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第55話:樹木医②

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〔この女性はマルグリット。私の古い知り合いで、“ロコルル”近辺で一番の樹木医だ〕
「「樹木医の方なのですか!?」」

 私たち三人は、思わず驚きの声を出してしまった。
 樹木医とは、その名の通り樹を専門に診る医術師だ。
 王国でも数が少なく、私も初めてお会いした。

「よろしくね、三人とも。あいにくと、そんな驚くようなもんじゃないよ」

 私たちは自己紹介し、マルグリットさんと挨拶を交わす。
 男性のように力強い握手だった。
 いつの間にか、ガルシオさんも私たちのすぐ近くに来ていた。

『久しぶりだな、マルグリット。元気か?』
「ああ、もちろん元気だよ。あんたも健康そうだね。ちょっと太ったかい?」
『太っちゃいないさ』

 ガルシオさんとも面識があるらしく、二人は楽しそうに話していた。

〔彼女に来てもらったのは、ある樹の治療を頼みたいからだ。もっとも、すでに何度か診察を頼んでいたのだがな〕
「森の中でもだいぶ奥にあるから、いつも直接行っていたのさ。挨拶が遅れちまってすまないねぇ」

 申し訳なさそうに、マルグリットさんは苦笑いする。
 樹木医が来るくらいだから、特別大事な樹なのかな。

「お屋敷の大切な樹なのですか?」
〔ああ、古代樹だ〕
「「こ、古代樹っ!?」」

 ルイ様に尋ねると、またもや驚きの言葉を返されてしまった。
 森の奥にはそんな大事な樹があったんだ。
 古代樹とは、古の時代から生きる大変に貴重な樹木のことだ。
 世界的に見ても、十数本あるかないかと言われている。
 樹は長い歴史の中で枯れてしまったり、燃えてしまったり、伐採されてしまったりと、樹は唐突にその寿命を終えることがある。
 自分では動けないし……。
 そんな貴重な樹が領地の中に生えているなんて、やっぱりルイ様はすごい家系の人なんだな、と思った。

〔先代の辺境伯……つまり、私の両親との思い出が詰まる樹なのだが、もう限界らしい。切り倒すしかないだろうな〕
「あたしも秘薬やポーションを何度も調合したんだけどね……効果がないんだよ。古い樹だし、寿命がきちまったのかもしれないね……」

 ルイ様もマルグリットさんも、暗い顔で俯く。
 私はまだ見たことがないけど、二人の表情から至極深刻な状況なんだなと想像ついた。

『俺も元気になれ、と祈ってはいたんだが……』
〔ありがとう、ガルシオ〕
「あたしは自分の力不足が悔しいよ」

 みんなの話を聞くうちに、私の心はとある気持ちが強くなった。
 どうにかしたい……という強い気持ちが。

「お願いです、ルイ様、マルグリットさん。私に……その古代樹を治療させてくれませんか?」

 気がついたら力強くお願いしていた。
 ルイ様の思い出が詰まった大事な樹。
 切り倒してしまうなんて絶対にイヤだから。
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