、きっと気のせいだ。
それより今は詩の制作に集中しないと。
本を読み、お話を聞き、辞書をめくって羽ペンを走らせること一時間半ほど。
一篇の詩が完成した。
「……できました、ルイ様!」
〔見事だ、ポーラ。よく頑張ってくれた〕
詩ができあがって、室内が暗くなりつつあるのに気づいた。
空は西側から赤くなり、濃い藍色や青など、空には夜の気配が混じる。
時計を見ると、ちょうど黄昏時の時間帯だった。
「綺麗な空ですね……」
〔ああ、ポーラの詩にはぴったりの空だな〕
「では、夜になる前に森に行きましょう」
〔ん? 休まなくていいのか? 別に明日でも構わないが〕
ルイ様は明日で良いと言ってくれたけど、私はこの後すぐ詩を詠うつもりだった。
「いえ、今日やらせてください。一刻も早く癒してあげたいのです。……ルイ様の大事な樹ですから」
そう言うと、ルイ様は一段と真面目な顔になり、正面から私を見た。
視線がぶつかり、私の心臓がトクン……と軽やかに高鳴る。
ルイ様はしばし黙っていたかと思うと、キラキラと光る魔法文字を書いた。
〔ポーラ……ありがとう〕
その言葉は、私の目の中で満月のように煌々と輝いた。
エヴァちゃんたち四人と合流し、森の奥へと進む。
“久遠の樹”は美しい夕焼けを背景に、音もなく佇んでいた。
生命の象徴たる太陽がその姿を消したからか、昼間より死の気配を色濃く感じる。
一歩前に踏み出すと、背中からみんなが応援してくれる声が聞こえた。
「ポーラちゃん、頑張って!」
「僕たちも救われたのですから、古代樹も救われるはずですっ」
『お前なら絶対にうまくいくぞっ』
「あんたの力を見せとくれ!」
みな、固唾を飲んで私の詩を待つ。
深呼吸しながら、心の中で“久遠の樹”に語りかける。
――ルイ様の大事な古代樹……。辛かったね。今、元気にしてあげるから……。
大きく息を吸い、ルイ様と一緒に作った詩を詠う。
「そうなんですねっ。もっと“久遠の樹”について聞かせてください、ルイ様!」
〔もちろんだ。一度、落ち葉を茶にできないかと思い煎じたことがあるんだが、これがまたうまい茶になったんだ。草原を吹き抜ける爽やかな風のようで……〕
本で読んだ普遍的な内容と、ルイ様からお聞きした“久遠の樹”特有のエピソードを合わせてノートにまとめる。
楽しい思い出がたくさんあるようで、“久遠の樹”について話すルイ様の表情は明るかった。
お話を聞きながら、私は思う。
――お屋敷で一緒に過ごすうち、ルイ様の顔に少しずつ感情が見えるようになってきた。
訪れたばかりの頃は無表情が張り付いたようなお顔だったけど、今はもう違う。
ふと、向かいの窓の外を見ると、窓枠に隠れるようにしてみんなが図書室を覗き込んでいた。
エヴァちゃん、アレン君、ガルシオさんにマルグリットさん。
なぜか、みんなワクワクしているような気がするけど……どうしたんだろう。
一瞬そんなことを思ったけど、すぐに頭を振って打ち消した。
いや、きっと気のせいだ。
それより今は詩の制作に集中しないと。
本を読み、お話を聞き、辞書をめくって羽ペンを走らせること一時間半ほど。
一篇の詩が完成した。
「……できました、ルイ様!」
〔見事だ、ポーラ。よく頑張ってくれた〕
詩ができあがって、室内が暗くなりつつあるのに気づいた。
空は西側から赤くなり、濃い藍色や青など、空には夜の気配が混じる。
時計を見ると、ちょうど黄昏時の時間帯だった。
「綺麗な空ですね……」
〔ああ、ポーラの詩にはぴったりの空だな〕
「では、夜になる前に森に行きましょう」
〔ん? 休まなくていいのか? 別に明日でも構わないが〕
ルイ様は明日で良いと言ってくれたけど、私はこの後すぐ詩を詠うつもりだった。
「いえ、今日やらせてください。一刻も早く癒してあげたいのです。……ルイ様の大事な樹ですから」
そう言うと、ルイ様は一段と真面目な顔になり、正面から私を見た。
視線がぶつかり、私の心臓がトクン……と軽やかに高鳴る。
ルイ様はしばし黙っていたかと思うと、キラキラと光る魔法文字を書いた。
〔ポーラ……ありがとう〕
その言葉は、私の目の中で満月のように煌々と輝いた。
エヴァちゃんたち四人と合流し、森の奥へと進む。
“久遠の樹”は美しい夕焼けを背景に、音もなく佇んでいた。
生命の象徴たる太陽がその姿を消したからか、昼間より死の気配を色濃く感じる。
一歩前に踏み出すと、背中からみんなが応援してくれる声が聞こえた。
「ポーラちゃん、頑張って!」
「僕たちも救われたのですから、古代樹も救われるはずですっ」
『お前なら絶対にうまくいくぞっ』
「あんたの力を見せとくれ!」
みな、固唾を飲んで私の詩を待つ。
深呼吸しながら、心の中で“久遠の樹”に語りかける。
――ルイ様の大事な古代樹……。辛かったね。今、元気にしてあげるから……。
大きく息を吸い、ルイ様と一緒に作った詩を詠う。
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