6 / 88
第6話:お屋敷③
しおりを挟む
ルシアン様とシルヴィーの一件を話す。
【言霊】スキルで家計を助けていたけど、婚約破棄され追い出され……二人は真剣に聞いてくれた。
「……ということなの。でも、もう気にしていないから安心して。もしメイドとして雇われることになったらよろしくね」
まだ採用されるかはわからないけど、エヴァちゃんたちと仕事ができたらそれだけで楽しそうだ。
そう思っていたら、徐々に二人の目がうるうるしだした。
……ん?
ど、どうしたの?
「「……そんな辛い目に遭っていたなんて~!」」
挙句の果てには泣き出してしまった。
とても感情豊かな姉弟らしい。
特に、エヴァちゃんは凛とした女性の雰囲気だったけど、今や年相応の少女の顔だった。
一緒に悲しんでくれて、ほろりと涙が出そうだ。
ほのかな嬉しさを感じたとき、応接室の扉が静かに叩かれた。
すかさず、エヴァちゃんとアレン君は姿勢を正して立ち上がる。
その反応だけで、誰が来たのかわかった。
私も急いでソファから立つ。
「「ご主人様、こちらがお客人のポーラ様でございます」」
入ってきた男性を見て、私の心臓は早鐘を打つ。
か、“寡黙の辺境伯”、ルイ・アングルヴァン様だ……!
目にかかるくらいの長めの黒髪に、鋭い眼光の黒い瞳。
鼻筋はすらりと通っており、背の高さは180cm手前くらいだろうか。
身に着ける衣服も黒っぽく、全体的に暗くて怖い雰囲気を醸し出す。
無表情の顔からは、怒りや苛立ちとも取れる感情が見える……ように感じた。
考えないようにしても、悪魔だとか、人の心臓を食べるだとか、怖い噂が頭の中を飛び交う。
辺境伯様は私の前に来ると、静かに右手を上げた。
何をされるのかわからず、思わず身体が硬くなる。
〔この屋敷の当主、ルイ・アングルヴァンだ〕
何もされることはなく、代わりに私のちょうど目線の位置に、魔法文字が浮かんでいた。
魔力で形作られた文字で、空中や水面など好きな場所に書ける。
「は、初めましてっ。ポーラ・オリオールと申します」
〔メイドの募集を見て訪れたと聞いたが?〕
辺境伯様はスラスラと器用に鏡文字で書かれる。
やはり、お話はされないようだ。
「はい、訳あって実家から出ることになりまして、こちらの募集を見てまいりました。もしよろしければ、メイドとして雇っていただけないでしょうか?」
そこまで言うと、辺境伯様は一瞬表情が険しくなった。
どうしたのだろう……と疑問に思う間もなく、一節の文章が空中に紡がれる。
〔悪いが、メイドはもう募集していない〕
目の前に書かれた文字は、私に無情な現実を突きつけた。
【言霊】スキルで家計を助けていたけど、婚約破棄され追い出され……二人は真剣に聞いてくれた。
「……ということなの。でも、もう気にしていないから安心して。もしメイドとして雇われることになったらよろしくね」
まだ採用されるかはわからないけど、エヴァちゃんたちと仕事ができたらそれだけで楽しそうだ。
そう思っていたら、徐々に二人の目がうるうるしだした。
……ん?
ど、どうしたの?
「「……そんな辛い目に遭っていたなんて~!」」
挙句の果てには泣き出してしまった。
とても感情豊かな姉弟らしい。
特に、エヴァちゃんは凛とした女性の雰囲気だったけど、今や年相応の少女の顔だった。
一緒に悲しんでくれて、ほろりと涙が出そうだ。
ほのかな嬉しさを感じたとき、応接室の扉が静かに叩かれた。
すかさず、エヴァちゃんとアレン君は姿勢を正して立ち上がる。
その反応だけで、誰が来たのかわかった。
私も急いでソファから立つ。
「「ご主人様、こちらがお客人のポーラ様でございます」」
入ってきた男性を見て、私の心臓は早鐘を打つ。
か、“寡黙の辺境伯”、ルイ・アングルヴァン様だ……!
