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8章 学生の恋事情
73話 海岸の祠
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「高田さんに人生を変えるきっかけをもらえます様に……」
祠の前に千円札を置いて、手を合わせる。
将来の夢もやりたい事も、もっと言うなら趣味も好きな事も何もない私は空っぽの人間だ。
嫌いだった自分も、彼と出会えて何かが変えられそうな気がした。
あの美味しいと感じたホットドッグがそんな予感をさせてくれる。
「だから何でそんな人任せなのよ?」
美穂が質問してきたが、自分に自信がないのだから抽象的なお願い事でも仕方がないじゃないかと思ってしまう。
それに、これは「人任せ」ではなく「神頼み」だ。
「私にはこんなお願い事をするのが精一杯なの……。
自分から一歩踏み出そうとしているだけでも褒めて欲しいくらいだよ。
まあ、こんな事ができているのは美穂のおかげだし、感謝もしているけどね……」
休日、美穂に大学近くの海に呼び出されたが、彼女は寝坊して一時間程遅れてきた。
その時先に着いた私が時間を潰すために海岸を歩いていると、不思議な洞窟を発見した。
もしや学食でカップルが噂していた「海岸の何処かにある願いが何でも叶う洞窟」なのではないかと一瞬思ってしまう。
男の方は「都市伝説」と言っていたし、仮に実在していたとしても、こんな簡単に見つけられる筈はないだろう。
そんな事を考えていた時に丁度、
「ごめん、私が呼び出したのに遅れちゃって……」
と言いながら彼女は私の方へ走ってきた。
「良いよ、別に気にしてないし……。
それに海は好きだしさ……」
今日は一日中暇だったから彼女の誘いを受けたけど、何故呼び出されたんだろうか?
「嬉しそうだけど、何か面白い事でもあったの?」
先ほど見つけた不思議な洞窟の方を指差した。
「ああ……それがね、アレなんだけど」
流石にあの噂が本当だとは思わないけど、少し気になっていた。
「洞窟?……それがどうかしたの?
てか、あんなのあった?」
やはり彼女の記憶にもないらしい。
「私もここにはよく来ていたけど、初めて見たんだよ。
記憶にないって言うか……。
実在しているとは思わないけど、この前学食でカップルが噂してた都市伝説に似てるなと思って……」
そんな話を信じた訳ではなかったけど、実際目の前にこれではないかと思うものがあるのだから入ってみたくはなる。
「都市伝説?」
いつも大学で話していて思うけど、彼女はそう言う噂話とかオカルト的な話が好きなのだ。
「大学近くの海岸の何処かに凄く変な形の洞窟があるって言う話。
確か一番奥に古い祠があって、祈ればどんな願い事も叶うと言ってた……。
普段は海水が満ちていて見つけられないらしいけど、急に潮が引いて中に入れる様になるとか……なんとか。
そんなの嘘くさいよね?」
笑い話にするつもりで言ってみた。
「それって、本当だったら面白いよね?
入ってみようか……」
彼女は何故こんなにも乗り気なのだろうか?
「まあ、少しだけなら良いけど……」
近付いてみると中はかなり広い事が分かった。
今は普通に入れるが、海水が通った後がある。
もしかすると、あのカップルが噂していた話は本当にここなのかもしれない。
「あったよ、古い祠!」
私よりも早くどんどん奥に入っていった彼女が先に見つけた。
「それで、何を祈るの?」
何も考えていなかったので彼女に聞いてみる。
「は?何言ってるの?
あんたの恋愛成就に決まってるでしょ……」
え?
