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10章 家族
81話 一員になれた縁と喜び
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「それより……ちょっと不思議に思ったんだけどさ、颯太の事は颯太と呼んでいるのに、私の事はお姉ちゃんなんだね……。
三人とも同い年なのに変な感じだよ?
颯太と麻衣ちゃんは結菜ちゃんの事を姉さんって呼んでるしさ……」
疑問に思っていた事を聞いてみる。
「お姉ちゃんは、最初に私の部屋にご飯食べようと誘いに来てくれた時、年上の綺麗な人だなって思ったんだよ。
だからそう呼び続けているけど、颯太とは父親が同じで、実際に私の方が早く生まれているんだ。
だから颯太はお兄ちゃんって呼ぼうとすると怒るんだよ……僕は弟だってね……」
彼女の微笑みは少し歪ではあったけど、だいぶ笑う様になってきて私も嬉しく思う。
「何だろう、彼の真面目な部分が凄く出てるね……」
笑う所なのかもしれないけれど、そんな彼の真面目さのおかげで彼女がこうしてここに居られるのだからそれはとても素敵な事だ。
蒸らし三分のアラームが鳴る。
「ほら、完成だよ」
蓋を開けると、凄く良い匂いが湯気と共にキッチンに充満する。
「これって何が入っているの?私にも教えてよ」
嬉しそうに聞かれると教えたくなってしまう。
「えーと、お肉は牛粗挽きミンチと豚細挽きミンチを混ぜてあるの。
それに玉ねぎとコンソメ。
後は牛乳、パン粉、米粉、卵……」
言いかけて、途中で止める。
よくよく考えると私が今言っている事は紙とペンでもないと覚えるのは無理だ。
「ごめんなさい……ちょっと待って。
口で言われても分からないや……今度ゆっくりお願いします……」
彼女の「聞いておいて申し訳ない」と言った顔と凄く焦っている様子は何だか可笑しかった。
口で説明するには情報量が多すぎだったと反省する。
「そうだよね……。
今度ゆっくり一緒にやろう。
未祐さんのレシピノートを見ればそんなに難しくはないから、安心してね」
初めて彼女に食べさせた料理だったし、気に入ってくれている様で私も嬉しかった。
「ところで、そんな美味しい料理を作る事ができるその人はどんな人だったの?」
え?
「どんな人だったかって聞かれても……。
優しくて凄く素敵な人だったよ?」
あの火事で助けてくれた命の恩人だから、どんな人なのか知りたいという事だろうか?
「皆が未祐さんって呼ぶあの人は私にとって義理のママになる訳だけど、火事の夜に命がけで助けてくれたその一度きりしか会えなかった……。
本当に助けたかったのはお姉ちゃんの事かもしれないけど、凄く感謝しているの……あの人が居なければ私はもうこの世には居ないから……」
考えてみたら、彼女にとっては命の恩人でありながら義理の母親でもあるのだ……。
これから「高田」として暮らしていくなら、家族の中で自分だけが彼女の事を知らない事になる。
「そっか……」
家族として受け入れられたとは言え、それって結構寂しい事なのかもしれない。
「命を救ってくれた恩人とこうして家族になれたんだと思うと、何だか凄く縁を感じるの……。
結菜の「結」と言う字は「人との結びつき」を願って付けたんだよってママに聞いた事があったんだけど、それってこの事なんじゃないかな?
命を救ってもらって、颯太やお姉ちゃんとこうやって一緒に居られる事がとても幸せだし……」
何て良い子なのだろうかと思ってしまう。
あのアパートに閉じ込められていた時は環境が最悪だったかもしれないけど、これからは高田家が彼女を幸せにしてくれるだろうし、私だってそばに居る。
今までの辛かった事を早く忘れられるくらい、いっぱいこの子を愛してあげよう。
未祐さんの事を知らなくても、もう大切な家族の一員なのだと早く気付いてくれる様に……。
三人とも同い年なのに変な感じだよ?
颯太と麻衣ちゃんは結菜ちゃんの事を姉さんって呼んでるしさ……」
疑問に思っていた事を聞いてみる。
「お姉ちゃんは、最初に私の部屋にご飯食べようと誘いに来てくれた時、年上の綺麗な人だなって思ったんだよ。
だからそう呼び続けているけど、颯太とは父親が同じで、実際に私の方が早く生まれているんだ。
だから颯太はお兄ちゃんって呼ぼうとすると怒るんだよ……僕は弟だってね……」
彼女の微笑みは少し歪ではあったけど、だいぶ笑う様になってきて私も嬉しく思う。
「何だろう、彼の真面目な部分が凄く出てるね……」
笑う所なのかもしれないけれど、そんな彼の真面目さのおかげで彼女がこうしてここに居られるのだからそれはとても素敵な事だ。
蒸らし三分のアラームが鳴る。
「ほら、完成だよ」
蓋を開けると、凄く良い匂いが湯気と共にキッチンに充満する。
「これって何が入っているの?私にも教えてよ」
嬉しそうに聞かれると教えたくなってしまう。
「えーと、お肉は牛粗挽きミンチと豚細挽きミンチを混ぜてあるの。
それに玉ねぎとコンソメ。
後は牛乳、パン粉、米粉、卵……」
言いかけて、途中で止める。
よくよく考えると私が今言っている事は紙とペンでもないと覚えるのは無理だ。
「ごめんなさい……ちょっと待って。
口で言われても分からないや……今度ゆっくりお願いします……」
彼女の「聞いておいて申し訳ない」と言った顔と凄く焦っている様子は何だか可笑しかった。
口で説明するには情報量が多すぎだったと反省する。
「そうだよね……。
今度ゆっくり一緒にやろう。
未祐さんのレシピノートを見ればそんなに難しくはないから、安心してね」
初めて彼女に食べさせた料理だったし、気に入ってくれている様で私も嬉しかった。
「ところで、そんな美味しい料理を作る事ができるその人はどんな人だったの?」
え?
「どんな人だったかって聞かれても……。
優しくて凄く素敵な人だったよ?」
あの火事で助けてくれた命の恩人だから、どんな人なのか知りたいという事だろうか?
「皆が未祐さんって呼ぶあの人は私にとって義理のママになる訳だけど、火事の夜に命がけで助けてくれたその一度きりしか会えなかった……。
本当に助けたかったのはお姉ちゃんの事かもしれないけど、凄く感謝しているの……あの人が居なければ私はもうこの世には居ないから……」
考えてみたら、彼女にとっては命の恩人でありながら義理の母親でもあるのだ……。
これから「高田」として暮らしていくなら、家族の中で自分だけが彼女の事を知らない事になる。
「そっか……」
家族として受け入れられたとは言え、それって結構寂しい事なのかもしれない。
「命を救ってくれた恩人とこうして家族になれたんだと思うと、何だか凄く縁を感じるの……。
結菜の「結」と言う字は「人との結びつき」を願って付けたんだよってママに聞いた事があったんだけど、それってこの事なんじゃないかな?
命を救ってもらって、颯太やお姉ちゃんとこうやって一緒に居られる事がとても幸せだし……」
何て良い子なのだろうかと思ってしまう。
あのアパートに閉じ込められていた時は環境が最悪だったかもしれないけど、これからは高田家が彼女を幸せにしてくれるだろうし、私だってそばに居る。
今までの辛かった事を早く忘れられるくらい、いっぱいこの子を愛してあげよう。
未祐さんの事を知らなくても、もう大切な家族の一員なのだと早く気付いてくれる様に……。
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