孤独の恩送り

西岡咲貴

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8章 学生の恋事情

70話 新たなる恋の始まり

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「おはようございます、高田さん。
 昨日のホットドッグ凄く美味しかったです。
 ごちそうさまでした。
 あれは是非メニューにしてください」

 例の喫茶店に行った翌日、午前の講義を終えて学食の列に並ぼうとした時に彼を見かけて挨拶をした。

「ああ、おはようございます。
 気に入ってくれたのなら良かったです。
 メニューにできる様に頑張りますね」

 挨拶されるとは思っていなかったのか、少しびっくりしている様だった。

 私が上回生の間で有名だと言うのが嘘なのか本当なのかは分からない。

「沙綾香、おはよう。えーと、彼は?」

 美穂がいつもの様に話しかけてきた。

 講義は選択科目だったので、午前は彼女と別だったのだ。

「理学部二年の高田俊博です。後藤さんとはいくつか同じ講義を取っている様で……」

 私の知り合いに上回生がいる事が不思議だったのかもしれない。

「同学部の先輩だったんですね……。
 すいません、ご丁寧にどうも。
 私は彼女と同じ理学部一年の五十嵐美穂いがらしみほです。
 よろしくお願いします」

 二人はお互いに自己紹介した。

「あの……すいません高田さん、私達まだ一年ですし大学の事とか分からない事だらけなんです。
 先輩に色々聞きたい事があるのですが、良かったら連絡先とかって教えてもらっても良いでしょうか?」

 彼女はちゃっかりしている。

 かっこいい先輩と知り合えたのだから、少しでもお近付きになろうと言う事だろうか?

「構いませんよ」

 彼はズボンの右ポケットから携帯を取り出し、普通に連絡先を交換してくれた。

「私も良いですか?」

 乗り遅れない様に私も便乗しておかなければ……。

「ええ、勿論……」

 何だろう、少し驚いている様な顔をしていた。

 自分の事を美人だと言うつもりは無いのだけど、仮に有名人だと言う話が本当だったとしたら、それが原因なのかもしれない。

「二人とも、また何かありましたら気軽にメッセージくださいね……」

 彼はカツ丼を注文すると、私達に頭を下げて学食の奥の方に消えていった。

「ありがとうございます」

 これで、課題や昨年のテスト問題など単位の取得に少し有利になるかもしれない。

「すいません、カツ丼一つお願いします。沙綾香は?」

 自分達の注文する番がきた様だ。

「カツカレーをお願いします」

 昨日はあんな状態であまり味わって食べる事ができなかったので、今日も同じメニューにする。

「カツ丼とカツカレーね、はいよ!」

 キッチンの奥からオーダーが通ったと言う注文の復唱が聞こえてくる。

 会計を済ませ、空いている席に鞄を置く。

「水いるよね?取って来る……」
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