聖なる言霊を小言と馬鹿にされ婚約破棄されましたが、普段通りに仕事していたら辺境伯様に溺愛されています

青空あかな

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第56話:思い出の樹①

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「もしかして、ポーラも樹木医なのかい? そんな若いのに立派だねぇ」
「あ、いえ、違うんですっ。私はルイ様のメイドなのですが、【言霊】というスキルがありまして……」

 話の流れからか、樹木医と勘違いされてしまった。
 マルグリットさんにも、【言霊】スキルについて説明する。
 詩を詠うと願った通りの現象が……と話すと、大変興味深く聞いてくれた。

「……そんなスキルがあるんだねぇ。あたしも初めて聞いたよ」
「ですので、もしかしたら私の力で古代樹が救えるかもしれません。ルイ様の大切な樹は……守ってあげたいです。……ルイ様の大事なものは、私にとっても大事なものなので……」
「「ポーラちゃん(さん)……」」

 エヴァちゃんとアレン君は、目をうるうるとさせながら私を見る。
 呟いたのは、私の素直な気持ちだった。
 ルイ様はただ仕える人ではない。
 優しくて尊敬できる、とても素晴らしい人なのだ。
 私が言っても、しばらくルイ様は何も書かなかった。
 もしかして、失礼だったかな……。
 樹木医でもない私が余計はことを言ってしまったかもしれない。
 徐々に確信みが強くなり、慌てて謝りの言葉を述べる。

「も、申し訳ございませんっ、出過ぎた真似を……! 私に樹の状態などまるでわからないのに……! マルグリットさんが言うくらいなら、もうダメなんですよね」
〔いや、謝る必要はまったくない〕

 頭を下げた目線の先に、ちょうどルイ様の魔法文字が浮かんだ。
 いつもよりわずかに角が丸い文字で、そう書かれている。

「ル、ルイ様……?」
〔自分のことのように真剣に、君の他人を想う気持ちはとても素晴らしい〕
「こんな良い子がメイドだなんて、あんたは幸せ者だね」

 ルイ様もマルグリットさんも、私のことを褒めてくれた。
 じわじわと心が温かくなる。

「ポーラちゃんの優しさで胸がいっぱいになっちゃったよ……」
「僕も見習わなければいけませんね。」
『お前は本当に良いヤツだ……。フェンリルにもこんなヤツはなかなかいない……』

 エヴァちゃんとアレン君はほろりとハンカチで涙を拭き、いつの間にか、ガルシオさんまで瞳をうるうるさせていた。
 優しい人たちに囲まれて、私は本当に幸せ者だ。

〔では、一度古代樹を見に行こう〕
「あっ、すみません、ルイ様……まだお掃除の残りがありまして……」

 急いでいたので、掃除道具も片付けずに来てしまった。
 道具を出しっぱなしにするのは、心がちょっと痛い。
 集めた落ち葉や花びらなども、風が吹いたら飛んでいっちゃうかも……。

「心配しないで、ポーラちゃん。私たちがやっておくから」
「掃除より古代樹の方を優先してください」
『フェンリルの箒捌きを見せてやるよ。我ながらうまく使うんだ』

 三人は力強く言ってくれるけど、さすがに申し訳ない。
 自分の仕事は、最後まで自分でやらなければ……。
 心の中で葛藤していたら、ルイ様が伝えてくれた。

〔いや、君たちも来なさい。せっかくだからみんなで見よう〕
「「ありがとうございます、ルイ様(辺境伯様)!」」
『ルイのくせに気が利いているじゃないか』
〔うるさいぞ、ガルシオ〕

 ルイ様の後に続き、私たちは森を進む。
 方角としては北の方だ。
 十五分ほども歩くと、巨大な広場が現れた。
 この辺りだけ草木が刈り取られている。
 そして中央には、天を衝くほどの大きな樹がそびえる。
 高さは30mほどで、幹の太さは最低でも6mはありそうだ。
 こんな立派な樹は、今まで見たことがない。
 しかし、植物が芽吹く季節だというのに葉っぱは一枚もなく、枝は細々としており今にも折れそうだった。
 樹木医でなくても、命が尽きそうな気配をひしひしと感じる。
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