孤独の恩送り

西岡咲貴

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10章 家族

82話 恩と縁

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「感謝してもしきれない未祐さんにはもう恩返し出来ないんだなって思うと悔しい……」

 この子はそんな風に考えていたのか……。

「ああ、それだったら大丈夫だよ。
 未祐さんの教えは「恩返し」じゃなくて「恩送り」だったからね……。
 結菜ちゃんが感謝している気持ちは、きっと天国に居る彼女にも届いていると思うよ」

 そんな事を言うと颯太や麻衣ちゃんに助けられた時の事を思い出してしまう。

 最初は彼等に恩返ししたいと思っていたけど、彼は私に「恩送り」を提案してきた。

 その後友達になってから未祐さんと話す機会が増えると、私にも「恩送り」と言う考え方を教えてくれた。

 人は良い行いも悪い行いも巡り巡って自分に返ってくる。

 メリットやデメリットだけを考えて生きていくよりも、彼女の思想の方が素敵だと感じる様になっていたのは事実だ。

「恩送りって……?」

 最初に聞いた時は分からなかったし、確かに聞き慣れない言葉ではあると思う。

「受けた恩をその人に返すんじゃなくて、別の困ってる人に送ると言う考え方だよ。
 そしたら自分も人に優しくなれるし、多少は素敵な未来になっていくでしょ?
 未祐さんはそう教えてくれた……」

 少しずつではあっても、世界は私達が望む方向へ進む事ができる、と思えたのは彼女のおかげだった。

 それは私を変えてくれた思想で、結菜ちゃんが過去に囚われて苦しんでいるのなら力になってくれる考え方でもある筈だ。

「そっか……。
 だから颯太もお姉ちゃんも麻衣ちゃんも優しくしてくれるんだね……。
 ずっと不思議だったんだよ、私なんかに恩を売ったって何のメリットもないのにどうして助けてくれるんだろうと思っていたの……。
 でも今の話を聞いて、凄く納得できたよ」

 彼女の話を聞いてやっぱり未祐さんは凄い人だったのだと改めて感じる。

 勿論直接的に結菜ちゃんを救ったのは彼女だけど、今も間接的に心のケアをしてくれている。

 ずっとそばに居てくれる颯太や麻衣ちゃんに道理や倫理観を教えたのは、言うまでもなく彼女なんだから……。

「こんにちはー」

 玄関から聞こえる声でお客さんがきた事が分かる。

「師匠が来てくれたみたい」

 二階のそれぞれの部屋で用事をしていた颯太と麻衣ちゃんが降りてきて玄関に向かう。

「いらっしゃい、上がって」

 二人のお客を招き入れる。

「今日は親子でよんでくれてありがとう」

 誠と真央さんだ。

 私は知らないけど結菜ちゃんが行方不明になっていた時、真央さんにかなりお世話になったらしい。

 それ以来、結菜ちゃんは彼女の事を師匠と呼んで慕っている。

「師匠の様な児童福祉司になりたい」と言っていたけど、あのアパートでの事がそう思わせたきっかけだったのだろうか?

 今では真央さんと一緒に近所の道場に通い始め、新しく空手も始めた様だ。

 やはり将来の夢や希望、やりたい事があるのは凄く素敵な事だと思う。
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