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第9話:萎れたお花と言霊③

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 え……?
 思いもしない言葉にポカンとしたけど、すぐにお尋ねした。

「と、特等メイドでございますか? 失礼ながら、そのような役職は聞いたことがなく……」
〔私と同等の権限を持っているメイドだ。できれば、女性が良いのだが……どうだ?〕

 胸の奥からじわじわと喜びがあふれる。
 耐えることなどできず、大きな声で言った。

「はい、頑張らせていただきます!」
〔ただ、一点だけ確認しておきたいことがある〕
「な、何でしょうか」

 ごくりと唾を飲むと、辺境伯様は無表情のまま魔法文字を書かれた。

〔私のことは怖くないか?〕

 書かれたのは、たった一言だ。
 私の答えは考えなくても決まっていた。

「辺境伯様……いえ、ご主人様はまったく怖くありません。むしろ、すごくお優しい方だと思います」

 素直な気持ちを伝える。
 たしかに緊張はするけど、それは辺境伯なんて偉い方だからだと思う。
 恐怖や恐れなんて感情はもうとっくになかった。

〔そうか、それならよかった。あと……君は特等メイドなのだから、ご主人様とか辺境伯様とか呼ばなくていい〕
「え? い、いや、しかし……」
〔呼びたいように呼びなさい〕

 呼びたいように呼ぶといっても、相手は公爵にも匹敵するほど偉い方だ。
 ご主人様も辺境伯様も禁じられてしまったら、他に呼び方がないような……。
 悩むこと数秒。

「そ、それでしたら、ルイ様……ではいかがでしょうか」
〔好きにしなさい〕

 そう空中に書き残し、ルイ様はお屋敷に戻る。
 すかさず、エヴァちゃんとアレン君が駆け寄ってきた。

「よかったね、ポーラちゃん! 絶対に採用されると思っていたよ!」
「これからも一緒にいられますね! 僕は自分のことのように嬉しいです!」

 二人は満面の笑みで私の手を握る。
 彼女らの笑顔を見て、喜びは何倍にも膨れ上がった。

「うん、よかった……。本当によかったよ!」

 私たちの喜ぶ声を、お庭のお花たちはいつまでも聞いていた。

□□□

 その後、本日はもう就寝して、仕事は明日から始めるように……とルイ様がおっしゃってくれた。
 エヴァちゃんとアレン君に案内され、私の部屋に向かう。
 ちょうど、二人の隣だった。

「ここがポーラちゃんのお部屋ね」
「困ったことがあったらいつでも言ってください」
「ありがとう、二人とも。明日からよろしくね」

 お休みの挨拶を交わし、部屋に入る。
 ベッドと棚と椅子があるだけ。
 簡素だけど、不思議とオリオール家の自室より安らぎを感じた。
 静かにベッドに入る。
 清潔なシーツの香りが鼻をくすぐり、自然と安らかな気持ちになれた。
 枕に頭を乗せると、ずっと気になっていた疑問が浮かぶ。

 ――ルイ様は……どうしてお話しされないのかな?

 私なんかが踏み込んではいけない問題だろうけど、何か力になれたらいいなと思った。

 ――言葉には人を幸せにする力がある。

 私はそう信じているから。
 そこまで考えたところで、急に眠くなってきた。
 知らないうちに、疲れが溜まっていたのだと思う。
 深く考える間もなく、私は夢の世界に入ってしまった。
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