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1巻

1-3

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 フーリッシュ様の指摘を受けて、すとんとに落ちた。……そうよ、そうに決まっているわ。リーダーが怒るのは、あたくしが美しいからだったのね。まったく、美女は大変。

「あたくし、あの人にはとても辟易へきえきしているんですの。フーリッシュ様からも何か言ってやってくださいな」
「任せておきなさい。僕がガツンと言ってやるさ」

 フーリッシュ様はすこぶる自信にあふれている。ああ、良かった。この人がいれば安心だわ。
 見てなさい、年増の行き遅れ女め。クビになっても知らないんだから。
 扉を開けると目の前にリーダーがいた。男の人みたいに体つきが良い。あたくしを見るとすかさず怒鳴った。

「シホルガさん! あなただけ休み過ぎですよ! 一日に何回休めば気が済むんですか!? 十五分に一回は休んでいるじゃありませんか!」
「ですから、あたくしはすぐ休まないといけないくらい真剣に取り組んでいる、って何度も言っているでしょう!」
「口答えしないでください! キュリティさんはこんなことありませんでしたよ!」
「お義姉様の話なんかしないで!」

 だから、どうしてお義姉様の名前が出てくるの。あの人のことなど少しも考えたくない。

「正直に言って、あなたが入ってきてから困ってばかりです。キュリティさんは本当に優秀で……!」

 そのまま、リーダーはずっとお義姉様のことを話しては、彼女が追い出されたことを悔やむ。まったく、あんな人と比べるなんて失礼しちゃう。いい加減にしなさいよね。

「フーリッシュ様~、助けてくださいまし~」

 急いで婚約者の陰に隠れた。ふんっ、こっちには伯爵家がついているんだから。あんたなんかコテンパンにやられちゃえばいいのよ。
 あたくしが後ろに隠れると、フーリッシュ様は自信満々な様子でリーダーの前に出た。

「君ぃ、シホルガに向かってなんだい、その口の利き方はぁ。礼儀がなってないなぁ」
「フーリッシュ様はお黙りください。これはこちらの問題ですので」
「なんだと!? よくも僕に向かってそんなことが言えるな! 僕はエンプティ伯爵家の者だぞ!」

 そうだ、そうだ。この人は伯爵家の跡取り息子なのよ。
 逆らっていいと思っているの?
 リーダーは黙ってフーリッシュ様を睨む。そんな顔をしたところでこっちの勝利は変わらないわ。私の婚約者の権力はとても強い。いくら恐ろしい顔をしてもフーリッシュ様は負けないの。
 勝ち誇っていたら、リーダーは静かに口を開いた。

「……それ以上何かおっしゃるのであれば歯を叩き折ります」
「わかった。今すぐ帰ろう」

 フーリッシュ様はそそくさと帰り支度を始める。
 ……え、ちょ、あれ? リーダーをやっつけてくださるんじゃないの? 
 思いもしない展開で頭がポカンとする。

「あ、あの~……フーリッシュ様?」
「じゃあ、シホルガ、僕はこれにて失礼するから。解呪師のみなさんと仲良くしてもらいなさい。迷惑をかけてはいけないよ?」

 そのまま、何事もなかったように出て行こうとする。
 ので、猛然もうぜんとその腕を掴み、休憩室へ叩き込んだ。リーダーが「ちょっとシホルガさん!」とか言っているけど、そんなことはどうでもいい。

「フーリッシュ様! ガツンと言ってくださるのではなかったのですか! 全然ガツンとしてませんわ!」
「あ、いや、試みてはみたのだけど……まぁ、相手が歴戦の猛者もさというか、ただならぬ雰囲気というかね……」
「なに怖がっているのですか! もっと強気になってくださいまし!」
「き、聞き捨てならないな! 怖くなんかないよ! ほ、ほら、伯爵家が相手ではさすがにかわいそうだと思ってね!」

 フーリッシュ様はヘラヘラしながら笑って誤魔化す。都合の悪いことがあるといつもこうだ。調子のよさそうな顔を見ているとイライラしてきた。
 許せん。
 思いっきり掴みかかり、バリバリバリッ! と引っ掻きまくる。

