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8章 学生の恋事情
68話 一恋の最後
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美穂と別れた大学からの帰り道、小さな橋の上で川を眺めてぼーっとしている。
好きだったものや人が急に目の前から消えてしまうと言うのは本当に辛いのだなぁと改めて感じる。
将来の夢もやりたい事も、夢中になれる事さえもない私は、男に捨てられてしまえば本当に何も残っていない空っぽな人間だったのだと思う。
この大学だって高校の時にたまたま推薦がもらえたので受験をしたら受かってしまっただけで、何か目標や目指すものがあった訳ではない。
強いて言うなら、大学を卒業しておけば就職に有利ではないかと思ったからここに居るだけなのだ。
入学後に仲良くなった友達からコンパに誘われた。
彼氏と言う存在はそこで知り合った他大の男の子に交際を申し込まれたのがきっかけだった。
男女交際の経験はこれまで一度もなかった事もあって、そんな風に言われた事が凄く嬉しかったのを覚えている。
最初は彼の事を特に何とも思っていなかったけど、こんな私の事を好きになってくれる人が本当に居るのかと思うと悪い気はしなかった。
せっかく好きだと言ってくれたのだから、私もそれに応えなくてはならない……と、そう思ってしまったのが失敗の始まりだったのかもしれない。
指摘された通り予定を彼氏優先にし、趣味を合わせ、お弁当を毎日手作りした。
料理の味付けだって、気に入ってもらえるように彼好みに少しずつ合わせて行った。
しかしそんな事をしているうちに、恋と言う名のかなり重い難病にかかってしまっていたのだと思う。
気が付けば朝起きて夜寝るまで、ずっと彼の事が頭から離れない程に好きで好きで、仕方がなくなっていた。
でもそんな日々は長くは続かない。
「ごめん沙綾香、俺好きな子ができたんだ……」
急にそんな事を言われて、最初はたちの悪い冗談か何かかと思ったけど、今思えば美穂の言う通り私は重い女だったのかもしれない。
切れたネックレスを鞄から取り出して、見ていると全てがどうでもよく思えてきた。
ハートの形をしていた部分は真っ二つに割れていて、今の心を表している様だ。
「冷たっ!」
急に激しい雨が降ってきて空を見上げる。
でも傘を持っていないので、濡れる事しかできなかった。
何だか凄く惨めだ……。
ずっと何者かになりたいのだと感じていた。
特別な才能や人より優れている事がなかった私は彼に好きだと言われて、全てを肯定してもらえたのだと舞い上がっていたのかもしれない。
「重すぎなんだよね……」と言う美穂の言葉が私の心に突き刺さって、何だか泣けてくる。
袖で涙を拭こうとした時、手から滑るそのネックレスは川に落ちていく。
捨てる気なんてなかったけど、ある意味で良い機会だったのかもしれない。
私にとっては「呪いのネックレス」なのだから。
「ああー、大学辞めようかな……」
もう私の事を想ってくれる人は誰も居ないのだと考えると何だか凄く寂しい。
冷たい雨は頭を冷やすのに丁度良かったけど、このままでは体温も下がって風邪を引いてしまう。
とりあえず雨宿りの意味も込めて、近くに看板が出ていた「辻本」と言う喫茶店に入ってみる事にした。
好きだったものや人が急に目の前から消えてしまうと言うのは本当に辛いのだなぁと改めて感じる。
将来の夢もやりたい事も、夢中になれる事さえもない私は、男に捨てられてしまえば本当に何も残っていない空っぽな人間だったのだと思う。
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強いて言うなら、大学を卒業しておけば就職に有利ではないかと思ったからここに居るだけなのだ。
入学後に仲良くなった友達からコンパに誘われた。
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最初は彼の事を特に何とも思っていなかったけど、こんな私の事を好きになってくれる人が本当に居るのかと思うと悪い気はしなかった。
せっかく好きだと言ってくれたのだから、私もそれに応えなくてはならない……と、そう思ってしまったのが失敗の始まりだったのかもしれない。
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しかしそんな事をしているうちに、恋と言う名のかなり重い難病にかかってしまっていたのだと思う。
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でもそんな日々は長くは続かない。
「ごめん沙綾香、俺好きな子ができたんだ……」
急にそんな事を言われて、最初はたちの悪い冗談か何かかと思ったけど、今思えば美穂の言う通り私は重い女だったのかもしれない。
切れたネックレスを鞄から取り出して、見ていると全てがどうでもよく思えてきた。
ハートの形をしていた部分は真っ二つに割れていて、今の心を表している様だ。
「冷たっ!」
急に激しい雨が降ってきて空を見上げる。
でも傘を持っていないので、濡れる事しかできなかった。
何だか凄く惨めだ……。
ずっと何者かになりたいのだと感じていた。
特別な才能や人より優れている事がなかった私は彼に好きだと言われて、全てを肯定してもらえたのだと舞い上がっていたのかもしれない。
「重すぎなんだよね……」と言う美穂の言葉が私の心に突き刺さって、何だか泣けてくる。
袖で涙を拭こうとした時、手から滑るそのネックレスは川に落ちていく。
捨てる気なんてなかったけど、ある意味で良い機会だったのかもしれない。
私にとっては「呪いのネックレス」なのだから。
「ああー、大学辞めようかな……」
もう私の事を想ってくれる人は誰も居ないのだと考えると何だか凄く寂しい。
冷たい雨は頭を冷やすのに丁度良かったけど、このままでは体温も下がって風邪を引いてしまう。
とりあえず雨宿りの意味も込めて、近くに看板が出ていた「辻本」と言う喫茶店に入ってみる事にした。
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