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9章 虐待とネグレクト
77話 愛の証
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妊娠が発覚したのは俊博と別れた後、少ししてからだった。
私は別れたくはなかったし寧ろ結婚したいとさえ考えていたけれど、どうやら彼の思い描く未来に私は存在していなかったらしい……。
振られてしまっても、彼に重荷を背負わせたくなかったので妊娠していた事を私から伝える事はなかった。
世間的には「責任」と言う言葉がしばしば用いられるが、子供ができたからと言って好きではなくなってしまった女の所に縛り付けておきたくなかったのだと思う。
しかし私にとって彼女は彼との愛の証であった事もあり、迷った結果出産して一人で育てていく事を決めたのだ。
私自身が上手くいかなかった事もあって「人との結びつき」を大切にする子になって欲しいと言う願いを込め、それに生まれてきてくれた春の季語を付け加えて「結菜」と名付けた……。
翌朝目が覚めると頭が割れるのではないかと思うくらいに痛かったが、おそらくは二日酔いだろう。
昨夜はどうやって家に帰ってきたのかも覚えていない程に酔いつぶれていた。
「ママ、大丈夫?何かあったの?」
小声ではあったけど娘の声が頭に響いて気分が悪く、吐きそうで凄く辛い。
「結菜、お前なんか生まなきゃ良かった……。
お前を生んだのは私の人生最大の間違いだった……」
そんな言葉を発してしまった瞬間、今まで張り詰めていた糸がプツンと音を立てて切れてしまった様な感覚に襲われ、気が付くと大切だった筈の結菜に暴力を振るっていた。
腹部を力いっぱい殴り、苦しみながら床にうずくまる彼女の横腹を何度も蹴ってしまっている。
「おい起きろ!
こんなので痛がっているふりをすんじゃねーよ……。
冗談も通じないのか?」
こんな事はダメだと心では分かっていても、もはや溢れてくる衝動を抑える事ができなかった。
大好きだった娘への愛情は、叶わなかった高田俊博への恋心の捌け口だったのだと気が付く。
もしかしたら彼女と言う存在は心の中で彼との関係をつなぎ留めておくための道具だったのかもしれない。
そんな風に思っていても目の前で悶えながら泣いている彼女を見ると、自分が「悪魔の様な母親ではないのか?」と感じて正気に戻る事ができた。
「ごめんね……痛かった?
大丈夫?やり過ぎたわ……」
横たわる彼女を起こすと、何度もお腹をさすった。
「ごめん……ごめんね……」
娘に手を上げるなんて……私は最低だ。
それからの日々は自分との闘いで、気持ちが落ち込むたびに結菜を殴ったり蹴ったり、怒鳴る事も頻繁にあった。
暴力を振るった後で我に返ると、ごめんねと謝って彼女の頭を撫でるなどの行動をとる歪な精神状態だったと思う。
病院では「双極性障害」と診断され、家では躁状態とうつ状態を繰り返し続けた。
壁が薄くて隣に声が筒抜けている事は知っていたけれども、もう自分ではどうする事もできない程に狂ってしまったこの感情を抑える事ができなかった……。
生まれてくる子供は親を選ぶ事ができない……。
ごめんね、結菜……。
母親の気持ちを無理に押し付けた不幸な子供として勝手にこの世界に生み、道具の様に扱ってしまった事を本当に申し訳なく思う……。
それから、隣に住んでいる涼香ちゃんは話している感じで言えば「事なかれ主義者」で、争いを好まない傾向にある事が分かっている。
私と結菜が多少うるさくしていても、見て見ぬふりをするだろうし、報復を恐れて、暴力を止めに来たり通報する事はありえないだろう。
相談所の職員がここに来る事があるとするなら、それは結菜が新聞勧誘などの客に助けを求めた場合であると考えられる。
私は別れたくはなかったし寧ろ結婚したいとさえ考えていたけれど、どうやら彼の思い描く未来に私は存在していなかったらしい……。
振られてしまっても、彼に重荷を背負わせたくなかったので妊娠していた事を私から伝える事はなかった。
世間的には「責任」と言う言葉がしばしば用いられるが、子供ができたからと言って好きではなくなってしまった女の所に縛り付けておきたくなかったのだと思う。
しかし私にとって彼女は彼との愛の証であった事もあり、迷った結果出産して一人で育てていく事を決めたのだ。
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そんな言葉を発してしまった瞬間、今まで張り詰めていた糸がプツンと音を立てて切れてしまった様な感覚に襲われ、気が付くと大切だった筈の結菜に暴力を振るっていた。
腹部を力いっぱい殴り、苦しみながら床にうずくまる彼女の横腹を何度も蹴ってしまっている。
「おい起きろ!
こんなので痛がっているふりをすんじゃねーよ……。
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こんな事はダメだと心では分かっていても、もはや溢れてくる衝動を抑える事ができなかった。
大好きだった娘への愛情は、叶わなかった高田俊博への恋心の捌け口だったのだと気が付く。
もしかしたら彼女と言う存在は心の中で彼との関係をつなぎ留めておくための道具だったのかもしれない。
そんな風に思っていても目の前で悶えながら泣いている彼女を見ると、自分が「悪魔の様な母親ではないのか?」と感じて正気に戻る事ができた。
「ごめんね……痛かった?
大丈夫?やり過ぎたわ……」
横たわる彼女を起こすと、何度もお腹をさすった。
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それから、隣に住んでいる涼香ちゃんは話している感じで言えば「事なかれ主義者」で、争いを好まない傾向にある事が分かっている。
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