「うわっ、シホルガ! 何をする!」
「いつもいつも調子だけはいいんだから!」
「ぐああああ! だ、誰か助けてくれええ!」
「シホルガさん! いい加減にしてください! 仕事に戻りますよ!」

 休憩室の扉が開かれ、むんずっとリーダーに掴まれる。そのまま、フーリッシュ様からバリッと引き剥がされた。
 ずるずると仕事場へ連れて行かれる。ジタバタするも力の差がありすぎて、全く意味がなかった。

「た、助かった……じゃあ、僕はこれで」
「あっ、こら! フーリッシュ様! まだお話は終わっていませんよ!」

 私がもがいている間に、フーリッシュ様は逃げるように王宮から走り去ってしまった。見たこともないくらいのスピードで。

「シホルガさん! 今日はもう休憩なしですからね! 終わるまでみっちりと働いてもらいます!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! お昼ご飯は!?」
「そんなものありません!」

 そのまま、ガミガミと怒られながら仕事場に連行される。
 どうしてこんなことに!
 ……そうだ! お義姉様が私の優秀さをきちんと伝えていなかったせいだわ!
 今度会ったら許さないんだから!



   第二章 私の仕事


「奥様、お身体の具合はいかがでしょうか」
「特に変わりありませんね」

 翌朝、朝ごはんを食べた後、バーチュさんが私のお腹を見ながら言った。
 もちろん、私のお腹はちっとも膨らんでいない。
 診断は受けたものの、本当に赤ちゃんがいるのか未だ不思議だった。
 オールドさんが私の服を戻して言う。

「キュリティ、赤ん坊がいる実感はあるかい?」
「いえ、なんとなく変な感じはするんですが、いまいち実感が湧かなくて……本当に赤ちゃんがいるんでしょうか?」
「まぁ、まだそんなもんだろうね。そのうち嫌でも腹が膨れてくるよ」

 オールドさんのざっくばらんな物言いに、バーチュさんは表情が硬くなった。

「……オールド様、腹が膨れるなどという言い方はよろしくないかと」
「うるさいね、事実なんだから文句ないだろ。膨れるものは膨れるんだよ」
「ふふっ」

 二人のやり取りが面白くて、少し笑ってしまった。私の笑い声に気づいたバーチュさんが、首を傾げて私に言う。

「どうされましたか、奥様」
「あ、いや、お二人を見ているとこちらまで楽しくなってしまいまして」

 バーチュさんたちは不思議そうに顔を見合わす。 

「それはそうと奥様。ご不安なことばかりでしょうけど、大丈夫ですか? 困ったことがあったら、何でも仰ってくださいませ」
「いえ、お二人のおかげで安心して暮らせています」

 二人とも本当に優しく接してくれるから、不安なんて少しもなかった。

「じゃあ、あたしはそろそろ戻るけどね。何かあったらすぐ呼ぶんだよ」
「はい、ありがとうございます」

 そう言うと、オールドさんはお部屋から出て行った。バーチュさんはキッチンで洗い物をしている。そこで、彼女に前から思っていたことを尋ねた。

「あの、バーチュさん。ちょっとお話ししてもいいですか?」
「どうぞ好きなだけお話しくださいませ」
「私はどんなお仕事をすればいいでしょうか?」
「……はい? お仕事……でございますか?」

 バーチュさんは皿洗いの手を止めて、きょとんとキッチンから顔を覗かせる。

「こんなに良くしてくださっているのに、私だけ何もしないのは申し訳ないですから」
「何を仰いますか。奥様は座っているだけでいいんですよ。辺境伯様からもそのように伝えられております」

 座っているだけでいいなんて、ディアボロ様は申し訳ないほど気遣ってくれているようだ。とはいえ、何もしないわけにはいかなかった。
 状況が状況だけど、本来なら私はここに居られる身分ではない。
 それに、ディアボロ様だけじゃない。オールドさんやバーチュさん。私とお腹の赤ちゃんを大事にしてくれる人たちに、少しでも恩返しをしたかった。

