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第24話:枯れそうな汚い花(Side:シルヴィー②)②
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「すみません、ポーラお姉ちゃんはいますか?」
女児がカウンターの下から問いかけてくる。
子どもに使うプリティボイスとプリティフェイスなどない。
「いないけど」
「いつきますか?」
「一生こないわ」
早く帰りなさい、忙しいんだから。
今度はおばあさんが話してきやがった。
「ポーラちゃんに会えないかい? どうしても頼みたいことがあるんだよ」
「お義姉様はこの家から出て行ったわよ。遠くのお屋敷で働くの。だから、もう"言霊館"にはこないわ」
「「え……!」」
いないと言うと、女児とおばあさんは固まった。
お義姉様が関わるとみんなこうなる。
その大仰なリアクションは何なのよ。
あたくしは子どもも老人も嫌いだ。
若い男の客以外は立ち入り禁止にしようかしら。
女児がおずおずと尋ねる。
「じゃ、じゃあ、だれがことだまを詠ってくれるの?」
「今はあたくしがやっているわ。スキルもちゃんとあるんだから。わかったら、もう帰って」
シッシッと手を振るも、女児とおばあさんは動かない。
それどころか、二人は顔を見合わせるとカウンターに何かを置いた。
これは……。
「花……?」
「元気がなくなってきちゃったの」
鉢植えの赤い花。
種類はよくわからない。
宝石ならまだしも、花なんてまるで興味がない。
「萎れているのなら、水でもやってればいいんじゃないの?」
「お水をあげても、ぜんぜん元気にならないよ」
「どうにかしてくれないかねぇ。この子の大事なお花なんだよ」
はぁ、めんど。
微塵もやる気が湧かない。
ルシアン様に言って追い返そうかと思ったけど考え直した。
ちょうどいい練習台と考えればいいわ。
この先モンディエール侯爵や別の公爵が来る可能性もあるのだから。
そう思うと、これはいい機会だ。
「わかったわ。特別にやってあげる」
「ほんと!? ありがと~」
「助かるよぉ、お嬢さん。毎日、この子は悲しそうにしていてねぇ」
お義姉様を追い出した後、あたくしは【忌み詞】スキルをちょっと使ってみた。
少し使うだけで、次から次へと頭の中に言葉が浮かぶ。
お義姉様は辞書で調べないと言葉がわからないようだったけど、あたくしは辞書など必要ない。
これが才能の差ってヤツね。
引き出しから紙と羽ペンを取り出し、特別に詩を書いてやる。
――――
褪せた血のような赤
つくづく思いだす
まだ生きていたあの頃を
四の月に昇るは九つの星
どうせ枯れるなら
死者の弔いに使いましょう
――――
よし、できた。
お義姉様を真似して詩を詠うと、花は黒っぽい光りに包まれる。
復活すると思っていたけど、あっという間にしおしおと枯れ果ててしまった。
あら、失敗かしら。
女児とおばあさんは枯れた花を見ると目を見開く。
「お花が……お花が枯れちゃったよぉ……」
「お、お嬢さん! どうして枯れるんだい!?」
「さぁ? 元々死にかけだったんじゃないの?」
どうして枯れたって、死にかけだったからに決まっているでしょう。
あたくしのせいではないわ。
「……うぁぁぁ~。大事なお花が枯れちゃったよぉ……」
あろうことか、女児は泣き出した。
うるさいわね。
ここがどこだと思っているの。
ルシアン様を見ると、私と同じようにうんざりしていた。
泣き止ませるよう目で言う。
女児がカウンターの下から問いかけてくる。
子どもに使うプリティボイスとプリティフェイスなどない。
「いないけど」
「いつきますか?」
「一生こないわ」
早く帰りなさい、忙しいんだから。
今度はおばあさんが話してきやがった。
「ポーラちゃんに会えないかい? どうしても頼みたいことがあるんだよ」
「お義姉様はこの家から出て行ったわよ。遠くのお屋敷で働くの。だから、もう"言霊館"にはこないわ」
「「え……!」」
いないと言うと、女児とおばあさんは固まった。
お義姉様が関わるとみんなこうなる。
その大仰なリアクションは何なのよ。
あたくしは子どもも老人も嫌いだ。
若い男の客以外は立ち入り禁止にしようかしら。
女児がおずおずと尋ねる。
「じゃ、じゃあ、だれがことだまを詠ってくれるの?」
「今はあたくしがやっているわ。スキルもちゃんとあるんだから。わかったら、もう帰って」
シッシッと手を振るも、女児とおばあさんは動かない。
それどころか、二人は顔を見合わせるとカウンターに何かを置いた。
これは……。
「花……?」
「元気がなくなってきちゃったの」
鉢植えの赤い花。
種類はよくわからない。
宝石ならまだしも、花なんてまるで興味がない。
「萎れているのなら、水でもやってればいいんじゃないの?」
「お水をあげても、ぜんぜん元気にならないよ」
「どうにかしてくれないかねぇ。この子の大事なお花なんだよ」
はぁ、めんど。
微塵もやる気が湧かない。
ルシアン様に言って追い返そうかと思ったけど考え直した。
ちょうどいい練習台と考えればいいわ。
この先モンディエール侯爵や別の公爵が来る可能性もあるのだから。
そう思うと、これはいい機会だ。
「わかったわ。特別にやってあげる」
「ほんと!? ありがと~」
「助かるよぉ、お嬢さん。毎日、この子は悲しそうにしていてねぇ」
お義姉様を追い出した後、あたくしは【忌み詞】スキルをちょっと使ってみた。
少し使うだけで、次から次へと頭の中に言葉が浮かぶ。
お義姉様は辞書で調べないと言葉がわからないようだったけど、あたくしは辞書など必要ない。
これが才能の差ってヤツね。
引き出しから紙と羽ペンを取り出し、特別に詩を書いてやる。
――――
褪せた血のような赤
つくづく思いだす
まだ生きていたあの頃を
四の月に昇るは九つの星
どうせ枯れるなら
死者の弔いに使いましょう
――――
よし、できた。
お義姉様を真似して詩を詠うと、花は黒っぽい光りに包まれる。
復活すると思っていたけど、あっという間にしおしおと枯れ果ててしまった。
あら、失敗かしら。
女児とおばあさんは枯れた花を見ると目を見開く。
「お花が……お花が枯れちゃったよぉ……」
「お、お嬢さん! どうして枯れるんだい!?」
「さぁ? 元々死にかけだったんじゃないの?」
どうして枯れたって、死にかけだったからに決まっているでしょう。
あたくしのせいではないわ。
「……うぁぁぁ~。大事なお花が枯れちゃったよぉ……」
あろうことか、女児は泣き出した。
うるさいわね。
ここがどこだと思っているの。
ルシアン様を見ると、私と同じようにうんざりしていた。
泣き止ませるよう目で言う。
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