目にかかるくらいの長めの黒髪に、鋭い眼光の黒い瞳。
鼻筋はすらりと通っており、背の高さは180cm手前くらいだろうか。
身に着ける衣服も黒っぽく、全体的に暗くて怖い雰囲気を醸し出す。
無表情の顔からは、怒りや苛立ちとも取れる感情が見える……ように感じた。
考えないようにしても、悪魔だとか、人の心臓を食べるだとか、怖い噂が頭の中を飛び交う。
辺境伯様は私の前に来ると、静かに右手を上げた。
何をされるのかわからず、思わず身体が硬くなる。
〔この屋敷の当主、ルイ・アングルヴァンだ〕
何もされることはなく、代わりに私のちょうど目線の位置に、魔法文字が浮かんでいた。
魔力で形作られた文字で、空中や水面など好きな場所に書ける。
「は、初めましてっ。ポーラ・オリオールと申します」
〔メイドの募集を見て訪れたと聞いたが?〕
辺境伯様はスラスラと器用に鏡文字で書かれる。
やはり、お話はされないようだ。
「はい、訳あって実家から出ることになりまして、こちらの募集を見てまいりました。もしよろしければ、メイドとして雇っていただけないでしょうか?」
そこまで言うと、辺境伯様は一瞬表情が険しくなった。
どうしたのだろう……と疑問に思う間もなく、一節の文章が空中に紡がれる。
〔悪いが、メイドはもう募集していない〕
目の前に書かれた文字は、私に無情な現実を突きつけた。
737
お気に入りに追加
1,510
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貧乏神と呼ばれて虐げられていた私でしたが、お屋敷を追い出されたあとは幼馴染のお兄様に溺愛されています
柚木ゆず
恋愛
「シャーリィっ、なにもかもお前のせいだ! この貧乏神め!!」
私には生まれつき周りの金運を下げてしまう体質があるとされ、とても裕福だったフェルティール子爵家の総資産を3分の1にしてしまった元凶と言われ続けました。
その体質にお父様達が気付いた8歳の時から――10年前から私の日常は一変し、物置部屋が自室となって社交界にも出してもらえず……。ついには今日、一切の悪影響がなく家族の縁を切れるタイミングになるや、私はお屋敷から追い出されてしまいました。
ですが、そんな私に――
「大丈夫、何も心配はいらない。俺と一緒に暮らそう」
ワズリエア子爵家の、ノラン様。大好きな幼馴染のお兄様が、手を差し伸べてくださったのでした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?
鏑木 うりこ
恋愛
父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。
「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」
庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。
少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *)
HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい!
色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー!
★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!
これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい!
【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
両親や妹に我慢を強いられ、心が疲弊しきっていましたが、前世で結ばれることが叶わなかった運命の人にやっと巡り会えたので幸せです
珠宮さくら
恋愛
ジスカールという国で、雑草の中の雑草と呼ばれる花が咲いていた。その国でしか咲くことがない花として有名だが、他国の者たちはその花を世界で一番美しい花と呼んでいた。それすらジスカールの多くの者は馬鹿にし続けていた。
その花にまつわる話がまことしやかに囁かれるようになったが、その真実を知っている者は殆どいなかった。
そんな花に囲まれながら、家族に冷遇されて育った女の子がいた。彼女の名前はリュシエンヌ・エヴル。伯爵家に生まれながらも、妹のわがままに振り回され、そんな妹ばかりを甘やかす両親。更には、婚約者や周りに誤解され、勘違いされ、味方になってくれる人が側にいなくなってしまったことで、散々な目にあい続けて心が壊れてしまう。
その頃には、花のことも、自分の好きな色も、何もかも思い出せなくなってしまっていたが、それに気づいた時には、リュシエンヌは養子先にいた。
そこからリュシエンヌの運命が大きく回り出すことになるとは、本人は思ってもみなかった。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる