35 / 88
第35話:廃れた館②
しおりを挟む
『そんな一心不乱に、ポーラは何を書いているんだ?』
「詩に使えそうな言葉のメモです。前もって書いておいた方が慌てなくてすむと思いますので」
『立派な心掛けじゃないか』
〔ポーラはいつも真面目に頑張ってくれるな〕
二人の言葉に笑顔で答える。
ひとしきり偵察が終わり、門のところに戻った。
〔では、中へ入る前に作戦を確認しよう。レイスは館の中を不規則に飛び回る。ドッペルゲンガーも同様だ。散らばるのは危険だから、三人一塊で行動する〕
「わかりました」
『了解だ』
事前にお屋敷で話した作戦通りだ。
報告だと、生息するドッペルゲンガーは一体だけ。
コピーされても、三対一なら数の差でこちらが有利となる。
〔討伐は私が行う。ガルシオはポーラの護衛だ〕
『任せろ。指一本触れさせないさ』
「ありがとうございます。私も十分に注意します」
【言霊】スキルは自分に対しては使えない。
私は魔法もあまり得意ではないので、その分よく周りを見るよう気合いを入れた。
ルイ様、私、ガルシオさんの順番で敷地に入る。
お庭を横切り、そっと玄関を開けた。
がらんどうのロビーが私たちを出迎える。
豪勢なシャンデリアには蜘蛛の巣がかかり、床には埃が積もる。
当たり前だけど明かりは点いておらず、光源は窓から差し込む太陽の弱い光だけだ。
ルイ様が空中に手をかざすと、白い光を放つ小さな火球が現れた。
数m先まで照らされホッとする。
〔大丈夫か、ポーラ。怖かったら外で待っていても構わんが〕
「いえ、大丈夫です。ちょっと暗くて緊張しただけですので」
いつもの魔法文字もキラキラと光っていた。
強がりなどではない。
ルイ様やガルシオさんがいると思うと、ドッペルゲンガーの潜む館でも無事に進めると思えた。
〔わかった。だが、あまり無理はするな。この館は二階建てなので、上から下に降りてこよう〕
『後ろの見張りは任せろ』
ロビーにある大階段を昇り、まずは二階に向かう。
真っ直ぐな廊下が左右に伸びる。
床には深い赤色の絨毯が引かれるも、汚れで黒っぽく見えた。
壁には均等に扉があるので、住民の居住区なのだろう。
まずは北に面する右側を調べることになった。
ルイ様が扉をそっと開け、中の様子を確認する。
私も後ろから静かに覗いた。
数脚の椅子と丸テーブルがあるけど、ロビーと同じがらんどうの部屋が広がる。
ドッペルゲンガーの気配は感じなかった。
〔何もいないな。ドッペルゲンガーは別の場所にいるようだ〕
「みたいですね」
『これを繰り返すとなると、確実だが大変な作業になるな』
扉は開けたままにして廊下に戻る。
正面には暗闇が続く。
ガルシオさんの言うように、結構大変な仕事になりそうだと思ったとき。
不意に、ルイ様が片手を上げて私たちを止めた。
ガルシオさんも耳がピクッと立ち、睨むように廊下の暗がりを見る。
〔気をつけろ、二人とも。思ったより早い接触となった〕
「は、はいっ」
『逆に探す手間が省けたな』
胸の底から湧き上がる緊張を押し殺す。
どんな人も飲み込んでしまうような暗闇から、もう一人のルイ様が現れた。
「詩に使えそうな言葉のメモです。前もって書いておいた方が慌てなくてすむと思いますので」
『立派な心掛けじゃないか』
〔ポーラはいつも真面目に頑張ってくれるな〕
二人の言葉に笑顔で答える。
ひとしきり偵察が終わり、門のところに戻った。
〔では、中へ入る前に作戦を確認しよう。レイスは館の中を不規則に飛び回る。ドッペルゲンガーも同様だ。散らばるのは危険だから、三人一塊で行動する〕
「わかりました」
『了解だ』
事前にお屋敷で話した作戦通りだ。
報告だと、生息するドッペルゲンガーは一体だけ。
コピーされても、三対一なら数の差でこちらが有利となる。
〔討伐は私が行う。ガルシオはポーラの護衛だ〕
『任せろ。指一本触れさせないさ』
「ありがとうございます。私も十分に注意します」
【言霊】スキルは自分に対しては使えない。
私は魔法もあまり得意ではないので、その分よく周りを見るよう気合いを入れた。
ルイ様、私、ガルシオさんの順番で敷地に入る。
お庭を横切り、そっと玄関を開けた。
がらんどうのロビーが私たちを出迎える。
豪勢なシャンデリアには蜘蛛の巣がかかり、床には埃が積もる。
当たり前だけど明かりは点いておらず、光源は窓から差し込む太陽の弱い光だけだ。
ルイ様が空中に手をかざすと、白い光を放つ小さな火球が現れた。
数m先まで照らされホッとする。
〔大丈夫か、ポーラ。怖かったら外で待っていても構わんが〕
「いえ、大丈夫です。ちょっと暗くて緊張しただけですので」
いつもの魔法文字もキラキラと光っていた。
強がりなどではない。
ルイ様やガルシオさんがいると思うと、ドッペルゲンガーの潜む館でも無事に進めると思えた。
〔わかった。だが、あまり無理はするな。この館は二階建てなので、上から下に降りてこよう〕
『後ろの見張りは任せろ』
ロビーにある大階段を昇り、まずは二階に向かう。
真っ直ぐな廊下が左右に伸びる。
床には深い赤色の絨毯が引かれるも、汚れで黒っぽく見えた。
壁には均等に扉があるので、住民の居住区なのだろう。
まずは北に面する右側を調べることになった。
ルイ様が扉をそっと開け、中の様子を確認する。
私も後ろから静かに覗いた。
数脚の椅子と丸テーブルがあるけど、ロビーと同じがらんどうの部屋が広がる。
ドッペルゲンガーの気配は感じなかった。
〔何もいないな。ドッペルゲンガーは別の場所にいるようだ〕
「みたいですね」
『これを繰り返すとなると、確実だが大変な作業になるな』
扉は開けたままにして廊下に戻る。
正面には暗闇が続く。
ガルシオさんの言うように、結構大変な仕事になりそうだと思ったとき。
不意に、ルイ様が片手を上げて私たちを止めた。
ガルシオさんも耳がピクッと立ち、睨むように廊下の暗がりを見る。
〔気をつけろ、二人とも。思ったより早い接触となった〕
「は、はいっ」
『逆に探す手間が省けたな』
胸の底から湧き上がる緊張を押し殺す。
どんな人も飲み込んでしまうような暗闇から、もう一人のルイ様が現れた。
439
お気に入りに追加
1,511
あなたにおすすめの小説
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
竜人王の伴侶
朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語
国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます
作者独自の世界観ですのでご都合主義です
過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください)
40話前後で完結予定です
拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください
4/4にて完結しました
ご覧いただきありがとうございました
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】
倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。
時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから!
再投稿です。ご迷惑おかけします。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる