38 / 88
第38話:くま①
しおりを挟む
「ポーラちゃん、いつも通り箒で掃いてから水拭きしよう」
「うん、わかった」
ドッペルゲンガーを退治してから数日後。
お屋敷での日常が戻ってきた。
今はエヴァちゃんとロビーの掃除中。
小さな舞踏会が開けそうなほど広いので、数人で作業するのが定番だった。
アレン君は食堂に飾る花を摘む当番だから、ここにはいない。
お屋敷に帰ってきてからルイ様と相談した結果、‟希望の館”は数か月かけて少しずつ修理を進める予定となった。
とは言っても、ルイ様もお忙しいので、基本的には週に1~2日“霧の丘”に向かう。
修繕には手間がかかるけど、逆に言うとやりがいがあった。
「ねえ、もう一度ドッペルゲンガー退治の話を聞かせて」
「え? ま、また?」
エヴァちゃんは箒を動かしながら、ワクワクした様子で私に聞く。
お屋敷に帰ってから、すでに三回くらい話したはずだけど……。
「何度聞いても聞き足りないよ。なるべく怖く話して」
「わ、わかった。……私たちが“霧の丘”に着いたときは、それこそ幽霊のような霧が辺りを包み……」
退治に行ったときの光景を思い出し、なるべく怖くなるよう話す。
ひとしきり話が終わると、エヴァちゃんは両手で身体を抱えてぶるぶる震えた。
「……ドッペルゲンガーは人の身体を奪ってなりすますなんて……ひいいっ、恐ろしいっ」
この光景は四回くらい見たっけ。
彼女は怖い話を聞いては怖がるのが好きだった。
「怖いなら聞かなきゃいいのに……」
「いやいや、背筋がゾクッとする感覚が病みつきになるんだよねぇ」
「へ、へぇ~」
「アレンは怖い話を聞かせても全然へっちゃらなの。本当に生意気なんだから。いつか怖がらせてやりたいわ」
エヴァちゃんは悔しそうな顔で拳を握る。
そんな光景を見るたびに、二人は本当に仲のいい姉弟だな、と微笑ましい気持ちになった。
会話がひと段落したところで、二階からルイ様が降りてきた。
私とエヴァちゃんは手を止めてご挨拶する。
「「辺境伯様(ルイ様)、お疲れ様でございます」」
〔掃除のほどご苦労。相変わらず、二人とも良い働きぶりだな〕
「「ありがとうございます」」
話しながらも箒はきちんと動かしていたので、床は埃もなく綺麗サッパリだ。
後は布切れで水拭きをして掃除は完了となる。
〔ポーラ、後で執務室に来てくれるか? 渡したい物があるんだ〕
「わかりました。ロビーのお掃除が終わり次第、お伺いいたします」
渡したい物ってなんだろうね。
忘れないようにしなくちゃ。
〔ところで、食堂の花がなかったが入れ替えているのか?〕
「はい、萎れてきましたので新しいお花を集めています。今、アレンが外で作業しているかと……あっ、ちょうどお庭から帰ってきたようです」
玄関の扉が開き、アレン君がロビーに入る。
手にはお花が入った袋を垂らし、新しい花瓶を持っていた。
せっかくなので、気分転換も兼ねて花瓶も取り変えようという話だったのだ。
アレン君はふらふらしたかと思うと、助ける間もなく床につまずいてしまった。
「うん、わかった」
ドッペルゲンガーを退治してから数日後。
お屋敷での日常が戻ってきた。
今はエヴァちゃんとロビーの掃除中。
小さな舞踏会が開けそうなほど広いので、数人で作業するのが定番だった。
アレン君は食堂に飾る花を摘む当番だから、ここにはいない。
お屋敷に帰ってきてからルイ様と相談した結果、‟希望の館”は数か月かけて少しずつ修理を進める予定となった。
とは言っても、ルイ様もお忙しいので、基本的には週に1~2日“霧の丘”に向かう。
修繕には手間がかかるけど、逆に言うとやりがいがあった。
「ねえ、もう一度ドッペルゲンガー退治の話を聞かせて」
「え? ま、また?」
エヴァちゃんは箒を動かしながら、ワクワクした様子で私に聞く。
お屋敷に帰ってから、すでに三回くらい話したはずだけど……。
「何度聞いても聞き足りないよ。なるべく怖く話して」
「わ、わかった。……私たちが“霧の丘”に着いたときは、それこそ幽霊のような霧が辺りを包み……」
退治に行ったときの光景を思い出し、なるべく怖くなるよう話す。
ひとしきり話が終わると、エヴァちゃんは両手で身体を抱えてぶるぶる震えた。
「……ドッペルゲンガーは人の身体を奪ってなりすますなんて……ひいいっ、恐ろしいっ」
この光景は四回くらい見たっけ。
彼女は怖い話を聞いては怖がるのが好きだった。
「怖いなら聞かなきゃいいのに……」
「いやいや、背筋がゾクッとする感覚が病みつきになるんだよねぇ」
「へ、へぇ~」
「アレンは怖い話を聞かせても全然へっちゃらなの。本当に生意気なんだから。いつか怖がらせてやりたいわ」
エヴァちゃんは悔しそうな顔で拳を握る。
そんな光景を見るたびに、二人は本当に仲のいい姉弟だな、と微笑ましい気持ちになった。
会話がひと段落したところで、二階からルイ様が降りてきた。
私とエヴァちゃんは手を止めてご挨拶する。
「「辺境伯様(ルイ様)、お疲れ様でございます」」
〔掃除のほどご苦労。相変わらず、二人とも良い働きぶりだな〕
「「ありがとうございます」」
話しながらも箒はきちんと動かしていたので、床は埃もなく綺麗サッパリだ。
後は布切れで水拭きをして掃除は完了となる。
〔ポーラ、後で執務室に来てくれるか? 渡したい物があるんだ〕
「わかりました。ロビーのお掃除が終わり次第、お伺いいたします」
渡したい物ってなんだろうね。
忘れないようにしなくちゃ。
〔ところで、食堂の花がなかったが入れ替えているのか?〕
「はい、萎れてきましたので新しいお花を集めています。今、アレンが外で作業しているかと……あっ、ちょうどお庭から帰ってきたようです」
玄関の扉が開き、アレン君がロビーに入る。
手にはお花が入った袋を垂らし、新しい花瓶を持っていた。
せっかくなので、気分転換も兼ねて花瓶も取り変えようという話だったのだ。
アレン君はふらふらしたかと思うと、助ける間もなく床につまずいてしまった。
481
お気に入りに追加
1,511
あなたにおすすめの小説
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】
倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。
時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから!
再投稿です。ご迷惑おかけします。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる