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第3話:婚約破棄と寡黙の辺境伯③

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「‟寡黙の辺境伯”の屋敷に、ちょうどメイドの募集が出ておりましたのぉ。お義姉様を応募しておきましたわぁ」
「よかったなぁ、ポーラ。シルヴィーのおかげで仕事にありつけたじゃないか。これで路頭に迷わなくて済むぞ。食われて死ぬかもしれんがな」
「そ、そんな……」

 知らないうちに、メイドの応募に出されていたらしい。
 二人は……本当に私が邪魔なのだと嫌でも感じる。

「さあ、出て行ってもらおうか。もうこの家に君の居場所はないんだ」
「お義姉様ぁ、野垂れ死にそうになっても助けを求めにこないでくださいねぇ」

 二人は揃って出口を指す。
 いつまでもここにいるわけにはいかない。

「……わかりました。荷物をまとめ、オリオール家から出て行きます」

 自室に戻り荷物を整理する。
 と言っても、私は元々物をあまり持たない。
 言葉選びのための愛用の辞書、詩を書き留めるノートに羽ペン……。
 最低限、これだけあれば【言霊】スキルは使える。
 少しばかりのお金も欲しかったけど、私の金庫の中身は空だった。
 代わりに、〔ルシアン様との結婚費用に使うため回収しましたぁ〕、というシルヴィーの手紙が入っている。
 小さなため息をつき外に出た。
 手際のよいことに、すでにオリオール家の前には馬車が停まっている。
 行き先は聞かなくてもわかった。
 ‟寡黙の辺境伯‟の屋敷だ。

「お義姉様ぁ、馬車代はご自身で払ってくださいねぇ」
「わかっているわ」

 馬車に静かに乗り込む。
 運賃を払ったら、完全に一文無しになるだろう。
 件の二人は、晴れやかな笑顔で私を見送った。

 ――ルシアン様との婚約が破棄されて……それは良かったのかもしれない。

 仮に結婚しても、夫婦生活はうまくいかなかったと思う。
 婚約破棄とシルヴィーの件は突然のことで驚愕したものの、そう思うといくらか気が紛れた。
 でも、私が行く先には、あの‟寡黙の辺境伯‟がいるのだ。
 憂鬱と爽快が入り混じったような複雑な感情を胸に、私は馬車に揺られる。
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