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第10話:実家と元婚約者の評判(Side:ルドウェン①)

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*****

 俺は王宮でゆったりとくつろいでいる。
 どうやらロミリアはガーデニー家から出ていったらしい。
 婚約破棄してやったときの顔は本当に面白かったな。
 でも性格はうざかったが、あいつは見た目だけは良かった。
 遊び相手にでも残しとくべきだったか?

――わざわざ丁寧に話してやってたのに、ちょっと惜しいことをしたな……。

「あの……ルドウェン様」

 思い出してたら、召使いのパトリーが話しかけてきやがった。
 こいつは王宮に古くから勤めている。

――ちっ、なんだよ。

 パトリーはいつも人がのんびりしている時に話してくる。

「なんだ?」
「も、申し訳ございません。ここにルドウェン様のサインが必要なのですが……」

――ったく、めんどくせえな!

 俺は書類だの、サインだのが大っ嫌いだ。
 いつものように、中身など見ないでサインする。

「ほらよ」
「あ、ありがとうございます。あ、あの……ルドウェン様?」

――なんだよ、まだ何かあんのかよ。

「あ?」

 パトリーはもじもじしてる。
 ったく、うぜーなー! 
 話したいことがあるなら、さっさと話せ、こののろま!

「わ、私ごときが申し上げるのは大変恐縮なのですが……。も、もう少し書類の中身を見てからサインされた方が良いかと……」

――ああ!? なんだこいつ、召使いのくせに調子乗ってんのか!

「てめえ! 俺に文句あんのか!!」
「い、いいえ! めっそうもございません! 申し訳ありませんでした! 失礼いたします!」

 思いっきり怒鳴ってやったわ。
 誰のおかげで生活できてると思ってんだ。
 ちっ、書類にサインさせられたせいで疲れたな。

――ダーリーんとこでも行くか。

 俺は護衛たちを連れて、ガーデニー家に向かう。
 ロミリアがいなくなったから、もう気にせずダーリーに会えた。
 こんなことなら、もっと早く婚約破棄してやればよかったな。
 しかし、いつにも増して庶民のクズどもが俺を見てくるのはなんでだ。

「あの、ルドウェン王子様」

 歩いてたら汚いババアが話しかけてきた。

――なんだ、このババア。汚ねえな。

「あ?」

 俺が丁寧に話してやるのは、貴族のきれいな女くらいだ。

「ロミリアお嬢様とのご婚約を破棄されたとは、本当でございますか?」

――ちっ、もうクズ庶民も知ってやがんのかよ。きっとロミリアが腹いせに言いふらしたんだろうな。あのクソアマが。

「お前なんかに話すわけねえだろーが。さっさと道を開けろ!」
「やっぱりそうなんでございますね! なんてひどいことをなさる! あなたのせいで、ロミリアお嬢様はお家から追い出されたんですよ!」

 ババアが俺の両腕を掴む。

――このクソババア!

 ドガッ! ズザァァァ!

 俺はムカつくババアの顔を、力いっぱいぶん殴ってやった。

「ひいいいいいい!お助けを!」

 ハハハッ! バカだなぁ。

「ルドウェン様! さすがに度が過ぎますぞ! おばあさん、大丈夫ですか!」

 なぜか、護衛の一人がババアを助けてる。

「おい、ブライアス!お前は俺の護衛だろ!なんで俺から離れるんだ!」
「ルドウェン様!いい加減にしてください!ロミリア様とのことだって……」

 ちっ、こいつはなにかあるとすぐ説教だ。

「うるさい!お前はもうクビだ!そんなにそいつが好きなら、ずっとそこにいろ!」

 ったく、何で俺の周りにはバカしかいないんだ。

*****

 お義姉様がいなくなって、ホントに良かった。
 いつもいつも、礼儀を守れだの、世の中に尽くせだの、うるさくてしょうがなかったわ。
 あのヘンな教会だって、汚い庶民がたくさん来るから嫌いだった。

