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9章 虐待とネグレクト
75話 コンビニにて……
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いつもはサービス残業ばかりだったが、その日はたまたま早く終わって仕事帰りにアパート近くのコンビニに立ち寄った。
娘が居るので会社に泊まり込む事だけは避けていたが、たまにはこういう日も無くては身が持たない。
「だから……早く食べないと溶けるぞって……」
駐車場には嬉しそうに二人でアイスを食べる幼いカップルがいる。
年齢的にはうちの結菜と同い年くらいだろうか?
私の初男女交際は大学に入ってからだったので、彼等の様な青春は送っていない……。
だからそんな幸せそうな二人を見ていると何だか腹立たしく思えてくる。
「そうだね……」
彼女はそう返すと、溶けそうになっているアイスを急いで食べた。
あれ?
見れば、よく知っている娘ではないか……。
「あぁ涼香ちゃん、学校帰り?」
アパートで隣の部屋に住んでいる子だ。
母親がこの子を連れて私の所に挨拶に来たのでよく覚えている。
まあ仕事漬けで殆ど空けているらしく、普段家に居るのはこの子だけだが……。
「こんにちは」
基本的に朝から晩まで働き詰めだったけど給料は安く、世間で言うところの貧困生活者だった。
現状では娘を育てられる程の収入がある訳ではなく、状況を児童相談所や市の職員に知られれば育てる事ができないと判断されて、結菜は私から離れて生活する事になるだろう。
でも私にとっては心の支えであり、どうしても必要な存在だったのだ。
誰が何と言おうとも、私は彼女を寵愛している。
秘密を知られないため、近所では一人暮らしの良き隣人と言う仮面を付けて生活してきた。
面倒だがそう言う意味では、知り合いを無視する訳にも行かない。
「涼香ちゃんの彼氏?」
正直私にとってはどうでも良い話題ではあるが、彼女の事を知っておく事で色々と話を合わせられて、良い人物だと思わせる事もできる。
警戒されるよりは、好意的な人間だと思われている方がメリットは大きい。
「そんなんじゃありません!」
ちょっと怒っている様にも見えるが、特に問題がある発言ではない筈だ。
「えーと、知り合い?」
男の子が涼香ちゃんに聞いている。
「この人は沙綾香さん、私の部屋の隣に住んでるお姉さんだよ」
頭を下げる。
「後藤沙綾香です。よろしくね」
自分を良く見せるには、相手の出方を観察するところからだろう。
「こちらこそよろしくお願いします。
俺はクラスメイトの川島誠です」
第一印象は挨拶のできる礼儀正しい男の子と言った感じだろうか。
「ところで誠君、学校での涼香ちゃんはどんな感じよ?」
彼とも仲良くなっておけば、彼女の事を知る情報源になってくれるかもしれない。
「どんな感じと聞かれましても……」
ほんの少し照れている様にも見えるが、彼は涼香ちゃんが好きなのだろうか?
まあ、本人の前で言える話ではないだろうが……。
「涼香ちゃんはね、意外とシャイで人見知りなのよ。
私とこうやって話してくれる様になるまでだって凄く時間がかかったんだから。
でもこんな素敵なお友達が居てくれて、ちょっと安心したよ。
涼香ちゃんをよろしくね……」
彼女は警戒心が強く、こんな風に話せる様になるまでには結構時間がかかってしまった。
ライザでも良く見かけては声をかけたけど、最初のうちは挨拶すらしてくれなかった。
学校でいじめにでもあっている様な……友達の居ない暗い子供と言う印象だった。
今はそんな事もなく明るいし、闇を抱えている様に見えたのは私の思い過ごしだったのだと思う。
彼が良い友達なのは見ていて分かるし、彼女に対しても前の様な暗い感じよりは好感が持てる。
「ちょっと!
恥ずかしいからやめてくださいよ!」
まあ、この年代の子なら友達の前で言われると恥ずかしい内容かもしれないとは思う。
「行こう!」
彼女は彼の腕を掴むと強引に引っ張って、去っていく。
「失礼します……」
別れ際にそう言ってくれるところを見ると彼に敵とは見なされなかった様だ。
「もう~。つれないなぁ……」
本来の自分ではないキャラを演じるのは疲れる。
そう思いながら時計を確認すると、そろそろライザの惣菜コーナーで半額シールを貼り始める時間だった。
コンビニで涼香ちゃんに会って時間は少しロスしたものの、今から行っても間に合うだろう。
娘が居るので会社に泊まり込む事だけは避けていたが、たまにはこういう日も無くては身が持たない。
「だから……早く食べないと溶けるぞって……」
駐車場には嬉しそうに二人でアイスを食べる幼いカップルがいる。
年齢的にはうちの結菜と同い年くらいだろうか?
