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第15話:新しい始まりとフェンリルさん③

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「フェ、フェンリルッ!? ……でございますか!?」

 ルイ様の言葉に驚いて、思わず叫んでしまった。
 フェンリルは伝説の神獣だ。
 出会えるのは人生で一度あるかないかという、大変に珍しい存在だった。
 まさか、紹介したい人がフェンリルだったとは……。
 てっきり木こりさんとかだと思っていたから、とにかく驚いた。

『見かけない顔のお嬢さんだな……。新入りか……?』
「ひ、人の言葉ぁ!? ……を話せるのですか!」

 今度は普通に話しかけられ、またもや激しく驚いた。

〔そんなに驚くことは無い。フェンリルは人語など容易く話す。よく知られていることだ。ちなみに、ガルシオは文字も読める〕

 ルイ様は簡単に書くけど、私には初耳もいいところだった。
 私のフェンリルについての知識は、伝え聞いた伝承や本に書かれていた内容くらいしかない。
 ガルシオさんは、ゆっくりと私に右手を伸ばす。

『ガルシオだ……よろしく……』
「ポーラ・オリオールです。昨日からルイ様のお屋敷で、特等メイドとして働いております」
『そんなメイドがいるんだなぁ……』

 ガルシオさんと握手を交わす。
 思ったより冷たい体温に、内心ひやっとした。
 伝え聞いた話では、フェンリルの毛は常に銀色に光り輝くそうだ。
 わずかな月明かりでもキラキラと輝き、見る者を釘付けにしてしまうという。
 それなのに、今のガルシオさんの毛はくすんだ灰色で、ぺたんと力なく倒れていた。
 ルイ様は懐から、先ほどのポーションを取り出す。

〔ほら、ガルシオ。新しく調合したポーションだ。飲んでくれ〕
『ありがとうよ……』

 ガルシオさんはポーションを受け取ると、両手で持ってこくりと飲んだ。
 すかさず、ルイ様は慌てた様子で尋ねる。

〔体の具合はどうだ?〕
『……あまり変わらないな』

 二人のやり取りを見ていると、心の中に薄っすらと漂っていた心配が徐々に色濃くなった。
 もしかして……。

「ガルシオさんは具合が悪いのですか……?」
〔……ああ、そうなんだ。実は、数か月前からずっと体調が悪い。回復魔法や秘薬の調合、名の知れた医術師や薬師による治療……あらゆる手段を尽くしているが、まったく効果がない。対応に苦慮しているところだ〕
『まぁ、もう寿命が近いのかもしれないな……』
〔悲しいことを言うな〕

 辛そうなガルシオさんとルイ様を見ると、胸が刺すように痛くなる。
 傍らのエヴァちゃんやアレン君も悲しそうだ。
いても立ってもいられなくなった。

「私が【言霊】スキルでガルシオさんの病気を治します」

 気がついたら、力強く言っていた。
 私のスキルは誰かのためにあるのだから。
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