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第43話:聞き捨てならない言葉(Side:シルヴィー③)①
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「まだ開店前だというのに、あんなにお客さんがいますわぁ」
「大繁盛じゃないか」
"言霊館 ver.シルヴィー”を開店し、もう数週間は経つ。
連日、あたくしは【忌み詞】で詩を読む毎日だった。
客の持ってくる無理難題を、慈愛の心で相手してやるのだ。
失敗してもルシアン様がいれば怖くない。
伯爵家の権威をかざせば、客は逃げ帰る。
ルシアン様も楽しそうだしね。
失敗してもお金はちゃんと請求する。
楽な仕事だった。
お義姉様ったら、こんな楽な仕事を独り占めしていたとは許せないわ。
でも、まぁいいでしょう。
見逃してあげるわ。
「あんなにたくさんのお客さんがぁ、あたくしを求めに来ているなんてぇ、緊張してしまいますわぁ」
「シルヴィーはポーラの何十倍も美しいからな。地味な女しか知らなかったヤツらにとって刺激が強すぎるのさ」
ルシアン様はあたくしの髪を撫でながら話す。
正直なところ、この人は上質な繋ぎだった。
新しいドレス代を稼いだら貴族の夜会に行って、伯爵家より高位の貴族と知り合いになってやるんだから。
明るい気持ちで扉を開ける。
「お待たせしましたぁ~。"言霊館 ver.シルヴィー”の開店ですわぁ~」
開くや否や、怒濤のごとく客がなだれ込んだ。
さあ、今日はどんな貴族が来るのかしらぁ?
侯爵でも公爵でも構わないわよぉ~?
頭の中で舞踏会が繰り広げられる。
優しげな美男子の侯爵令息と、筋肉質で野性的な公爵令息があたくしをダンスに誘おうと奪い合う。
ああ、あたくしを取り合わないでぇ~、どちらでもよろしいですわぁ~……という楽しい妄想は一瞬で打ち砕かれた。
「シルヴィー様、粉々にした壺を弁償してください!」
「時間が経てば元に戻るとおっしゃいましたよね!? ところがどうですか、染みが広がってしまいました! 私の大切な服でしたのに!」
「僕のくまのぬいぐるみ! 腕だけじゃなくて足も取れちゃった!」
客たちは店に入るや否や、並ぶこともなくあたくしに詰め寄った。
あろうことか、その誰もがくどくどと文句を言ってくる。
……は?
何が起きているの?
隣にいるルシアン様もまた、訝しげな表情だった。
「あなたが詩を歌うたび悪いことが起きる! しかも、ここにいる全員が同じような被害に遭っています」
「ポーラ様はどこに行ったんですか!」
「そうですよ! ポーラ様を出してください! ポーラ様じゃないとダメなんです!」
あたくしが呆然としている間も、客たちの文句は止まらない。
ポーラ様だったらどんな病気もたちまち治してくださった、ポーラ様だったらこんなことにはならなかった……お義姉様、お義姉様、お義姉様……。
いい加減にしてちょうだい。
客たちは揃って「ポーラ様だったら……」を繰り返す。
その言葉はチクチクとあたくしの心を刺し、やがて強い怒りを捻出した。
こいつらに使うプリティフェイスとプリティボイスなどない。
「あんたらねぇ……。言わせておけば……」
「シルヴィー様のスキルは……災いを招くスキルなのです!」
群衆の中からしがれた声が響いた。
「大繁盛じゃないか」
"言霊館 ver.シルヴィー”を開店し、もう数週間は経つ。
連日、あたくしは【忌み詞】で詩を読む毎日だった。
客の持ってくる無理難題を、慈愛の心で相手してやるのだ。
失敗してもルシアン様がいれば怖くない。
伯爵家の権威をかざせば、客は逃げ帰る。
ルシアン様も楽しそうだしね。
失敗してもお金はちゃんと請求する。
楽な仕事だった。
お義姉様ったら、こんな楽な仕事を独り占めしていたとは許せないわ。
でも、まぁいいでしょう。
見逃してあげるわ。
「あんなにたくさんのお客さんがぁ、あたくしを求めに来ているなんてぇ、緊張してしまいますわぁ」
「シルヴィーはポーラの何十倍も美しいからな。地味な女しか知らなかったヤツらにとって刺激が強すぎるのさ」
ルシアン様はあたくしの髪を撫でながら話す。
正直なところ、この人は上質な繋ぎだった。
新しいドレス代を稼いだら貴族の夜会に行って、伯爵家より高位の貴族と知り合いになってやるんだから。
明るい気持ちで扉を開ける。
「お待たせしましたぁ~。"言霊館 ver.シルヴィー”の開店ですわぁ~」
開くや否や、怒濤のごとく客がなだれ込んだ。
さあ、今日はどんな貴族が来るのかしらぁ?
侯爵でも公爵でも構わないわよぉ~?
頭の中で舞踏会が繰り広げられる。
優しげな美男子の侯爵令息と、筋肉質で野性的な公爵令息があたくしをダンスに誘おうと奪い合う。
ああ、あたくしを取り合わないでぇ~、どちらでもよろしいですわぁ~……という楽しい妄想は一瞬で打ち砕かれた。
「シルヴィー様、粉々にした壺を弁償してください!」
「時間が経てば元に戻るとおっしゃいましたよね!? ところがどうですか、染みが広がってしまいました! 私の大切な服でしたのに!」
「僕のくまのぬいぐるみ! 腕だけじゃなくて足も取れちゃった!」
客たちは店に入るや否や、並ぶこともなくあたくしに詰め寄った。
あろうことか、その誰もがくどくどと文句を言ってくる。
……は?
何が起きているの?
隣にいるルシアン様もまた、訝しげな表情だった。
「あなたが詩を歌うたび悪いことが起きる! しかも、ここにいる全員が同じような被害に遭っています」
「ポーラ様はどこに行ったんですか!」
「そうですよ! ポーラ様を出してください! ポーラ様じゃないとダメなんです!」
あたくしが呆然としている間も、客たちの文句は止まらない。
ポーラ様だったらどんな病気もたちまち治してくださった、ポーラ様だったらこんなことにはならなかった……お義姉様、お義姉様、お義姉様……。
いい加減にしてちょうだい。
客たちは揃って「ポーラ様だったら……」を繰り返す。
その言葉はチクチクとあたくしの心を刺し、やがて強い怒りを捻出した。
こいつらに使うプリティフェイスとプリティボイスなどない。
「あんたらねぇ……。言わせておけば……」
「シルヴィー様のスキルは……災いを招くスキルなのです!」
群衆の中からしがれた声が響いた。
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