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8章 学生の恋事情
71話 恋愛相談
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ウォーターサーバーからセルフの水を二杯分汲み、席に戻ってみると彼女は何だか静かだった。
「噂なんだけどね、この大学近くの海岸の何処かに凄い変な形の洞窟があるらしいんだ……。
海水が溜まっていて外からは見つけられないし、中にも入る事ができないんだけど、急に潮が引いて入れる様になる時があるらしいんだよね。
その一番奥にはかなり古い祠があって、祈れば願い事を何でも叶えてくれるんだって……」
「なんだよ、その話……嘘くさいな。
都市伝説かなんかだろ?
お前、そんな話を信じているのか?」
隣のテーブルでカップルがそんな訳の分からない噂をしていたが、中高生が喜びそうな話だと思って笑いそうになってしまう。
話自身は少し興味深かったけど、大学生が真剣に考える様な内容ではない。
そもそも「海岸の何処か」って凄く曖昧だ。
「そんな都市伝説みたいな話なんてある訳ないよね?」
隣で話している人達に聞こえない様な小声で美穂にこっそりと言ってみたが、殆ど反応はなかった。
「昨日はちょっと言い過ぎたよ……ごめん」
いつもの様な明るさが消えているし、そんな真面目に謝られると何も言えない。
「気にしないでよ……。
重い女なのは事実だしさ……。
それより、さめないうちに食べよう」
明るい性格だから心配はいらないと思うけど、空気が重くならない様に何か話さなくてはならないだろう。
「と言うか何なのよ、さっきのアレ?
いきなり連絡先聞くとか……」
和ませようとした空気が余計に重くなったのが分かった。
「いや、そうじゃなくてさぁ……。
高田さんと話す沙綾香の表情が、元カレの話をしていた時に似ていたから……。
彼とあんたが連絡先を交換できる様にしたんだ。
振られた事を引きずって臆病になってるんじゃないかと思って……。
早く次の恋にすすめられる方が良いでしょ?」
お節介な子だと思いながら苦笑いする。
「ありがとう……」
スプーンでカレーを一口食べると、昨日の美味しかったホットドッグを思い出してしまう。
「なんて言うか……かなりキツイ事言っちゃったし、沙綾香が大切にしていたネックレス引きちぎっちゃったし……。
申し訳なかったと思ってるんだ」
最初は私が振られたと言う話を聞いて楽しんでいるだけかと思っていたけど、本当は優しい子なんだなと分かって、もう少し自分の事を話してみても大丈夫なんじゃないかと思った。
「付き合っていた時、彼氏が幸せかどうかなんて考えた事はなかったんだよね……。
好きだと言い続けて追いかけるばかりで、自分の想いだけだった……。
美穂が言った「彼氏最優先の予定」も「合わせていた興味のない話」も全部自分の為で、彼の事なんて何も考えてなかったんだと思う。
好きになってもらえない自分なんて、自分じゃないと決めつけていたし「私を好きになってよ!」っていう気持ちを彼に押し付けていただけなんじゃないかと感じるんだ……。
だから「重すぎ」と言う言葉は正しいし、気になる人が新しくできても、それを認めるのって凄く難しいんだなって分かったよ……。
ずっと好きだった人に振られてさ、傷付いたからと言って直ぐに別の誰かとそう言う関係になるのってなんだか違うんじゃないかって感じるんだよね……。
好きじゃなくても、優しくしてくれれば誰でも良かったのかって……そう疑ってしまう自分がいるんだ……」
長々と自分の恋愛観を語ってしまって、面倒な奴だと思われただろうか?
でもこれが私だから、それで嫌われると言うのなら仕方のない事だろう。
「だいたい皆そんなもんじゃないのかな?
今は彼氏も好きな人も居ないけど、高校で失恋した時は同じ気持ちだったよ。
恋は失恋の特効薬だと思うし、そんな風に硬く考えなくても良いんじゃないかな……。
高田さんの事が気になるなら、ちゃんと気持ちを伝えた方が良いと思うよ?」
前の人は、向こうから好きだと伝えてくれたから私でも良い付き合いができたけど、基本的に自分に自信がないのだ。
「でも、最近知り合ったばかりだし……」
下を向いたままそんな事を言って、スプーンでカレーを口に運ぶ。
「そんなの関係ないでしょ?
