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第34話:廃れた館①

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〔二人とも、ここが“霧の丘”だ。そして、丘の上に建つのが“廃墟の館”だな〕

 “ロコルル”から馬車に乗ること、約一時間。
 私たちは目的地の丘に着いた。
 道中はどこも晴れていたのに、この周辺だけ薄らと霧がかかる。
 “霧の丘”と呼ばれるのも納得できた。
 辺りに家々はなく、丘の頂上に一軒だけ大きな家――“廃墟の館”が建つ。
 詩の製作のため、馬車に乗りながらルイ様から館の詳細についても聞いた。
 歴史が深いようで、建ってから半世紀ほど経つらしい。

「霧の中に浮かび上がるのが、ここからでもなんだか不気味です」
〔人気がないのもあり、レイスたちには格好の棲み処だったんだろう〕

 私とルイ様は頂上に向かって数歩踏み出したけど、ガルシオさんはむすっとしたまま動かない。
 馬車を降りた後も、終始不満げだった。

〔ガルシオ、さっきからどうした。腹でも痛いのか?〕
『……ずっと布を被せられていたらこうなるさ』

 フェンリルのガルシオさんを隠すため、ルイ様が考えた策は至ってシンプルだった。
 それは……大きな布を被せること。
 目と鼻だけは穴を空けてあったみたいだけど、ガルシオさんは雑に扱われた気分になると訴えていた。
 しかも、御者さんにはルイ様が新種の犬だとか説明してしまった。

〔すまない。透過魔法などをかければよかったのだが、なるべく魔力は温存しておきたかったんだ〕
『帰りは魔法を使ってくれよな。それと、俺は犬じゃない』
〔悪かった。せめて狼にしておくべきだった〕
『わかればよろしい』

 文句を言いつつも、ガルシオさんはとても怒っているわけではない。
 二人のやり取りを見ていると、そう感じることができた。
 ガルシオさんも私とルイ様の隣に合流し、みんなで丘を登る。
 レイスは棲み処の建物から出ることはないので、“廃墟の館”までは安心して進めた。
 五分ほど歩くと、“廃墟の館‟に到着した。
 いよいよドッペルゲンガーと対峙すると思うと胸がドキドキする。

「緊張してきました……」
〔屋敷に入る前に、外から状況を確認しよう〕
『賛成だ』

 私たちは外周に沿ってぐるりと歩く。
 館は柵で囲まれており、外からも中の様子が見えた。
 門や塀の柵、館の壁に至るまで、蔦が幾重にも巻き付く。
 窓ガラスが割れているところも見え、人が住まなくなってからずいぶんと月日が流れたのを感じる。
 敷地内にはお庭があるものの草花は枯れ果て、雑草が茂り、地面はひび割れていた。
 ルイ様のお屋敷は来訪者を温かく迎える気持ちが伝わったけど、この館は侵入者を拒絶するような雰囲気だ。
 昼間なのにやけに暗く見えるのは、きっと霧のせいだけじゃないと思う。
 館や庭の様相、感じた気持ちを言葉にしてノートにメモる。
 ドッペルゲンガーと出会った後は、辞書をめくる暇もないかもしれない。
 真剣に羽ペンを走らせていたら、ガルシオさんが興味深そうに言った。
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