孤独の恩送り

西岡咲貴

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10章 家族

84話 ハンバーグとホットドッグと歓迎会

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 各々「いただきます」と言って食べ始める。

 ハンバーグとホットドッグと言うのは謎な組み合わせだなとは思ったけど、皆がそれで良いのなら問題はない。

 それどころかこんな大人数で食事する事なんて滅多にないので、幸せな事だとも思う。

「涼香ちゃん……これは母さんのハンバーグそのものだよ……。ありがとう……」

 颯太と麻衣ちゃんは美味しいと言って泣きながら食べてくれた。

 二人は母の事を思い出して泣いているのだろう。

 私も未祐さんが好きだったし、それで良かったのだと思う。

「これは未祐だ……未祐の味がする……」

 真央さんも彼等と同じ事を言った。

「あ、ごめんなさい……作ってくれたのは涼香ちゃんなのに……」

 彼女も又、溢れる涙を拭きながら食べてくれた。

 一口目を口に入れた時の反応を見ていると、皆にとって未祐さんが如何に大きい存在だったのかが分かる。

 作ったのは私だったけど、こんなに喜んでもらえる程に彼女の料理を再現できていた事を嬉しく思う。

「これ美味しいよ……」

 結菜ちゃんもそう言って食べてくれている。

「ありがとう……」

 未祐さんの事を知らない人が美味しいと言ってくれるのも、それはそれで嬉しいものではある。

「お姉ちゃん……」

「ん?」

 呼びかけられたので彼女の方を向くと、

「ありがとう禁止って言ったのに、自分は良いの?」

 まさかそんな事を突っ込まれるとは思っていなかったので笑ってしまう。

「あ……」

 よく見ると彼女も涙を流しながら食べているではないか。

「と言うか、何で結菜ちゃんまで泣いてるのよ?」

 彼女は未祐さんの事を殆ど知らない筈だ。

 この空気に飲まれて、貰い泣きしてしまったと言う所だろうか?

「だって……このハンバーグはお姉ちゃんが初めて食べさせくれた味だよ?
 忘れられる訳がないじゃない」

 ああ……この子は未祐さんの事ではなく、私を思い出して泣いてくれていたのか……。

 それも、レシピノートのコピーではあるけども。

「じゃあこっちの、父さんが作ったホットドッグも食べてみようかな……」

 そう言ったのは颯太だったけど、食べて一番に声を上げたのは蛍ちゃんだった。

「美味しいです。
 でもこれって喫茶辻本の味ですよね?」

 その反応に麻衣ちゃんも納得した様子だ。

「確かにそうだね。
 何処かで食べた事がある味だと思ったよ」

 皆が行った事のある人気喫茶店?

「よく分かったね?その通りだよ……。
 学生時代にそのお店で働いていてね、新メニューとしてレシピを考えたのは私なんだ。
 君は辻本によく行くのかい?」

 あれ……喫茶辻本って何処かで聞いた名前だと思ったら、颯太が結菜ちゃんに刺された時に私が駆け込んだ店の名前だ。

「昔よく連れて行ってもらったんですよ。
 お母さんはこのカレー味のホットドッグをお店で出し始めた頃によく通ってたって言ってました。
 当時アルバイトの人が考えたって……。
 もしかして、高田君のお父さんはお母さんと知り合いですか?」

 彼は少し考えている様だったけど、しばらくして蛍ちゃんに質問する。

「君のお母さんの名前は?」

 当然だけど今日初めて会った息子の同級生なのだから、母親の名前なんて知っている筈がない。

「上杉美穂……。
 あ、旧姓は五十嵐と言います」

 急に笑い出した。

「そうだね、よく知っているよ。
 彼女は大学の後輩なんだ……。
 でもあの子の娘が颯太の同級生だったとはね。
 お母さんは元気かい?」

 颯太のお父さんと蛍ちゃんのお母さんは学生時代の知り合いだったのかと少し驚いた。

 未祐さんと真央さんの様に学生時代同級生で、家族ぐるみの付き合をしていたなら子供同士である颯太と誠が仲良くなるのも分かる。

けど今回みたいにクラスが同じだった友達の親同士が知り合いだったと言う偶然なケースは本当に珍しいのではないだろうか?

「はい元気です。
 今日の朝も話してからここに来ましたし……」

 世間って凄く狭い……。

「そうかい。
 なら、お母さんによろしく言っといてね」

 何だか懐かしい名前を聞いて、彼は嬉しそうな顔をしていた。

「勿論美味しんだけど、それよりも何だか凄く懐かしい気がするんだよ。
 昔ママが作ってくれた味に似ている気がしてきてさ……」

 結菜ちゃんはホットドッグも気に入ったみたいで、パクパクとたくさん食べ、小声でそう言った。

 え?

「沙綾香さんが、こんなに美味しいホットドッグを作ってくれたの?」

 私の知る彼女は、食事の殆どをライザの惣菜で済ませていたし、料理をする様な人でもなかった。

 娘の為に何かを作ってくれる事が本当にあったのだろうか?

「その可能性はあるね……。
 今は看板メニューらしいけど、私が辻本でこれを新メニューとして提案した時、一番に試食してくれたのが沙綾香なんだよ。
 色々意見をもらったから、必要な材料や作り方を知っていたし、娘の為に作っていたとしても不思議ではないと思う……」

 そうなの?

 だとするなら沙綾香さんはイメージしていた人物とは、かなり違うかもしれない。

 これまでに聞いた結菜ちゃんの話も含めて考えると、もしかしたら娘を溺愛していたのかも知れないとさえ思えてくる。

 私が知らなかっただけで、過去に何かあったのか?

 何故彼女は道を踏み外したのだろう?

「その話を聞く感じですと時期的に考えて、結菜ちゃんのお母さんと私のお母さんは知り合いだったんでしょうか?」

 それは確かに気になる話ではある。

「学生時代には同回生で、かなり仲が良かった筈だよ」

 結菜ちゃんと蛍ちゃんのお母さんが友達だったの?

 世間は本当に狭いんだなと感じた……。
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