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第35話:廃れた館②

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『そんな一心不乱に、ポーラは何を書いているんだ?』
「詩に使えそうな言葉のメモです。前もって書いておいた方が慌てなくてすむと思いますので」
『立派な心掛けじゃないか』
〔ポーラはいつも真面目に頑張ってくれるな〕

 二人の言葉に笑顔で答える。
 ひとしきり偵察が終わり、門のところに戻った。

〔では、中へ入る前に作戦を確認しよう。レイスは館の中を不規則に飛び回る。ドッペルゲンガーも同様だ。散らばるのは危険だから、三人一塊で行動する〕
「わかりました」
『了解だ』

 事前にお屋敷で話した作戦通りだ。
 報告だと、生息するドッペルゲンガーは一体だけ。
 コピーされても、三対一なら数の差でこちらが有利となる。

〔討伐は私が行う。ガルシオはポーラの護衛だ〕
『任せろ。指一本触れさせないさ』
「ありがとうございます。私も十分に注意します」

【言霊】スキルは自分に対しては使えない。
 私は魔法もあまり得意ではないので、その分よく周りを見るよう気合いを入れた。
 ルイ様、私、ガルシオさんの順番で敷地に入る。
 お庭を横切り、そっと玄関を開けた。
 がらんどうのロビーが私たちを出迎える。
 豪勢なシャンデリアには蜘蛛の巣がかかり、床には埃が積もる。
 当たり前だけど明かりは点いておらず、光源は窓から差し込む太陽の弱い光だけだ。
 ルイ様が空中に手をかざすと、白い光を放つ小さな火球が現れた。
 数m先まで照らされホッとする。

〔大丈夫か、ポーラ。怖かったら外で待っていても構わんが〕
「いえ、大丈夫です。ちょっと暗くて緊張しただけですので」

 いつもの魔法文字もキラキラと光っていた。
 強がりなどではない。
 ルイ様やガルシオさんがいると思うと、ドッペルゲンガーの潜む館でも無事に進めると思えた。

〔わかった。だが、あまり無理はするな。この館は二階建てなので、上から下に降りてこよう〕
『後ろの見張りは任せろ』

 ロビーにある大階段を昇り、まずは二階に向かう。
 真っ直ぐな廊下が左右に伸びる。
 床には深い赤色の絨毯が引かれるも、汚れで黒っぽく見えた。
 壁には均等に扉があるので、住民の居住区なのだろう。
 まずは北に面する右側を調べることになった。
 ルイ様が扉をそっと開け、中の様子を確認する。
 私も後ろから静かに覗いた。
 数脚の椅子と丸テーブルがあるけど、ロビーと同じがらんどうの部屋が広がる。
 ドッペルゲンガーの気配は感じなかった。

〔何もいないな。ドッペルゲンガーは別の場所にいるようだ〕
「みたいですね」
『これを繰り返すとなると、確実だが大変な作業になるな』

 扉は開けたままにして廊下に戻る。
 正面には暗闇が続く。
 ガルシオさんの言うように、結構大変な仕事になりそうだと思ったとき。
 不意に、ルイ様が片手を上げて私たちを止めた。
 ガルシオさんも耳がピクッと立ち、睨むように廊下の暗がりを見る。

〔気をつけろ、二人とも。思ったより早い接触となった〕
「は、はいっ」
『逆に探す手間が省けたな』

 胸の底から湧き上がる緊張を押し殺す。
 どんな人も飲み込んでしまうような暗闇から、もう一人のルイ様が現れた。
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