「私にも何かお仕事をください。……そうだ、バーチュさんのお手伝いをします。私の世話のお手伝いをするにはどうすればいいですか?」
「断じてなりません。奥様のお世話をする私の手伝いをされても意味がありません」
「ま、まぁ、たしかにそう言われるとそうですが……」

 提案したものの、すぐに論破されてしまった。

「奥様はごゆるりとお休みくださいませ」

 バーチュさんは淡々と皿洗いを続ける。彼女からは、もうこの話はおしまいです、という意志の強いオーラが出ていた。だけど、ここで引き下がるわけにはいかない。

「でも、ただ座っているだけではその方が体に良くないと思います。少しくらい動いた方が私にも……そして、お腹の赤ちゃんにとっても良いと思います。適度な運動は妊婦にも良いと聞いたことがありますし」
「ふむ……なるほど、それは一理ございますね。運動した方が奥様の健康には良いかもしれません」

 先ほどより感触がいいわね。もうひと押しな気がするよ。

「運動がてらお仕事するのはいかがでしょうか。魔力だって定期的に発散させないといけないみたいですし」

 すると、バーチュさんはじっ……と凝視するように私を見た。もちろん不快な気持ちにはならないけど、まだちょっとびっくりする。もしかしたら、彼女特有の癖なのかもしれない。

「……では、オールド様に確認してまいります」

 そう言って、バーチュさんはお部屋から出て行った。一人残った部屋で静かに思う。


 ――なんだか不思議な人だな。


 もちろん、とても良い人なんだけど、どこか掴みどころがないというか……。やっぱり不思議な人だ。そんなことを考えていたら、オールドさんと一緒に戻ってきた。

「キュリティ、部屋から出たいんだって? そりゃそうだ。こんな殺風景な部屋にいたってしょうがないもんねぇ」
「いや、そういうわけではなくてですね。ずっと気遣っていただくのも申し訳なくて」
「別に気にしなくていいのに。アンタは辺境伯の妻なんだから、もっと偉そうにしていればいいのさ。飯を持ってこい、服の着替えを手伝え……とか言ってね」

 ガハハと笑うオールドさんを、バーチュさんはキッと睨みつけた。

「オールド様はご自身の言動をお気にされた方がよろしいかと……」
「なんだい、アンタも小言が多いねぇ」

 わかってはいたけど、オールドさんは神経が図太いらしい。

「とはいえ、妊婦でも少し歩いたり、運動したりした方が健康に良いのはたしかだね。経過も順調そうだし、散歩はおすすめするよ。もちろん、無理しない範囲でね」
「では、奥様は散歩をしていただくのがお仕事、ということでよろしいですね? 魔力もその都度発散させれば問題ないでしょう」

 バーチュさんはキリッとした顔で私を見た。それ以上は何も言わないけど、目で「了承してくださいませ」と言われている気分だ。

「え……いや、でもやっぱりちゃんとしたお仕事の方が……」
「よろしいですね?」
「は、はい」

 頑張って抵抗したけど、結局、バーチュさんの圧に負けてしまった。
 散歩がお仕事なんて申し訳ないのに……
 でも、やることが見つかってよかったと思う。
 さっそく散歩に行こうということで、私たちは離れの外に向かう。周囲に広がる森が散歩コースにちょうどいいらしい。
 お庭に出たところで、思い出したようにオールドさんが話し出した。

「そういえば、キュリティは闇魔法に詳しいんだっけ? 種類も見分けられるし、解呪もできるってディア坊主から聞いたけど」
「はい、王宮では解呪師として働いていました。他の魔法は大して使えない代わりに、解呪魔法だけは得意でした」
「ふ~ん、そいつはすごいじゃないか。解呪の魔法は使える人が少ないからね。王宮でも重宝ちょうほうされたろう?」

 確かに、重宝ちょうほうはされていたかもしれない。というのも、仲間の解呪師たちは闇魔法を解くときは、魔法陣まほうじんを描いたりしていたけど、私は魔力を込めるだけで解呪できたから。

「そうですね……王宮では荷物検査の仕事をしてました。もし荷物に闇魔法がかかっていたら、それを無効化するんです」
「もったいないねぇ。あたしならもっと荒稼ぎできそうな仕事をするよ。王宮なんて安月給だろう。転職すりゃあよかったのに」