私の初男女交際は大学に入ってからだったので、彼等の様な青春は送っていない……。
だからそんな幸せそうな二人を見ていると何だか腹立たしく思えてくる。
「そうだね……」
彼女はそう返すと、溶けそうになっているアイスを急いで食べた。
あれ?
見れば、よく知っている娘ではないか……。
「あぁ涼香ちゃん、学校帰り?」
アパートで隣の部屋に住んでいる子だ。
母親がこの子を連れて私の所に挨拶に来たのでよく覚えている。
まあ仕事漬けで殆ど空けているらしく、普段家に居るのはこの子だけだが……。
「こんにちは」
基本的に朝から晩まで働き詰めだったけど給料は安く、世間で言うところの貧困生活者だった。
現状では娘を育てられる程の収入がある訳ではなく、状況を児童相談所や市の職員に知られれば育てる事ができないと判断されて、結菜は私から離れて生活する事になるだろう。
でも私にとっては心の支えであり、どうしても必要な存在だったのだ。
誰が何と言おうとも、私は彼女を寵愛している。
秘密を知られないため、近所では一人暮らしの良き隣人と言う仮面を付けて生活してきた。
面倒だがそう言う意味では、知り合いを無視する訳にも行かない。
「涼香ちゃんの彼氏?」
正直私にとってはどうでも良い話題ではあるが、彼女の事を知っておく事で色々と話を合わせられて、良い人物だと思わせる事もできる。
警戒されるよりは、好意的な人間だと思われている方がメリットは大きい。
「そんなんじゃありません!」
ちょっと怒っている様にも見えるが、特に問題がある発言ではない筈だ。
「えーと、知り合い?」
男の子が涼香ちゃんに聞いている。
「この人は沙綾香さん、私の部屋の隣に住んでるお姉さんだよ」
頭を下げる。
「後藤沙綾香です。よろしくね」
自分を良く見せるには、相手の出方を観察するところからだろう。
「こちらこそよろしくお願いします。
俺はクラスメイトの川島誠です」
第一印象は挨拶のできる礼儀正しい男の子と言った感じだろうか。
「ところで誠君、学校での涼香ちゃんはどんな感じよ?」
彼とも仲良くなっておけば、彼女の事を知る情報源になってくれるかもしれない。
「どんな感じと聞かれましても……」
ほんの少し照れている様にも見えるが、彼は涼香ちゃんが好きなのだろうか?
まあ、本人の前で言える話ではないだろうが……。
「涼香ちゃんはね、意外とシャイで人見知りなのよ。
私とこうやって話してくれる様になるまでだって凄く時間がかかったんだから。
でもこんな素敵なお友達が居てくれて、ちょっと安心したよ。
涼香ちゃんをよろしくね……」
彼女は警戒心が強く、こんな風に話せる様になるまでには結構時間がかかってしまった。
ライザでも良く見かけては声をかけたけど、最初のうちは挨拶すらしてくれなかった。
学校でいじめにでもあっている様な……友達の居ない暗い子供と言う印象だった。
今はそんな事もなく明るいし、闇を抱えている様に見えたのは私の思い過ごしだったのだと思う。
彼が良い友達なのは見ていて分かるし、彼女に対しても前の様な暗い感じよりは好感が持てる。
「ちょっと!
恥ずかしいからやめてくださいよ!」
まあ、この年代の子なら友達の前で言われると恥ずかしい内容かもしれないとは思う。
「行こう!」
彼女は彼の腕を掴むと強引に引っ張って、去っていく。
「失礼します……」
別れ際にそう言ってくれるところを見ると彼に敵とは見なされなかった様だ。
「もう~。つれないなぁ……」
本来の自分ではないキャラを演じるのは疲れる。
そう思いながら時計を確認すると、そろそろライザの惣菜コーナーで半額シールを貼り始める時間だった。
コンビニで涼香ちゃんに会って時間は少しロスしたものの、今から行っても間に合うだろう。
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