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第42話:安らかな眠りとのど飴③

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〔君はいつも他人のために頑張ってくれるな。当主として、改めて礼を言わせてもらう。君ほど心優しい人間はなかなかいないだろう〕
「ルイ様……」

 魔法文字の柔らかさからも、ルイ様の穏やかな想いが伝わるようだった。
 心なしか、お部屋もさらに明るくなったような気がする。

〔さて、君に渡したい物とは……これだ〕

 そう書くと、ルイ様は机の引き出しから一つの小瓶を取り出した。
 透明の瓶の中に、明るい橙色をした大きな粒がいくつも入っている。
 手渡され明かりにかざしてみると、キラキラと光が透けて綺麗に輝いた。

「ルイ様、これは飴……でしょうか?」
〔ああ、それはのど飴だ。王都から取り寄せた特別な品でな、果物の他に薬草の成分も入っているんだ。舐めると喉が大変に潤うと聞いた〕
「のど飴だったのですね。ありがとうございます……ですが、王都から取り寄せなんてとても高価な品だと思います。私などが食べてはもったいです」

 王都にあるお店は、どれも大変にお高い。
 宮殿に近いし公爵などの偉い貴族の家々もあるからだ。
 こののど飴だって、たいそう高いに違いない。

〔気にしないでくれ。君の【言霊】は喉に負担がかかるかもしれないと思ってな。その飴で少しでも癒されてくれたら嬉しい。君の頑張りに対する私からのお礼だ。……受け取ってくれるか?〕

 ルイ様の文字が目に入るたび、じわじわと胸の中に嬉しさが満ちる。

 ――私のことをちゃんと見てくださっているんだ。

 そう思うと、嬉しさと喜びで胸がいっぱいになってしまった。

「はいっ、そういうことでしたらありがたく頂戴しますっ。ありがとうございます、ルイ様!」
〔受け取ってくれて良かった〕

 さっそく、ルイ様にもらったのど飴を食べる。
 カロッとした軽い音とともに、甘酸っぱい優しい味が口いっぱいに広がった。
 瞬く間に喉が潤う。
 こんなにおいしい飴を食べたのは初めてだ。
 カロカロと口の中で転がすたび楽しい気持ちになる。
 のど飴を舐めながら小瓶を見ていると、ふと思った。
 小瓶を差し出して言う。

「あの、ルイ様もいかがですか?」
〔私も?〕
「はい。私がこうしてのど飴を食べていられるのも、ルイ様がお屋敷に置いてくれたからです。日頃の感謝を込めて私からのお礼……と言ったら変ですかね」

 少しでも感謝の気持ちをお伝えしたい。
 それに、自分一人だけこんなおいしい思いをしているのは悪い気になった。
 ルイ様にも味わっていただきたいな。
 しばらくした後、ルイ様は一粒取りそっとお口に入れた。
 カロッと音が鳴る。

〔……うまいな〕

 爽やかな風が吹き、カーテンが軽やかに舞い上がる。
 陽光に照らされ、ルイ様の魔法文字が鮮やかに輝いた。
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