 大きな声で話すオールドさんを、バーチュさんがさりげなく睨みつける。またしても、オールドさんは気にせず平然としていた。やがて、彼女は思いついたように私に言う。

「そうだ、キュリティ。そんなに仕事がしたいんなら一つ頼んでもいいかい?」
「はい、ぜひお願いします!」

 やった、待ち望んでいたお仕事だ。嬉しくて勢い良く返事をした。
 ……バーチュさんの表情はさらに硬くなったけど。

「屋敷にフローズって子がいてね。ずっと具合が悪いんだけど、原因がわからないんだよ。よかったら、様子を一緒に見てくれるかい? 解呪師のアンタが見てくれたら、原因がわかるかもしれないよ」
「フローズさん……ですか?」

 どなただろう。お屋敷の使用人の方かしら。
 疑問に感じていたら、バーチュさんが教えてくれた。

「フローズとは、お屋敷で一緒に暮らしているフェンリルでございます」
「え!? お屋敷にフェンリルがいるんですか!?」

 フェンリルと言えば、銀色の体毛に包まれた狼の魔獣まじゅうだ。
 一晩で三つの山を越えるほど強靭きょうじんな脚力を持ち、身にまとう魔力は精霊のごとくおごそかだという。ほとんど伝説上の存在だ。私だって見たことすらない。
 まさか、そんな珍しい魔獣まじゅうがいるなんて……。さすがはディアボロ様のお屋敷だ。

「辺境伯様が魔族領の近くに遠征えんせいに行ったとき、瀕死ひんしのフェンリルを見つけたのです。そのとき辺境伯様が保護し、現在までこちらで暮らしております」
「ディア坊主の数少ない友達だよ。まぁ、それでも人間じゃないんだけどね」

 オールドさんが言うと、バーチュさんがまたキッと睨んだ。私に対する発言とディアボロ様に対する発言に、特に注意を払っているらしい。
 まぁ、ディアボロ様のメイドだから当然だけど。

「では、さっそくでございますが、散歩がてらご案内させていただきます。フローズも奥様にお会いすると嬉しいでしょう」
「慣れるまではあたしも一緒に行くから安心しな」

 散歩は後日に延期して、フェンリルの元へ行くことになった。
 目の前にはキレイな庭が広がる。バラやマーガレット、ラベンダー……可愛いお花でいっぱいだった。どのお花も元気よく咲いているから、一輪一輪きちんと整備されているのがわかった。もしかしたら、国で一番の庭園かもしれない。

「ここのお手入れもバーチュさんがやられているんですか?」
「全て私一人で行っているわけではありませんが、ほとんど私がやっております」

 バーチュさんは大したことないように言ったけど、大変な労力だと思う。さすがはディアボロ様が選んだメイドさんだ。
 少し歩くと、お庭の片隅に着いた。
 大きな灰色の塊がうずくまっている。もぞもぞ動いていて、まるで大きな毛玉みたいだった。オールドさんが手をかざして言う。

「キュリティ、あそこにいるのがフローズだよ」
「私、フェンリルなんて初めて見ました」
「近くに参りましょう。……フローズ、具合はいかがでしょうか?」

 私たちが近づくと、灰色の塊からのそっと頭が出た。

『どうした……って、お前らか』

 フローズさんはぐったりして元気がない。フェンリルは銀色の体毛がいつも光り輝く、と本で読んだことがある。
 でも、目の前にいるフローズさんの体毛は、濃い灰色にくすんでしまっている。よく見ると、毛もボロボロだった。それだけで体の辛さが伝わる。

「調子はどうだい、フローズ」
『いつものことだが、あまり良くないな』

 フローズさんは、ふーっと疲れた様子でため息をつく。大きな青い目も力が入っておらず、どこかぼんやりとしていた。

「いったい原因はなんなんだろうね。すまないね、あたしでもよくわからないんだよ」
『気にするな、そのうち治るさ……っと、それより、こちらのお嬢さんは誰だい? 初めて見る顔だが』

