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第7話:萎れたお花と言霊①
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「も、もう募集していないのですかっ!?」
辺境伯様が書かれた文字に、思わず驚きの声を上げてしまった。
まさか、そんな……。
呆然としていると、辺境伯様はさらに説明を続けてくれる。
〔募集しても私が怖いとすぐに辞めてしまうので、もう諦めたのだ。今日、募集停止の案内を出すつもりだった。間に合わず申し訳ない〕
「い、いえ、とんでもございません! そのような事情を知らず申し訳ございませんでしたっ」
ドキドキしながら謝る。
緊張しつつも、辺境伯様はそれほど怖い人ではないと感じた。
たしかに表情があまり変わらないし、雰囲気も暗い。
でも、会話の内容は普通で、むしろ相手を気遣ってくれる。
今まで辞めてしまった人たちは、きっと魔法文字で会話されるのが怖かったのだろう。
〔わざわざ来てもらいすまなかったな。今、手間賃を持ってこさせる〕
辺境伯様はエヴァちゃんたちに向き直ると、空中に文字を書き始める。
始まる前に……終わってしまった。
寂しさが胸にあふれる。
まだこのお屋敷にいたい、と思う。
行く当てがないというのもそうだけど、エヴァちゃんやアレン君ともっと一緒にいたい。
たった数十分で、オリオール家の日常より楽しい気分になれた。
“言霊館”での日々は楽しかったけど、仕事が終わると暗い時間が訪れた。
辺境伯様も噂と異なりお優しい方だ。
この家には、オリオール家よりずっと心が優しい人たちが集まっている……。
私もその輪に入れてもらいたかった。
勇気を振り絞り辺境伯様に言う。
「あ、あの……辺境伯様」
〔なんだ?〕
静かに深呼吸し、そっと告げた。
「私には……【言霊】というスキルがあるんです」
〔……【言霊】スキル?〕
「はい。私は言葉に魔力を乗せ、願った通りの現象を引き起こすことができます。詩の形式が一番効果的だともわかりました。魔力をたくさん消費すれば、その分強力な効果をもたらせます」
辺境伯様にスキルをお話しすると、最後まで興味深そうに聞いていた。
〔……なるほど、そのようなスキルがあるとは私も初めて聞いた。非常に有用だ〕
「もしよろしければ、最後に【言霊】スキルをご覧になっていただけませんか?」
文字通り、願いを込めて言った。
【言霊】スキルが役に立つとわかったら、お屋敷においてくれるかもしれない。
それでもダメならきっぱり諦めよう。
辺境伯様はしばし考えた後、さらさらと空中に魔法文字を書かれた。
〔わかった、ぜひ見せてほしい〕
辺境伯様が書かれた文字に、思わず驚きの声を上げてしまった。
まさか、そんな……。
呆然としていると、辺境伯様はさらに説明を続けてくれる。
〔募集しても私が怖いとすぐに辞めてしまうので、もう諦めたのだ。今日、募集停止の案内を出すつもりだった。間に合わず申し訳ない〕
「い、いえ、とんでもございません! そのような事情を知らず申し訳ございませんでしたっ」
ドキドキしながら謝る。
緊張しつつも、辺境伯様はそれほど怖い人ではないと感じた。
たしかに表情があまり変わらないし、雰囲気も暗い。
でも、会話の内容は普通で、むしろ相手を気遣ってくれる。
今まで辞めてしまった人たちは、きっと魔法文字で会話されるのが怖かったのだろう。
〔わざわざ来てもらいすまなかったな。今、手間賃を持ってこさせる〕
辺境伯様はエヴァちゃんたちに向き直ると、空中に文字を書き始める。
始まる前に……終わってしまった。
寂しさが胸にあふれる。
まだこのお屋敷にいたい、と思う。
行く当てがないというのもそうだけど、エヴァちゃんやアレン君ともっと一緒にいたい。
たった数十分で、オリオール家の日常より楽しい気分になれた。
“言霊館”での日々は楽しかったけど、仕事が終わると暗い時間が訪れた。
辺境伯様も噂と異なりお優しい方だ。
この家には、オリオール家よりずっと心が優しい人たちが集まっている……。
私もその輪に入れてもらいたかった。
勇気を振り絞り辺境伯様に言う。
「あ、あの……辺境伯様」
〔なんだ?〕
静かに深呼吸し、そっと告げた。
「私には……【言霊】というスキルがあるんです」
〔……【言霊】スキル?〕
「はい。私は言葉に魔力を乗せ、願った通りの現象を引き起こすことができます。詩の形式が一番効果的だともわかりました。魔力をたくさん消費すれば、その分強力な効果をもたらせます」
辺境伯様にスキルをお話しすると、最後まで興味深そうに聞いていた。
〔……なるほど、そのようなスキルがあるとは私も初めて聞いた。非常に有用だ〕
「もしよろしければ、最後に【言霊】スキルをご覧になっていただけませんか?」
文字通り、願いを込めて言った。
【言霊】スキルが役に立つとわかったら、お屋敷においてくれるかもしれない。
それでもダメならきっぱり諦めよう。
辺境伯様はしばし考えた後、さらさらと空中に魔法文字を書かれた。
〔わかった、ぜひ見せてほしい〕
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