「それ、マジで言ってる?」
「当たり前でしょ……こう言うのはノリが大事なんだから、恥ずかしがらずに高田さんの事をお願いしとけば良いんだよ」
彼女は少し強引で、言い出したら聞かないタイプの人間だ。
「分かったよ……」
ため息をついて、しぶしぶ承諾する。
と言っても、せっかくお願いをするなら賽銭は必要だと思って財布を開ける。
「あ、小銭がない……」
来る時に寄ったライザの会計が一円単位までピッタリだった事を思い出した。
仕方なく千円札を出す。
「あんた千円って、それガチな奴じゃん……」
今からお願い事をしようと言うのに、小銭がないからと言って賽銭をケチるのも何だか違うと思ったからだ。
「仕方がないでしょ、小銭がないんだから……」
彼女は鞄から財布を取り出した。
「言ってくれれば、小銭くらいあげるよ」
私は彼女の手をおさえて、お金を出させるのを阻止した。
「いや……私がお願いするんだから、これで良いんだよ。
それに、本当に神の力って言うのが噂通りなら、お札を使った方がご利益ありそうだしね……」
人のお金で祈ってしまったら、ご利益が薄れる気がした。
「まあ、あんたがそれでいいなら文句はないけど……」
そんなやり取りがあった後、私は千円札で祈ってみたのだが、実際に効果があるのかは後になってみないと分からない。
祠の前に千円札を置いて、手を合わせる。
将来の夢もやりたい事も、もっと言うなら趣味も好きな事も何もない私は空っぽの人間だ。
嫌いだった自分も、彼と出会えて何かが変えられそうな気がした。
あの美味しいと感じたホットドッグがそんな予感をさせてくれる。
「だから何でそんな人任せなのよ?」
美穂が質問してきたが、自分に自信がないのだから抽象的なお願い事でも仕方がないじゃないかと思ってしまう。
それに、これは「人任せ」ではなく「神頼み」だ。
「私にはこんなお願い事をするのが精一杯なの……。
自分から一歩踏み出そうとしているだけでも褒めて欲しいくらいだよ。
まあ、こんな事ができているのは美穂のおかげだし、感謝もしているけどね……」
休日、美穂に大学近くの海に呼び出されたが、彼女は寝坊して一時間程遅れてきた。
その時先に着いた私が時間を潰すために海岸を歩いていると、不思議な洞窟を発見した。
もしや学食でカップルが噂していた「海岸の何処かにある願いが何でも叶う洞窟」なのではないかと一瞬思ってしまう。
男の方は「都市伝説」と言っていたし、仮に実在していたとしても、こんな簡単に見つけられる筈はないだろう。
そんな事を考えていた時に丁度、
「ごめん、私が呼び出したのに遅れちゃって……」
と言いながら彼女は私の方へ走ってきた。
「良いよ、別に気にしてないし……。
それに海は好きだしさ……」
今日は一日中暇だったから彼女の誘いを受けたけど、何故呼び出されたんだろうか?
「嬉しそうだけど、何か面白い事でもあったの?」
先ほど見つけた不思議な洞窟の方を指差した。
「ああ……それがね、アレなんだけど」
流石にあの噂が本当だとは思わないけど、少し気になっていた。
「洞窟?……それがどうかしたの?
てか、あんなのあった?」
やはり彼女の記憶にもないらしい。
「私もここにはよく来ていたけど、初めて見たんだよ。
記憶にないって言うか……。
実在しているとは思わないけど、この前学食でカップルが噂してた都市伝説に似てるなと思って……」
そんな話を信じた訳ではなかったけど、実際目の前にこれではないかと思うものがあるのだから入ってみたくはなる。
「都市伝説?」
いつも大学で話していて思うけど、彼女はそう言う噂話とかオカルト的な話が好きなのだ。
「大学近くの海岸の何処かに凄く変な形の洞窟があるって言う話。
確か一番奥に古い祠があって、祈ればどんな願い事も叶うと言ってた……。
普段は海水が満ちていて見つけられないらしいけど、急に潮が引いて中に入れる様になるとか……なんとか。
そんなの嘘くさいよね?」
笑い話にするつもりで言ってみた。
「それって、本当だったら面白いよね?
入ってみようか……」
彼女は何故こんなにも乗り気なのだろうか?
「まあ、少しだけなら良いけど……」
近付いてみると中はかなり広い事が分かった。
今は普通に入れるが、海水が通った後がある。
もしかすると、あのカップルが噂していた話は本当にここなのかもしれない。
「あったよ、古い祠!」
私よりも早くどんどん奥に入っていった彼女が先に見つけた。
「それで、何を祈るの?」
何も考えていなかったので彼女に聞いてみる。
「は?何言ってるの?
あんたの恋愛成就に決まってるでしょ……」
え?
「それ、マジで言ってる?」
「当たり前でしょ……こう言うのはノリが大事なんだから、恥ずかしがらずに高田さんの事をお願いしとけば良いんだよ」
彼女は少し強引で、言い出したら聞かないタイプの人間だ。
「分かったよ……」
ため息をついて、しぶしぶ承諾する。
と言っても、せっかくお願いをするなら賽銭は必要だと思って財布を開ける。
「あ、小銭がない……」
来る時に寄ったライザの会計が一円単位までピッタリだった事を思い出した。
仕方なく千円札を出す。
「あんた千円って、それガチな奴じゃん……」
今からお願い事をしようと言うのに、小銭がないからと言って賽銭をケチるのも何だか違うと思ったからだ。
「仕方がないでしょ、小銭がないんだから……」
彼女は鞄から財布を取り出した。
「言ってくれれば、小銭くらいあげるよ」
私は彼女の手をおさえて、お金を出させるのを阻止した。
「いや……私がお願いするんだから、これで良いんだよ。
それに、本当に神の力って言うのが噂通りなら、お札を使った方がご利益ありそうだしね……」
人のお金で祈ってしまったら、ご利益が薄れる気がした。
「まあ、あんたがそれでいいなら文句はないけど……」
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