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第32話:ルイ様からの頼み②

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〔……なるほど、君は私が思う以上にたくさんの経験を積んできたんだな〕
「もしかして、除霊に行かれるのですか?」
〔ああ、そうだ。ここから小一時間ほど東に歩くと“霧の丘”と呼ばれる丘があり、廃れた館――通称、”廃墟の館”が建つ。十人家族が暮らせるほど大きな家だ。ただ、単なる館ではなくてな。厄介なことに……ドッペルゲンガーが棲みついているのだ〕
「ドッペルゲンガー!?」
〔うむ。私がコピーされた場合、討伐に少々難儀する可能性がある〕

 ルイ様の言葉に、思わず驚きの声を上げてしまった。
 レイスの中でも上級の強い魔物だ。
 誰もいなくなった家や屋敷に棲みつき、来訪した人間の姿形を真似る。
 魔法や剣術の腕前なども完全にコピーしてしまうので、倒すのは大変に難しいと聞く。
 ルイ様みたいなすごい魔法使いになったら、とても強い力を持ってしまう。
 しかも、ドッペルゲンガーは倒した人の身体を奪い、本人に成り代わるそうだ。
 本で読んだだけでも、怖くて背筋がひんやりしたのを覚えている。
 私はドキドキしていたけど、ガルシオさんは感心した様子でルイ様に言った。

『ドッペルゲンガーなんて久しぶりに聞いたよ。まだいたんだなぁ。てっきり絶滅したかと思っていたよ』
〔私も報告を受けたのは数年ぶりだ〕

 ルイ様は無詠唱魔法の使い手だし、ガルシオさんはフェンリルだ。
 ドッペルゲンガーと聞いても取り乱すことはないのだろう。
 二人の冷静なやり取りを見ていたら、私も徐々に気持ちが落ち着いた。

「その寂れた館は、ルイ様の家だったのですか?」
〔いいや、違う〕

 私が尋ねると、ルイ様は静かに首を振った。

〔以前、“ロコルル”に住んでいた裕福な商人の館だ。一家は館を残して他の街に越したのだが、ずっと館の手入れはされず、ドッペルゲンガーが棲みついた。一家は館の処理について協議した結果、私に寄付することが決まったと通達が来た〕
「ルイ様に寄付……でございますか。どうしてまた……」

 なぜ辺境伯へ譲渡することになったんだろう。
 しかも、廃れてドッペルゲンガーが棲みついたような館を……。
 疑問に思っていたら、魔法文字で説明を続けてくれた。

〔おそらく、厄介な物件は私に一任させたいのだと思う。本格的な除霊と、その後の修繕は費用がかさむからな。一家はもう館に住まないことを決めたのだろう〕
「そうなのですか……」

 ルイ様は表情も変えず淡々と書く。
 でも、私はどことなく悲しい気持ちになった。
 辺境伯は便利屋なんかではないのに……。

〔だが、領主たるもの、最優先は領民の安全だ。私はドッペルゲンガーをきちんと退治する〕

 悲しい気持ちにはなったけど、ルイ様の力強い文字を見て気持ちを改めた。
 辺境伯として職務を全うしようとする、その立派な心意気に私も気が引き締まる。
 同時に、素直な気持ちがポツリと口をついて出た。

「ルイ様はやっぱり……優しくて真面目な方ですね」
〔そ、そうか? よくわからないが〕
「はい、ルイ様はとてもお優しい方ですよ」

 本人はそう思っていないみたいだけど、私はもうよくわかっていた。
 この方は誰よりも優しい心を持っているのだと。
 ルイ様はフッとわずかな笑みを浮かべると、サラサラと魔法文字を書く。
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