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10章 家族
80話 レシピノートとハンバーグ
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昨日ここへ来て予め作っておいた肉の塊を冷蔵庫から取り出す。
未祐さんのレシピノートによれば、前日から一晩寝かせておいた方が美味しくなるらしい。
焼く時は平らにして、中央をくぼませる形にする事で中までしっかりとバランスよく焼き上がると書いてある。
油をひいたフライパンにくぼみが上になる様にして乗せ、まずは強火で表面の色が変わるまで焼く。
焦げない様に管理しながら少し待って、フライ返しでひっくり返す。
ここからは弱火にして蓋をかぶせ、六分間焼いていく。
「二人にハンバーグを作ってあげて欲しい……」と言うのが、私の聞いた未祐さんの最後の言葉だった。
颯太と麻衣ちゃんが大好きだったと言うそのレシピもノートに載っていたのだから、再現するしかない。
もらったレシピはあの夜、アパートと共に燃えてしまったけど、誠に頼み込んで再度コピーさせてもらった。
「母の味をもう一度子供に食べさせたい」と言うのが彼女の最後の願いなら、私もその想いにこたえたい。
「お姉ちゃん、凄く美味しそうな匂いがしているよ」
そうやって匂いにつられて人が集まって来る。
「もうちょっと待っててね……」
彼女は高田結菜。
あの事件の後に颯太が皆を説得し、自分の姉として高田家に迎え入れたのだ。
沙綾香さんに「あなたにあげるわ。ちゃんと育ててみなさいよ……」と言われた時、何もできなかった事が本当に悔しかったし、自分の無力さも知った。
父親の協力があったとは言え、皆の反対を押し切ってでも彼女を家族にしてくれた颯太は本当に凄いし、またこうして彼女と一緒にご飯を食べられる日が来た事が凄く嬉しい。
「これってさ……お姉ちゃんが初めて私に食べさせてくれた時のハンバーグだよね?」
そう言えば、そうだったなと気が付く。
「あの時は冷めたものをレンジでチンしたけど、今回は焼き立てだよ……」
喜んでくれると思って言った言葉だったけど、予想とは裏腹に彼女は黙り込んで泣いてしまった。
「あれ、どうしたの?嬉しくないの?」
袖で溢れる涙をふく。
「私、こんな幸せで良いのかな……?
颯太の事、刃物で刺しちゃったのに、彼もお姉ちゃんもこんなに優しくしてくれて……何だか怖いよ」
言っている事はもっともではあるが、どちらかと言えば前の環境が最悪だったのだ。
最初は同情の類だったかもしれないけど、今は結菜ちゃんの事を愛してくれる人達がまわりにいっぱい居る。
皆、彼女の事が大好きなのだ。
「今までずっと我慢して苦しい思いをしてきたんだから、これで良いんだよ……」
私は力いっぱい彼女を抱きしめた。
「ありがとう……ありがとう……」
彼女も強く抱き返してくれる。
「ありがとう……ありがとう……」
六分のアラームがキッチンに鳴り響く。
「そんなに、言わなくても分かったから大丈夫だよ……感謝してくれているのは十分伝わっているし、しばらくは「ありがとう禁止」だよ……。
ほら涙を拭いてよ、可愛い顔が台無しになっちゃうから……」
タオルを渡す。
「ありが……」
またしてもお礼を言いそうになったので、口の前に人差し指を立てた。
「ほら、言ってるそばから……禁止って言ったでしょ?」
ガスの火を止め、蓋は開けずに三分蒸らす。
「ありが……じゃなかった……分かったよ」
微笑ましい反応だ。
「よろしい!」
二人で笑った。
未祐さんのレシピノートによれば、前日から一晩寝かせておいた方が美味しくなるらしい。
焼く時は平らにして、中央をくぼませる形にする事で中までしっかりとバランスよく焼き上がると書いてある。
油をひいたフライパンにくぼみが上になる様にして乗せ、まずは強火で表面の色が変わるまで焼く。
焦げない様に管理しながら少し待って、フライ返しでひっくり返す。
ここからは弱火にして蓋をかぶせ、六分間焼いていく。
「二人にハンバーグを作ってあげて欲しい……」と言うのが、私の聞いた未祐さんの最後の言葉だった。
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「母の味をもう一度子供に食べさせたい」と言うのが彼女の最後の願いなら、私もその想いにこたえたい。
「お姉ちゃん、凄く美味しそうな匂いがしているよ」
そうやって匂いにつられて人が集まって来る。
「もうちょっと待っててね……」
彼女は高田結菜。
あの事件の後に颯太が皆を説得し、自分の姉として高田家に迎え入れたのだ。
沙綾香さんに「あなたにあげるわ。ちゃんと育ててみなさいよ……」と言われた時、何もできなかった事が本当に悔しかったし、自分の無力さも知った。
父親の協力があったとは言え、皆の反対を押し切ってでも彼女を家族にしてくれた颯太は本当に凄いし、またこうして彼女と一緒にご飯を食べられる日が来た事が凄く嬉しい。
「これってさ……お姉ちゃんが初めて私に食べさせてくれた時のハンバーグだよね?」
そう言えば、そうだったなと気が付く。
「あの時は冷めたものをレンジでチンしたけど、今回は焼き立てだよ……」
喜んでくれると思って言った言葉だったけど、予想とは裏腹に彼女は黙り込んで泣いてしまった。
「あれ、どうしたの?嬉しくないの?」
袖で溢れる涙をふく。
「私、こんな幸せで良いのかな……?
颯太の事、刃物で刺しちゃったのに、彼もお姉ちゃんもこんなに優しくしてくれて……何だか怖いよ」
言っている事はもっともではあるが、どちらかと言えば前の環境が最悪だったのだ。
最初は同情の類だったかもしれないけど、今は結菜ちゃんの事を愛してくれる人達がまわりにいっぱい居る。
皆、彼女の事が大好きなのだ。
「今までずっと我慢して苦しい思いをしてきたんだから、これで良いんだよ……」
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「ありがとう……ありがとう……」
彼女も強く抱き返してくれる。
「ありがとう……ありがとう……」
六分のアラームがキッチンに鳴り響く。
「そんなに、言わなくても分かったから大丈夫だよ……感謝してくれているのは十分伝わっているし、しばらくは「ありがとう禁止」だよ……。
ほら涙を拭いてよ、可愛い顔が台無しになっちゃうから……」
タオルを渡す。
「ありが……」
またしてもお礼を言いそうになったので、口の前に人差し指を立てた。
「ほら、言ってるそばから……禁止って言ったでしょ?」
ガスの火を止め、蓋は開けずに三分蒸らす。
「ありが……じゃなかった……分かったよ」
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「よろしい!」
二人で笑った。
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