 フローズさんはぬるりと首を動かして私を見た。慌てて自己紹介をする。

「あっ、すみません! 申し遅れました! 私はキュリティと言いまして……」
「ディア坊主の妻さ」
『なに!?』

 言い終わる前に、オールドさんが伝えた。フローズさんは目を見開いて驚く。前置きもなく本題に入ってしまったので、急いで補足しようとするも、オールドさんは遠慮なく話を進めてしまう。

「まぁ、厳密に言うとディア坊主が妊娠させてしまってね」
『!?』

 ちょ、ちょっと待ってくださいよ~。話には順序というものが……
 オールドさんが簡単に事の経緯を説明すると、フローズさんは驚きっぱなしだった。

『……そうか……そいつは大変だったな』
「あ、いえ、もう大丈夫です」
『何はともあれよろしく』
「よ、よろしくお願いします」

 フローズさんとも握手を交わす。前足はモフモフしてとても柔らかいのだけど、やっぱり体毛はガサガサだった。その痛々しい様子を見て、オールドさんがため息交じりに言う。

「どうやら、フローズは質の悪い病魔びょうまに侵されているみたいでね。色んな薬やポーションを作っても効果がないんだよ。あたしでも病魔びょうまの種類すらわからなくてね……ちょっと困っているのさ」

 いつも活発なオールドさんは、厳しい顔をする。
 世の中の色んな病気は、病魔びょうまとよばれる闇魔法の宿る小さな生き物が原因だった。
 だけど、星の数ほどのたくさんの種類があるので、経験を積んだ医術師でも見分けるのは難しいと聞いたことがある。

「オールド様以外にも手練てだれの医術師を何人か呼んでいるのですが、どなたもわからないようです」

 バーチュさんも辛そうな目でしょんぼりと呟く。元気がないみんなを見て、私の胸はきゅっと痛くなる。お屋敷の人たちは、みんな優しくて良い人だ。
 何より、目の前で苦しんでいるフローズさんを放っておくことなどできなかった。


 ――ディアボロ様の大事な人は、私にとっても大事な人なんだ。


 私の得意なことは、闇魔法を浄化する解呪魔法。今こそ、自分の力が役に立つかもしれない。

「私にもフローズさんを診せていただけませんか? 病魔びょうまも闇魔法なので、種類を見分けられるかもしれません」

 私が言うと、バーチュさんはハッと表情が厳しくなった。

「奥様のお身体に何かありましたら困ります。お腹の赤子にも負担がかかったら……」
「大丈夫です。王宮にいるときだって、いつもこんな感じで過ごしていましたから。見分けるだけなら、それほど魔力は使わないと思います」
「なりません」

 バーチュさんは断固として、私に魔法を使わせたくないようだ。
 ど、どうしよう。
 でも、こんなふうに止めるのも私の身体を思ってくれているからだし……

「バーチュ、ここはキュリティに任せたらどうだい? あたしもキュリティのことをしっかり見ておくからさ。それに、なるべく魔力を発散させた方がいいんだよ」

 心の中で葛藤かっとうしていたら、オールドさんが後押ししてくれた。バーチュさんはしばし厳しめな顔で考えていたけど、やがて静かに言ってくれた。

「……オールド様がそう仰るのであれば」
「ご心配していただいてありがとうございます。でも、本当に平気ですから」

 目を閉じて魔力を集中させる。
 妊娠してからは初めて使うけど大丈夫かな。一瞬不安な気持ちになりそうだったけど、すぐに弱気な心を振り払う。フローズさんの身体をしっかり見つめた。
 徐々に、彼を覆う魔力のオーラが見えてきた。闇魔法特有の黒いオーラ。
 さらに意識を集中すると、小さな虫みたいな生き物がうごめいているのが見える。フローズさんの体中にまとわりつき、魔力を吸い取っていた。

「これは……病魔びょうま・エナジードレインです」
『「エナジードレイン……!?」』

 自覚症状は強くないけど、放っておくと魔力と体力を奪い尽くされ死に至る病魔びょうまだ。
 治療は簡単だけど、その分見分けるのがとても難しい。そのため、気づいたときにはすでに手遅れ……なんてこともよくあると聞いていた。


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