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第6話:お屋敷③

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 ルシアン様とシルヴィーの一件を話す。
【言霊】スキルで家計を助けていたけど、婚約破棄され追い出され……二人は真剣に聞いてくれた。

「……ということなの。でも、もう気にしていないから安心して。もしメイドとして雇われることになったらよろしくね」

 まだ採用されるかはわからないけど、エヴァちゃんたちと仕事ができたらそれだけで楽しそうだ。
 そう思っていたら、徐々に二人の目がうるうるしだした。
 ……ん?
 ど、どうしたの?

「「……そんな辛い目に遭っていたなんて~!」」

 挙句の果てには泣き出してしまった。
 とても感情豊かな姉弟らしい。
 特に、エヴァちゃんは凛とした女性の雰囲気だったけど、今や年相応の少女の顔だった。
 一緒に悲しんでくれて、ほろりと涙が出そうだ。
 ほのかな嬉しさを感じたとき、応接室の扉が静かに叩かれた。
 すかさず、エヴァちゃんとアレン君は姿勢を正して立ち上がる。
 その反応だけで、誰が来たのかわかった。
 私も急いでソファから立つ。

「「ご主人様、こちらがお客人のポーラ様でございます」」

 入ってきた男性を見て、私の心臓は早鐘を打つ。
 か、“寡黙の辺境伯”、ルイ・アングルヴァン様だ……!
 目にかかるくらいの長めの黒髪に、鋭い眼光の黒い瞳。
 鼻筋はすらりと通っており、背の高さは180cm手前くらいだろうか。
 身に着ける衣服も黒っぽく、全体的に暗くて怖い雰囲気を醸し出す。
 無表情の顔からは、怒りや苛立ちとも取れる感情が見える……ように感じた。
 考えないようにしても、悪魔だとか、人の心臓を食べるだとか、怖い噂が頭の中を飛び交う。
 辺境伯様は私の前に来ると、静かに右手を上げた。
 何をされるのかわからず、思わず身体が硬くなる。

〔この屋敷の当主、ルイ・アングルヴァンだ〕

 何もされることはなく、代わりに私のちょうど目線の位置に、魔法文字が浮かんでいた。
 魔力で形作られた文字で、空中や水面など好きな場所に書ける。

「は、初めましてっ。ポーラ・オリオールと申します」
〔メイドの募集を見て訪れたと聞いたが?〕

 辺境伯様はスラスラと器用に鏡文字で書かれる。
 やはり、お話はされないようだ。

「はい、訳あって実家から出ることになりまして、こちらの募集を見てまいりました。もしよろしければ、メイドとして雇っていただけないでしょうか?」

 そこまで言うと、辺境伯様は一瞬表情が険しくなった。
 どうしたのだろう……と疑問に思う間もなく、一節の文章が空中に紡がれる。

〔悪いが、メイドはもう募集していない〕

 目の前に書かれた文字は、私に無情な現実を突きつけた。
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