ぐずぐずしてて他の女に取られてからでは遅いんだから!」
彼女はコップの水を一気に飲み干し、強くテーブルに置く。
「噂なんだけどね、この大学近くの海岸の何処かに凄い変な形の洞窟があるらしいんだ……。
海水が溜まっていて外からは見つけられないし、中にも入る事ができないんだけど、急に潮が引いて入れる様になる時があるらしいんだよね。
その一番奥にはかなり古い祠があって、祈れば願い事を何でも叶えてくれるんだって……」
「なんだよ、その話……嘘くさいな。
都市伝説かなんかだろ?
お前、そんな話を信じているのか?」
隣のテーブルでカップルがそんな訳の分からない噂をしていたが、中高生が喜びそうな話だと思って笑いそうになってしまう。
話自身は少し興味深かったけど、大学生が真剣に考える様な内容ではない。
そもそも「海岸の何処か」って凄く曖昧だ。
「そんな都市伝説みたいな話なんてある訳ないよね?」
隣で話している人達に聞こえない様な小声で美穂にこっそりと言ってみたが、殆ど反応はなかった。
「昨日はちょっと言い過ぎたよ……ごめん」
いつもの様な明るさが消えているし、そんな真面目に謝られると何も言えない。
「気にしないでよ……。
重い女なのは事実だしさ……。
それより、さめないうちに食べよう」
明るい性格だから心配はいらないと思うけど、空気が重くならない様に何か話さなくてはならないだろう。
「と言うか何なのよ、さっきのアレ?
いきなり連絡先聞くとか……」
和ませようとした空気が余計に重くなったのが分かった。
「いや、そうじゃなくてさぁ……。
高田さんと話す沙綾香の表情が、元カレの話をしていた時に似ていたから……。
彼とあんたが連絡先を交換できる様にしたんだ。
振られた事を引きずって臆病になってるんじゃないかと思って……。
早く次の恋にすすめられる方が良いでしょ?」
お節介な子だと思いながら苦笑いする。
「ありがとう……」
スプーンでカレーを一口食べると、昨日の美味しかったホットドッグを思い出してしまう。
「なんて言うか……かなりキツイ事言っちゃったし、沙綾香が大切にしていたネックレス引きちぎっちゃったし……。
申し訳なかったと思ってるんだ」
最初は私が振られたと言う話を聞いて楽しんでいるだけかと思っていたけど、本当は優しい子なんだなと分かって、もう少し自分の事を話してみても大丈夫なんじゃないかと思った。
「付き合っていた時、彼氏が幸せかどうかなんて考えた事はなかったんだよね……。
好きだと言い続けて追いかけるばかりで、自分の想いだけだった……。
美穂が言った「彼氏最優先の予定」も「合わせていた興味のない話」も全部自分の為で、彼の事なんて何も考えてなかったんだと思う。
好きになってもらえない自分なんて、自分じゃないと決めつけていたし「私を好きになってよ!」っていう気持ちを彼に押し付けていただけなんじゃないかと感じるんだ……。
だから「重すぎ」と言う言葉は正しいし、気になる人が新しくできても、それを認めるのって凄く難しいんだなって分かったよ……。
ずっと好きだった人に振られてさ、傷付いたからと言って直ぐに別の誰かとそう言う関係になるのってなんだか違うんじゃないかって感じるんだよね……。
好きじゃなくても、優しくしてくれれば誰でも良かったのかって……そう疑ってしまう自分がいるんだ……」
長々と自分の恋愛観を語ってしまって、面倒な奴だと思われただろうか?
でもこれが私だから、それで嫌われると言うのなら仕方のない事だろう。
「だいたい皆そんなもんじゃないのかな?
今は彼氏も好きな人も居ないけど、高校で失恋した時は同じ気持ちだったよ。
恋は失恋の特効薬だと思うし、そんな風に硬く考えなくても良いんじゃないかな……。
高田さんの事が気になるなら、ちゃんと気持ちを伝えた方が良いと思うよ?」
前の人は、向こうから好きだと伝えてくれたから私でも良い付き合いができたけど、基本的に自分に自信がないのだ。
「でも、最近知り合ったばかりだし……」
下を向いたままそんな事を言って、スプーンでカレーを口に運ぶ。
「そんなの関係ないでしょ?
ぐずぐずしてて他の女に取られてからでは遅いんだから!」
彼女はコップの水を一気に飲み干し、強くテーブルに置く。
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