59 / 88
第59話:古代樹と詩②
しおりを挟む
〔“久遠の樹”の葉は、本来なら美しい翠色なんだ。青みがかった緑色は、風に揺れるたび何物にも代えがたい輝きを放つ。君にも見せたい〕
「そうなんですねっ。もっと“久遠の樹”について聞かせてください、ルイ様!」
〔もちろんだ。一度、落ち葉を茶にできないかと思い煎じたことがあるんだが、これがまたうまい茶になったんだ。草原を吹き抜ける爽やかな風のようで……〕
本で読んだ普遍的な内容と、ルイ様からお聞きした“久遠の樹”特有のエピソードを合わせてノートにまとめる。
楽しい思い出がたくさんあるようで、“久遠の樹”について話すルイ様の表情は明るかった。
お話を聞きながら、私は思う。
――お屋敷で一緒に過ごすうち、ルイ様の顔に少しずつ感情が見えるようになってきた。
訪れたばかりの頃は無表情が張り付いたようなお顔だったけど、今はもう違う。
ふと、向かいの窓の外を見ると、窓枠に隠れるようにしてみんなが図書室を覗き込んでいた。
エヴァちゃん、アレン君、ガルシオさんにマルグリットさん。
なぜか、みんなワクワクしているような気がするけど……どうしたんだろう。
一瞬そんなことを思ったけど、すぐに頭を振って打ち消した。
いや、きっと気のせいだ。
それより今は詩の制作に集中しないと。
本を読み、お話を聞き、辞書をめくって羽ペンを走らせること一時間半ほど。
一篇の詩が完成した。
「……できました、ルイ様!」
〔見事だ、ポーラ。よく頑張ってくれた〕
詩ができあがって、室内が暗くなりつつあるのに気づいた。
空は西側から赤くなり、濃い藍色や青など、空には夜の気配が混じる。
時計を見ると、ちょうど黄昏時の時間帯だった。
「綺麗な空ですね……」
〔ああ、ポーラの詩にはぴったりの空だな〕
「では、夜になる前に森に行きましょう」
〔ん? 休まなくていいのか? 別に明日でも構わないが〕
ルイ様は明日で良いと言ってくれたけど、私はこの後すぐ詩を詠うつもりだった。
「いえ、今日やらせてください。一刻も早く癒してあげたいのです。……ルイ様の大事な樹ですから」
そう言うと、ルイ様は一段と真面目な顔になり、正面から私を見た。
視線がぶつかり、私の心臓がトクン……と軽やかに高鳴る。
ルイ様はしばし黙っていたかと思うと、キラキラと光る魔法文字を書いた。
〔ポーラ……ありがとう〕
その言葉は、私の目の中で満月のように煌々と輝いた。
エヴァちゃんたち四人と合流し、森の奥へと進む。
“久遠の樹”は美しい夕焼けを背景に、音もなく佇んでいた。
生命の象徴たる太陽がその姿を消したからか、昼間より死の気配を色濃く感じる。
一歩前に踏み出すと、背中からみんなが応援してくれる声が聞こえた。
「ポーラちゃん、頑張って!」
「僕たちも救われたのですから、古代樹も救われるはずですっ」
『お前なら絶対にうまくいくぞっ』
「あんたの力を見せとくれ!」
みな、固唾を飲んで私の詩を待つ。
深呼吸しながら、心の中で“久遠の樹”に語りかける。
――ルイ様の大事な古代樹……。辛かったね。今、元気にしてあげるから……。
大きく息を吸い、ルイ様と一緒に作った詩を詠う。
「そうなんですねっ。もっと“久遠の樹”について聞かせてください、ルイ様!」
〔もちろんだ。一度、落ち葉を茶にできないかと思い煎じたことがあるんだが、これがまたうまい茶になったんだ。草原を吹き抜ける爽やかな風のようで……〕
本で読んだ普遍的な内容と、ルイ様からお聞きした“久遠の樹”特有のエピソードを合わせてノートにまとめる。
楽しい思い出がたくさんあるようで、“久遠の樹”について話すルイ様の表情は明るかった。
お話を聞きながら、私は思う。
――お屋敷で一緒に過ごすうち、ルイ様の顔に少しずつ感情が見えるようになってきた。
訪れたばかりの頃は無表情が張り付いたようなお顔だったけど、今はもう違う。
ふと、向かいの窓の外を見ると、窓枠に隠れるようにしてみんなが図書室を覗き込んでいた。
エヴァちゃん、アレン君、ガルシオさんにマルグリットさん。
なぜか、みんなワクワクしているような気がするけど……どうしたんだろう。
一瞬そんなことを思ったけど、すぐに頭を振って打ち消した。
いや、きっと気のせいだ。
それより今は詩の制作に集中しないと。
本を読み、お話を聞き、辞書をめくって羽ペンを走らせること一時間半ほど。
一篇の詩が完成した。
「……できました、ルイ様!」
〔見事だ、ポーラ。よく頑張ってくれた〕
詩ができあがって、室内が暗くなりつつあるのに気づいた。
空は西側から赤くなり、濃い藍色や青など、空には夜の気配が混じる。
時計を見ると、ちょうど黄昏時の時間帯だった。
「綺麗な空ですね……」
〔ああ、ポーラの詩にはぴったりの空だな〕
「では、夜になる前に森に行きましょう」
〔ん? 休まなくていいのか? 別に明日でも構わないが〕
ルイ様は明日で良いと言ってくれたけど、私はこの後すぐ詩を詠うつもりだった。
「いえ、今日やらせてください。一刻も早く癒してあげたいのです。……ルイ様の大事な樹ですから」
そう言うと、ルイ様は一段と真面目な顔になり、正面から私を見た。
視線がぶつかり、私の心臓がトクン……と軽やかに高鳴る。
ルイ様はしばし黙っていたかと思うと、キラキラと光る魔法文字を書いた。
〔ポーラ……ありがとう〕
その言葉は、私の目の中で満月のように煌々と輝いた。
エヴァちゃんたち四人と合流し、森の奥へと進む。
“久遠の樹”は美しい夕焼けを背景に、音もなく佇んでいた。
生命の象徴たる太陽がその姿を消したからか、昼間より死の気配を色濃く感じる。
一歩前に踏み出すと、背中からみんなが応援してくれる声が聞こえた。
「ポーラちゃん、頑張って!」
「僕たちも救われたのですから、古代樹も救われるはずですっ」
『お前なら絶対にうまくいくぞっ』
「あんたの力を見せとくれ!」
みな、固唾を飲んで私の詩を待つ。
深呼吸しながら、心の中で“久遠の樹”に語りかける。
――ルイ様の大事な古代樹……。辛かったね。今、元気にしてあげるから……。
大きく息を吸い、ルイ様と一緒に作った詩を詠う。
438
お気に入りに追加
1,511
あなたにおすすめの小説
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】
倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。
時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから!
再投稿です。ご迷惑おかけします。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる