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第13話:密命(Side:ヘンリック①)

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 俺はヘンリック・ルーマン、ゼノ帝国の密偵だ。
 本日、上手くガーデニー家に潜入できた。

――噂どおりのバカしかいない家だったな。いや、正確にはバカしかいなくなった、か。

 まさかこんなに上手くいくとは思わなかった。 
 召使いなんて十分に信用がある人物を雇うべきだろ。
 あんな偽物の経歴書に騙されやがって。
 日頃から召使いなど、心底どうでも良いと考えていた証拠だ。
 今日一日観察していたが、リンドグレン家に確認の手紙を出そうとすらしない。
 もちろん、俺は返事の手紙も用意しているが、とんだ無駄骨だったな。
 俺は色んなところに潜入したことがあるから、貴族には二通りの人間しかいないとわかっている。
 立場に甘んじず精進を続ける奴と、そうでない奴だ。

――今回は明らかに後者だな。

 普通会ったばかりの人間に、財産関係の書類なんか見せるか? 
 見せるわけないだろ、この大バカ者どもが。
 ということは、俺はたった一日で奴らの絶大な信用を得ることができたということだ。
 これなら仕事は簡単に済みそうだぞ。
 いいや、油断は禁物だ。
 俺はちょっと油断したばっかりに、任務を失敗してきた奴を腐るほど知っている。
 それにしても、ルドウェン王子は本当に婚約破棄したようだ。
 しかも、新しく選んだ相手はあのダーリーとかいう怠けた女だった。

――バカなやつめ。でも、そのおかげで俺は仕事がやりやすくなったから大助かりだ。

 おまけに、エドワールとかいうボンクラ当主がロミリアを追い出してくれて、本当にありがたい。
 ガーデニー家の情報を集めているとき、このロミリアが曲者になりそうだった。
 庶民たちによると、毎日人々に奉仕していたようだ。
 まさかとは思ったが、その場面は俺も実際に見ている。
 そんなことせずとも裕福な暮らしが送れるだろうに。
 俺は経験上、そういう奴こそ注意しなければならないと知っている。
 人を見る目があるからだ。
 ここまでは、とりあえず第一関門突破といったところだな。
 さてさて、次はルドウェン王子の信用を得なけらばならない。
 アトリス王と王妃が外国へ出ているこのタイミングを絶対に逃してはならない。

――上手くいくだろうか……。

 大丈夫だ、俺はこの大切な任務のために、ずっと準備をしてきたじゃないか。
 ルドウェン王子の性格や、アトリス王国の内情も十分把握している。
 それに、天は俺に味方しているのだ。
 本国のためにも、俺はこの大仕事を絶対にやり遂げてみせる。
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