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第38話:くま①

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「ポーラちゃん、いつも通り箒で掃いてから水拭きしよう」
「うん、わかった」

 ドッペルゲンガーを退治してから数日後。
 お屋敷での日常が戻ってきた。
 今はエヴァちゃんとロビーの掃除中。
 小さな舞踏会が開けそうなほど広いので、数人で作業するのが定番だった。
 アレン君は食堂に飾る花を摘む当番だから、ここにはいない。
 お屋敷に帰ってきてからルイ様と相談した結果、‟希望の館”は数か月かけて少しずつ修理を進める予定となった。
 とは言っても、ルイ様もお忙しいので、基本的には週に1~2日“霧の丘”に向かう。
 修繕には手間がかかるけど、逆に言うとやりがいがあった。

「ねえ、もう一度ドッペルゲンガー退治の話を聞かせて」
「え? ま、また?」

 エヴァちゃんは箒を動かしながら、ワクワクした様子で私に聞く。
 お屋敷に帰ってから、すでに三回くらい話したはずだけど……。

「何度聞いても聞き足りないよ。なるべく怖く話して」
「わ、わかった。……私たちが“霧の丘”に着いたときは、それこそ幽霊のような霧が辺りを包み……」

 退治に行ったときの光景を思い出し、なるべく怖くなるよう話す。
 ひとしきり話が終わると、エヴァちゃんは両手で身体を抱えてぶるぶる震えた。

「……ドッペルゲンガーは人の身体を奪ってなりすますなんて……ひいいっ、恐ろしいっ」

 この光景は四回くらい見たっけ。
 彼女は怖い話を聞いては怖がるのが好きだった。

「怖いなら聞かなきゃいいのに……」
「いやいや、背筋がゾクッとする感覚が病みつきになるんだよねぇ」
「へ、へぇ~」
「アレンは怖い話を聞かせても全然へっちゃらなの。本当に生意気なんだから。いつか怖がらせてやりたいわ」

 エヴァちゃんは悔しそうな顔で拳を握る。
 そんな光景を見るたびに、二人は本当に仲のいい姉弟だな、と微笑ましい気持ちになった。
 会話がひと段落したところで、二階からルイ様が降りてきた。
 私とエヴァちゃんは手を止めてご挨拶する。

「「辺境伯様(ルイ様)、お疲れ様でございます」」
〔掃除のほどご苦労。相変わらず、二人とも良い働きぶりだな〕
「「ありがとうございます」」

 話しながらも箒はきちんと動かしていたので、床は埃もなく綺麗サッパリだ。
 後は布切れで水拭きをして掃除は完了となる。

〔ポーラ、後で執務室に来てくれるか? 渡したい物があるんだ〕
「わかりました。ロビーのお掃除が終わり次第、お伺いいたします」

 渡したい物ってなんだろうね。
 忘れないようにしなくちゃ。

〔ところで、食堂の花がなかったが入れ替えているのか?〕
「はい、萎れてきましたので新しいお花を集めています。今、アレンが外で作業しているかと……あっ、ちょうどお庭から帰ってきたようです」

 玄関の扉が開き、アレン君がロビーに入る。
 手にはお花が入った袋を垂らし、新しい花瓶を持っていた。
 せっかくなので、気分転換も兼ねて花瓶も取り変えようという話だったのだ。
 アレン君はふらふらしたかと思うと、助ける間もなく床につまずいてしまった。
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