上 下
54 / 88

第54話:樹木医①

しおりを挟む
「古の時代の結界魔法でも開いてしまうなんて、ポーラちゃんはすごい力の持ち主だ」
「【言霊】スキルは世界的に見ても類まれなスキルですね。そのうち、魔法学園から偉い人が調べに来ちゃうかもしれませんよ」
『さすがは俺たちのポーラだな。まさしく規格外の女性だ』

 よく晴れた昼下がり、お庭を掃除しながら私はみんなに囲まれる。
 “御影の書”の解読から一夜明け、いつもの日常が戻ってきた。

「ポーラちゃん、地下倉庫のお話を教えて」
「僕も姉さんも、気になって気になってしょうがないんですよ」
『俺だって気になるぞ。なにせ、一度も入ったことがないんだからな』

 三人は興奮した様子で私に詰め寄る。
 昨日はお屋敷に戻った後、すぐに仕事があったので、あまり詳しくは話せなかったのだ。
 ルイ様から、話す分には別に構わないと言われていた。
 私自身、あの貴重な時間を思い出すようにして、みんなにお話しする。

「階段の中は松明もないんだけど、ルイ様が魔法で照らしてくださって……地下にはアングルヴァン家に伝わる貴重なアイテムの数々が……」
「『うんうん!』」

 階段を降りたときの別世界に来たような感覚や、地下倉庫に保管されていた価値あるアイテムたち、そして古の時代より伝わる“御影の書”……。
 三人は目を輝かせて聞いていた。
 古代魔法のことはまた今度、ルイ様の許可をいただいてからお話ししようと思う。

「……ルイ様のおかげで、私は本当に得難い経験をしました。一生忘れないでしょう」
「ポーラさんが羨ましいです。僕もいつか自分の目で見たいですね」
『そのうち、フェンリルのアイテムも発見されてほしいな』

 アレン君とガルシオさんは楽しそうに話すも、エヴァちゃんは何やら深刻な顔だった。
 なんだか心配になる。

「エヴァちゃん、どうしたの? 頭でも痛い?」
「やっぱり……地下倉庫は怖かった?」
「えっ……」

 打って変わって、エヴァちゃんはワクワクした様子で尋ねる。
 具合は悪くなさそうで安心したものの、ちょっとばかし拍子抜けした気分で応えた。

「暗かったけど、別に怖くはなかったよ。ルイ様もいらっしゃったし、貴重なアイテムも怖いというより荘厳で威厳のある物ばかりだったね」
「そうなんだ……」

 正直に伝えるとしょんぼりしてしまったので、慌てて怖かったと伝え直す。
 ……そうだ、エヴァちゃんは怖がるのが好きなんだ。

「地下に続く階段はまるで地獄への階段のようで……眠りに就くアイテムが目覚めた瞬間を想像すると背筋が凍って……」
「やっぱり! ひぃぃ、おそろしやっ!」

 頑張って低い声で話すと予想以上に怖がってくれた。
 ふと、森の方を見ると、ルイ様がこっちに来るのが見える。
 隣には、四角い鞄を携えた見知らぬ中年の女性がいた。
 お客さんかな。
 荷物をお持ちするため、エヴァちゃんたちと急ぐ。
 ガルシオさんは驚かさないように、こっそりとお庭の花壇に隠れた。

「「こんにちはっ。お荷物お持ちします」」
「ありがとうよ。でも、大丈夫さ。見た目ほど重くはないからね」

 女性は鳶色の髪を頭の後ろで一つに縛っており、キリッとした鳶色の目が力強い。
 お歳は五十代半ばくらいかな。
 ルイ様が魔法文字を書いて紹介してくれた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢ですが、この度王太子の補佐官に選ばれました!

鈴宮(すずみや)
恋愛
 アインホルン侯爵家の末娘であるオティリエは他人の心を読みとる天性の能力の持ち主である。彼女は魅了持ちの姉イアマの能力により、父親や使用人たちから蔑み虐げられ、満足に食事も取れない日々を送っていた。  そんななか、オティリエはイアマとともに王宮で開かれる夜会に参加することに。そこで彼女は見目麗しく才気煥発な王太子ヴァーリックと出会う。ヴァーリックはイアマに魅了されないどころか、オティリエに対して優しい言葉をかけてくれたのだった。  そんな夢のような夜を終えた翌日、これまで以上に激しくイアマから虐げられていた彼女のもとをヴァーリックが訪れる。 「この家を出て、僕のために力を貸してほしい」  イアマの支配から逃れ自由になったオティリエ。他人の悪意にさらされず過ごせる日々に底しれぬ喜びを感じる。  なんとかしてヴァーリックの役に立ちたいと張り切るオティリエだったが、任されるのは心が読めなくてもできる普通の事務仕事ばかり。けれど、ヴァーリックは『それでいいのだ』と彼女を諭し、優しく導き続ける。そのくせヴァーリックは思わせぶりな行動ばかりとり、オティリエを大いに振り回すのだ。  そんななか、ヴァーリックの妃の座を狙うイアマが動き始め――?

婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ
恋愛
テンネル侯爵家の嫡男エドガーに真実の愛を見つけたと言われ、ブルーバーグ侯爵家の令嬢フローラは婚約破棄された。フローラにはとても良い結婚条件だったのだが……しかし、これを機に結婚よりも大好きな研究に打ち込もうと思っていたら、ガーデンパーティーで新たな出会いが待っていた。一方、テンネル侯爵家はエドガー達のやらかしが重なり、気づいた時には―。 ※『婚約破棄された地味令嬢は、あっという間に王子様に捕獲されました。』(現在は非公開です)をタイトルを変更して改稿をしています。  お気に入り登録・しおり等読んで頂いている皆様申し訳ございません。こちらの方を読んで頂ければと思います。

役立たずの聖女はいらないと他国に追いやられましたが、色々あっても今のほうが幸せです

風見ゆうみ
恋愛
リーニ・ラーラルは男爵令嬢であり、ノーンコル王国の聖女だ。 聖なる力が使えることで、王太子殿下であるフワエル様の婚約者になったわたしは、幼い頃から精一杯、国に尽くそうとしていた。 わたしは他の国の聖女に比べると落ちこぼれで、フワエル様に愛想を尽かされてしまう。 そして、隣国であるソーンウェル王国の優秀な聖女、ルルミー様と落ちこぼれのわたしを交換すると言われ、わたしはソーンウェル王国に向かうことになる。 ソーンウェル王国に迎えられたことにより、わたしが落ちこぼれだった理由やルルミー様の真実を知ることになる。 ※「小説家になろう」さんでも公開しています。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

処理中です...