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第8話:大賢者、コルフォルス

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 とりあえず今日は休みなさい、と私たちは寝室に案内された。 
 もちろん、まだ別々のお部屋だ。
 寝る前にアーベル様がお話しに来てくれた。

「一緒に何か食べてから寝よう」

 特産の果物やお肉、パンとかも持ってきてくれた。

「ロミリア、今日は疲れただろう。ゆっくり休んで。明日はコルフォルスに挨拶しに行くからね」

 アーベル様がぶどう酒をトクトクと二つのカップに注ぐ。
 “こら、ロミリア!殿方に……”
 自分を叱る声が聞こえてきたので、私も慌てて果物を切りわける。

「ありがとうございます、アーベル様。コルフォルスってもしかして、あの伝説の大賢者様ですか?」
「あ、ああ、そうだよ。良く知っているね、ロミリア」

――やっぱり。

 この話になると、少し話しづらそうだ。

「お会いできるのが楽しみですわ」

 話題を変えた方が良いかな? いや、それよりも伝えなければいけないことがある。

「あの……アーベル様」

 私はベッドの上に正座した。

「ん?」

 アーベル様を正面から見つめて言う。

「私と婚約してくださって本当にありがとうございます」

 しばらくアーベル様はぽかんとしていた。 
 が、やがてけらけらと笑い始める。

「あはは、ロミリアは硬いなぁ。僕の方こそ婚約を受けて入れくれて、本当にありがとう。心から愛してる、大好きだよ、ロミリア」

 とても優しい声で言ってくれた。

――この人と出会えて本当に良かった……

「私も心から愛してますわ。アーベル様、大好きです」

 私たちは愛の言葉をささやき合う。
 そして、静かにキスを交わした。

*****

 お休みなさい、と言って僕は自室に戻った。
 喜びのあまり叫びだしそうになるのを、必死に抑える。

――好きな女性と愛し合うって、なんて素敵なんだ!

 彼女の真っ赤な瞳に見つめられた時は、緊張してどうにかなりそうだった。
 今思えばあの教会を訪れたことも、何かの運命だったのかもしれない。

――ロミリアの唇、柔らかかったな。

 ちょこんとしているがふっくらした、瞳に負けないくらい真っ赤な唇。
 しばらくぼんやりしていたが、大事なことを思い出した。

――そうだ!明日はコルフォルスに婚約の挨拶だ。コルフォルス……。僕の大切なコルフォルス……。

 この旅の間、ずっと彼のことが気がかりだった。
 ロミリアと一緒に婚約の報告をして、早く安心させてやりたい。

――明日は朝が早いんだ!早く寝ないと!

 しかし、ロミリアの唇の感触が忘れられなくて、朝まで眠れなかった。

*****

 次の日、みんなで豪華な食事をした後、早速コルフォルスのところへ行くことになった。

「コルフォルスは王国全体の魔力を管理するため、いつも地下の大聖堂におる」
「歩きでは彼のところへは行けないから、転送魔法で行くわよ。アーベル、ロミリアちゃん、準備はいい?」

 王妃様はさらっというと、杖を取り出した。

「お母様は転送魔法がお得意なんだ」

 こそっとアーベル様が耳打ちする。

「大地の神よ。我、ハイデルベルクを統べる者に力を与えよ」

――ん ?ちょっと、待って。もしかして、転送魔法って私また寝ちゃうんじゃ!

 私の焦りなどおかまいなしに、白い光はみんなを包む。
 目を開けると、王の間よりずっと広くてがらんとした空間にいた。

――良かった、今回は寝なくてすんだみたい。

 明かりはわずかしかないのに、やけに眩しい。
 少しずつ眼が慣れてきた。
 壁や天井は美しい絵と、金による装飾がびっしりと施されていた。
 眩しいのは、金が明かりを反射してるからだ。

――なんて素敵な場所なのかしら……。

 もしかしたら、王の間よりも格式が高く、立派な場所なのかもしれない。

「よく来たな、アー坊。そして、ロミリア」

 どこからか暖かい声が聞こえる。
 と、そのとき、目の前にスーッと老人が現れた。
 濃い紺色のローブに、魔女のようなとんがり帽子。
 間違いない、この方が大賢者コルフォルスだ。

「コルフォルス!会いたかったよ!」

 アーベル様が勢いよく胸元に飛び込む。

「なんじゃ、旅に出たと聞いておったが、全く成長しとらんようじゃのう」
「うっ、うっ、うっ」

 アーベル様はおよよと泣き崩れてしまう。

「アーベル、みっともないぞ!」
「コルフォルスの前ではいつもこうなんだから」

 王様と王妃様は呆れつつも、笑顔で二人を見ていた。

「アーベル、そろそろ未来の奥さんを紹介してくれんかの?」
「あ、そうだ!コルフォルス、この人が僕の婚約者のロミリア・ガーデニー嬢だよ!」
「初めてお目にかかります。私はロミリア・ガーデニーと申します」

 朝メイドに着せられた真っ赤なドレスで恥ずかしかったが、丁寧に挨拶した。

「そうか、そうか。わしはコルフォルスという者じゃ。ロミリア、お主に会えるのを楽しみに待っておった」

 不思議なことに、私はコルフォルスに初めて会った気がしなかった。

「お会いできて、私も光栄に思います」
「ところで、ロミリアよ。そなたの母親は、……ぐっ!」

 突然、コルフォルスがドサッと倒れこんでしまった。

「コルフォルスさん、大丈夫ですか!?」
「こ……このところ……胸の調子が悪くてな」

 慌ててみんなが集まってきた。

「コルフォルス!しっかりして、コルフォルス!」

 アーベル様が必死に呼びかける。

「私は医療官を呼んでまいりますわ!」

 王妃様が一瞬で姿を消した。

「わ、わしの胸ポケットに薬が入っておる……。すまぬが、取ってくれるかの?」

 コルフォルスが息も絶え絶えに言う。
 胸元を探すと、小さな薬瓶があった。

「これですか、コルフォルスさん!?」
「あ……あぁ、それじゃ」

 私は急いで蓋を開けた。
 コルフォルスの口元からゆっくり薬を流し込む。

「ふぅ……やっぱり年を取るとだめじゃの」
「コルフォルス、大丈夫か!?」
 
 王様もとても心配そうな顔をしている。

「王様、この大変な時期にご迷惑をおかけして、誠に申し訳ないですな……」
「いや……ゼノ帝国のことは気にするな。お主の身の方が大切だ」

――ゼノ帝国……。

 私はドキッとした。
 なにか嫌な予感がする。
 そのとき、コルフォルスがガクッと意識を失ってしまった。

「コルフォルスさん!?」
「コルフォルス、大丈夫か!?」
「コルフォルス、しっかりして!?」

 そのうち医療官たちがやってきて、コルフォルスは運ばれていった。
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