「ねえ、お義父様~。教会はもうやめにしない?」

 私はお義父様にしな垂れかかる。

「ダーリーの言う通りよ、エドワール。庶民が私たちのお金をたくさん使っているのは気分が悪いわ」

 お母様も賛成してくれた。

「そうだなぁ、わしもちょうど、そう思ってたところだ。これからいろいろと金がかかるだろうからな」

 男の人ってホントに簡単。
 ちょっと色気を出して甘えればコロリ、なんだから。
 それに、今ガーデニー家で一番偉いのは、この私。
 なんてったって、ルドウェン様の婚約者ですもの。

「よし、早速召使いたちに伝えるか」

 お義父様とお母様が召使いを集める。
 しかし、彼らは思いのほか反抗してきた。

「エドワール様、デラベラ様、私たちは反対でございます。先祖代々続いてきた聖ガーデニー教会を閉じておしまいになるなんて。あの教会にはガーデニー一族の思いがこもっているのですぞ」

 たしかこの人は一番古い執事だっけ?

「いいや、聖ガーデニー教会は今日で廃業とする」

 そうよ、その調子!

「なりません!あそこが最後の頼みになっている方々も多いんですぞ!」
「ダーリーが王宮に嫁いだらまた始めれば良いですわ」

――さっすが、お母様!

「なりません!」

――ウーン、しつこいなぁ、このおじいちゃん執事。

 ちょうどその時、私の大好きなルドウェン様がやってきた。

――キャッ、ルドウェン様だ!もう、ホントにカッコイイわ!あれ?今日はいつもの護衛の人がいないのね。そうだ!ルドウェン様からもなんか言ってもらお!

「ルドウェン様!」
「やあ、ダーリー。今日もかわいいね。何かあったのかな?」

――今日もかわいいだって!ウレシーーー!おっと、いけないいけない。

「あのね、ちょっと聞いて欲しいの」

 さりげなくルドウェン様にくっついて話す。

「……だから、ルドウェン様からも何か言って欲しいの。……おねがぁい」

 上目遣いで最後のひと押し!

「わかったよ、ダーリーが困っているなら何とかしないとね」

 ヤッター!やっぱりルドウェン様って優しいわ!庶民の人はルドウェン様のことを”気が荒い”なんてウワサしてるらしいけど、全然そんなことないじゃない。しょせん庶民の言うことなんて、アテにならないってことね!

「こんにちは」
「こ、これはルドウェン様」

さっきまでの威勢はどこへやら、おじいちゃんも縮こまっちゃって。

「話はダーリーから聞きました。私も聖ガーデニー教会の廃止に賛成です。ガーデニー家は、もう十分に務めを果たしたと思います」

 言葉遣いもホントにきれい。

「ん……む」

 さすがに王子様に言われると逆らえないみたいね。
 まるで私が言い負かしたみたいで気分がいいわ。

「ルドウェン様がおっしゃられているとおりだ。聖ガーデニー教会は本日をもって廃止とする!」

 お義父様が言って、教会は正式に廃止になりましたとさ、ヤッタネ!

*****

 このところ庶民の間では、ある話題でもちきりだった。

「おい、お前聞いたか?ロミリアお嬢様のこと」
「あぁ、もちろん聞いたとも。婚約破棄からの追放だろ?ひでえ話だよなぁ」
「何でもルドウェン様浮気してたらしいな」
「婚約者がいるのに普通浮気なんてするかぁ?」
「しかも、聖ガーデニー教会も廃止しちまったんだと」
「えっ、マジで?ロミリアお嬢様に病気とかケガを治してもらった人、何人も知ってるよ、おれ。なんでまた、そんなバカなことを」
「噂だとルドウェン様も賛成したらしい」
「私、ルドウェン様がおばあさん殴ってるところを見ました」
「実は俺も……」

 庶民たちのウワサなど、彼らの知る由もなかった。
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