上 下
36 / 88

第36話:ドッペルゲンガーと言霊①

しおりを挟む
「ルイ様と瓜二つです」
〔やはり、私がコピーされてしまったか〕
『一番強いヤツの姿を真似るんだろうな』

 長めの黒髪に鋭い眼光を放つ黒い瞳。
 着ている服のデザインも一緒だし、湖畔のように落ち着いた無表情な顔はまさしくルイ様そのものだ。
 ただ一点、身体の縁はオーラのようにゆらゆらと揺れていて、そこだけルイ様とは違った。
 ドッペルゲンガーは片手をかざす。

〔下がっていなさい〕

 素早く後ろ手で魔法文字を書くと、ルイ様も同じように片手を上げた。
 空中に大きな赤い火の球が生み出され、互いにぶつかり合う。
 ドッペルゲンガーも無詠唱魔法が使えるのだ。
 やはり力も全く同じようにコピーするからか、同士討ちとなって消えた。
 このままじゃ決着がつかないし、ルイ様も消耗してしまう。
 先ほどメモした言葉と、ドッペルゲンガーから感じた印象から詩を紡ぐ。
 羽ペンを急いで走らせ、詩を書きあげた。

「ルイ様、詩を詠いますっ」
〔頼む〕

 息を吸い、心を込めて詩を詠う。
 ルイ様が難なく勝てるように。


――
 狭霧の丘に建つ家は
 朽ちゆく運命に身を任す
 廃墟となりし館

 何人をも拒絶する情調に
 我らは足を踏み入れる
 棲みつく邪霊を駆逐するため

 それは生き身を擬する邪霊
 選択されるは北の当主
 焔の演舞は比肩なり

 北の当主よ 栄光あれ
 擬する邪霊よ 衰微あれ
――


 詩を詠い終わると、ルイ様とドッペルゲンガーの身体を白い光が包んだ。
 互いにもう一度片手を上げる。
 今度は水のドラゴンが生み出され、激しくぶつかり合った。
 先ほどの火球は同士討ちだったけど、今度はルイ様が勝った。
 敵のドラゴンを弾き飛ばすと、そのまま本体にぶつかる。
 ドッペルゲンガーはじわじわとルイ様の姿を失い、やがて幽霊のように霞んで消えてしまった。
 緊迫した戦闘が終わり、私はホッと一息つく。
 気のせいか、廊下を安堵の空気が包んだ気がする。
 ルイ様は真剣にドッペルゲンガーの行く末を見守っていたけど、完全に消えたのを確認すると、私の前に綺麗な字で魔法文字を書いてくれた。

〔ありがとう、ポーラ。君のおかげで想像以上に簡単に倒せた〕
「ルイ様はパワーアップを、ドッペルゲンガーは弱体化するような詩を詠いました。効果があってよかったです」
『ポーラがいなかったら、まだ戦いは終わってなかっただろうな』
〔まったくだ〕

 二人は私を褒めてくれ、胸が温かい気持ちになるのを感じる。
 今回もルイ様のお役に立ててよかったな。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

処理中です...